18 / 26
そうか田中が居たか……
しおりを挟む
浮田はあのお昼の出来事から、集中力が低下しているようだ。スマホで「同期は恋愛対象?」と何度も検索している。そして何故か西浦さんと田中の関係を想像しては落ち込んみ下を向く。
同期というものは繋がりが強いもので、入社してからの泊まりがけの研修や飲み会なので仲を深めていく。同期同士の結婚もよくあることだ。三課の森課長も同期との結婚だった。
「すっかりと見落としていた。そうか田中が居たか……」
西浦さんは冷たそうな外見の所為で、男子社員からは「怖そう」と避けられている様子だった。このご時世でも平気でセクハラ発言をする上層部からも、「彼女には注意」と発言に気を付けて声を掛けられている。だからこそ、悪い虫はいないと思っていたが……。
――そうか! 田中は天然だ。きっとズケズケと西浦さんのプライベートに踏み入っていくのだろう。くぅ……、羨ましい!
「浮田課長、M社の見積書なのですが。私が作成しました物で大丈夫なのかご確認頂けますか? 課長に指摘された場所は変更していますが……」
「え? M社……? あ、ごめん! 今からやります……」
浮田は見積書のことをすっかりと忘れていた。M社は何かと面倒な取引先だというのに。
――ああ、西浦さんが冷たい目で俺を見ているじゃないか。その視線で身体が火照っていくのがわかる。駄目だ! あの視線は俺だけのものにしないと……。田中には渡さない!
浮田が慌ててM社の見積もりを仕上げていると、西浦さんが田中の席に移動した。
「ねえ、田中君……」
親密そうに田中に近づいて話している様子を、浮田は歯ぎしりを立てるようにして見つめていた。 もっとハッキリと様子を伺いたい。しかし席からではよく見えない。そうだ、コピー機の辺りに移動して……。
――あ、ちょっと! そんなに近づいて、あぁぁぁ!
浮田は心の中で大絶叫をしていた。二人の顔が近づいて、キ……キスをしたような。
――嘘だろう? ここは社内だぞ! いや、しかし。ドラマではよくあるシチュエーションだ。社内恋愛中の男女が書類で顔を隠してチュってやつだ。
「浮田課長! どうしましたか?」
「え……、今……き、キ!」
「キ? え? 何ですか?」
浮田は驚いた。田中の側に居たはずの西浦さんが、何故か目の前に居る。どうやら手に持っていた書類を派手に床にまき散らしていたらしい。
「何でも無い……」
浮田は自分の動揺を隠すために散らばった書類を無言で拾い集める。西浦さんも一緒になって拾ってくれた。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。
すると同時に一枚の紙を拾い上げて偶然にも手が触れてしまう。西浦さんは「す、すみません!」と手を離すが、浮田は思わず彼女の手を掴む。この際、セクハラ問題には目を瞑って。
「……きょ、今日の就業後の予定は?」
「え……? きょ、今日ですか? 今日は……残業の予定ですが」
浮田はつい「チッ」と舌打ちしていた。しまった悪印象を与えてしまうと西浦さんを見たが、何故だか顔を可愛く歪ませてほくそ笑んでいる。
「分かった……。待つから」
浮田はそう言って、拾った紙と共に恥ずかしさから、一目散にその場を直ぐに離れて行くのだった。
同期というものは繋がりが強いもので、入社してからの泊まりがけの研修や飲み会なので仲を深めていく。同期同士の結婚もよくあることだ。三課の森課長も同期との結婚だった。
「すっかりと見落としていた。そうか田中が居たか……」
西浦さんは冷たそうな外見の所為で、男子社員からは「怖そう」と避けられている様子だった。このご時世でも平気でセクハラ発言をする上層部からも、「彼女には注意」と発言に気を付けて声を掛けられている。だからこそ、悪い虫はいないと思っていたが……。
――そうか! 田中は天然だ。きっとズケズケと西浦さんのプライベートに踏み入っていくのだろう。くぅ……、羨ましい!
「浮田課長、M社の見積書なのですが。私が作成しました物で大丈夫なのかご確認頂けますか? 課長に指摘された場所は変更していますが……」
「え? M社……? あ、ごめん! 今からやります……」
浮田は見積書のことをすっかりと忘れていた。M社は何かと面倒な取引先だというのに。
――ああ、西浦さんが冷たい目で俺を見ているじゃないか。その視線で身体が火照っていくのがわかる。駄目だ! あの視線は俺だけのものにしないと……。田中には渡さない!
浮田が慌ててM社の見積もりを仕上げていると、西浦さんが田中の席に移動した。
「ねえ、田中君……」
親密そうに田中に近づいて話している様子を、浮田は歯ぎしりを立てるようにして見つめていた。 もっとハッキリと様子を伺いたい。しかし席からではよく見えない。そうだ、コピー機の辺りに移動して……。
――あ、ちょっと! そんなに近づいて、あぁぁぁ!
浮田は心の中で大絶叫をしていた。二人の顔が近づいて、キ……キスをしたような。
――嘘だろう? ここは社内だぞ! いや、しかし。ドラマではよくあるシチュエーションだ。社内恋愛中の男女が書類で顔を隠してチュってやつだ。
「浮田課長! どうしましたか?」
「え……、今……き、キ!」
「キ? え? 何ですか?」
浮田は驚いた。田中の側に居たはずの西浦さんが、何故か目の前に居る。どうやら手に持っていた書類を派手に床にまき散らしていたらしい。
「何でも無い……」
浮田は自分の動揺を隠すために散らばった書類を無言で拾い集める。西浦さんも一緒になって拾ってくれた。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。
すると同時に一枚の紙を拾い上げて偶然にも手が触れてしまう。西浦さんは「す、すみません!」と手を離すが、浮田は思わず彼女の手を掴む。この際、セクハラ問題には目を瞑って。
「……きょ、今日の就業後の予定は?」
「え……? きょ、今日ですか? 今日は……残業の予定ですが」
浮田はつい「チッ」と舌打ちしていた。しまった悪印象を与えてしまうと西浦さんを見たが、何故だか顔を可愛く歪ませてほくそ笑んでいる。
「分かった……。待つから」
浮田はそう言って、拾った紙と共に恥ずかしさから、一目散にその場を直ぐに離れて行くのだった。
10
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
玖羽 望月
恋愛
親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。
なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。
そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。
が、それがすでに間違いの始まりだった。
鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才
何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。
皆上 龍【みなかみ りょう】 33才
自分で一から始めた会社の社長。
作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。
初出はエブリスタにて。
2023.4.24〜2023.8.9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる