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52 私の隣はディアマンテの指定席
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ドサリと大きな音を立てて、特大の麻袋に入っていたディアマンテが高級絨毯の上に転がっていく。しかしピクリとも動かない身体はまるで屍のようだ。
ルーチェの処遇をパブロに任せたカルロスは、ディアマンテを公爵夫人の屋敷へと馬車で運ぶ。緑のロープで拘束しなくても、全く反抗しない身体は、いとも簡単に運ぶことができたが、何せ大きいので数人の男達によって屋敷の中に運搬することになった。
「どうしてこのゴーレムは屍のように動かないの? 街で見たときは、人間のように動いていたのに!」
「分かりません……。捕まえてから暫くしたら動かなくなったのです。まるであの魔女から離れたら停止するような――」
「それはどういうこと? 他の性玩具のゴーレムではそんなことはなかったわ! で、その魔女は……?」
「奴隷商人に売り渡すことになっています。もう、今頃は……」
「そう、その売り上げも貴方達にあげるわ。しかし、このゴーレムはどうしてこんなに人間と大差ないのかしら?」
「く、詳しくは分かりませんが、ここにいる他のゴーレムはタダの腰を振るだけの人形ですが、コイツはかなり独立した人格を持っています。外見も人間と変わりない……。俺たちでさえ、コイツがゴーレムだとは信じられなかった。きっと魔女が何か大掛かりな魔法を使ったとしか……」
公爵夫人の秘密の部屋には人型ゴーレムが既に何体か置いてあるが、ディアマンテに比べてかなり品質が劣っているようだった。正しくマネキンといったところだ。
そのマネキン達に比べて、美しい銀髪とダイヤモンドのように光る瞳を持つ美丈夫なディアマンテは、性玩具のゴーレムとしては予想以上の存在であり、公爵夫人は身体の中で煮えたぎる性欲を押さえることができない。熱い吐息を何度も吐きだす。
ディアマンテを初めて見たときから、身体が疼いて仕方がなかった公爵夫人の下半身は、既にふしだらに濡れている。床に転がるディアマンテをジロジロと観察し、全裸のディアマンテの下半身の膨らみを、ゴクリと生唾を飲み込みながら凝視していた。
――魔女を締め上げて、この性能の良いゴーレムを量産することもできる。しかし、魔女は危険。飼い慣らせないなら、始末した方が得策。奴隷になって売られても、裏で始末する手筈は既に整えているわ。
「まあ、いいわ……。このままでも十分に価値はある。美しく妖艶なわたくしが刺激すれば、この魔羅も立ち上がること間違いなしよ。それに他のゴーレムのように、操る為の魔道具を使えばいいわ」
ディアマンテの下半身に頬ずりする公爵夫人は、「報酬は執事から貰って」と吐き捨てるように言い、カルロスを部屋から追い出す。そう、今からディアマンテの身体を弄って楽しみたいのだろう。そんな公爵夫人を冷めた目で見ていたカルロスは、「こっちは報酬さえ貰えればどうでもいい。それに龍珠が手に入ったからな」と小さく呟いてその場を立ち去った。
****
薄暗い街の外れの荒ら屋で、手足を縛られたルーチェが虚ろな表情で窓の外の月を見る。時刻は深夜なのか、外の音は静かだった。
夕方にムニョスに戻ってからは、パブロに拘束されてこの小屋に閉じ込められたままだ。何度も声を張り上げて助けを呼ぶが、ルーチェの声が掠れていくだけで誰も助けに来ない。魔法が使えないように特殊な結界を部屋に張られているようで、いろいろ唱えてみたが何一つ効かなかった。
「ディアマンテ大丈夫かな……。燃料が切れて動けなくなっているのじゃないかな。彼には私が必要なのに……」
ディアマンテを思って涙を溢すルーチェは、自分をいつも守ってくれていた大きな存在がいなくて、寂しさに押しつぶされそうになっていた。ジオンが旅立って、ダンバルドに脅されて恐怖を感じたときから自分を守ってくれた存在は、ルーチェの中でとても大きくなっていたからだ。
「いつまで泣いてんだ! もういい加減に諦めろ。ディアマンテは性玩具のゴーレムとして買われたんだ。お前の元には戻ってこない」
建て付けの悪いドアを開けてパブロが部屋に入ってくる。ルーチェはキッと睨み返した。
「このままだとお前は奴隷として売られる。魔法が使えないように魔力を封印する焼き印を押されるだろう……。俺はそんなことしたくないんだ」
ルーチェに好意を寄せているパブロは、ルーチェを奴隷として売ることを躊躇しているようだ。ここで焼き印を押して奴隷商人に連れて行くようにとカルロスに言われていたが、焼き印の準備さえしていなかった。鉄製の焼き印は床に転がったままなのだから。
「俺と夫婦になって何処かで暮らそう。それがお前が平和に生きていく最善の道だ」
そんなパブロの提案に対するルーチェの答えは決まっていた。
「……私の隣はディアマンテの指定席。彼以外に私のパートナーになる資格はない!」
「ゴーレムとは子供は作れないぞ。それに、あれは道具なんだよ……。馬や剣、斧とかと同じ!」
「ゴーレムは道具とか、人間じゃないとか、全部関係ない! ディアマンテは私にとって大切な存在なの……。他の誰でもない、ディアマンテが好きなのよ。それに彼だけだもの、私の全てを受け入れてくれるのは。魔女だなんだと差別もしない!」
曇りのない眼差しのルーチェは、瞬きをしないでパブロを見ている。その真剣な様子から、パブロは「……わかった」と小さく肩を落とす。それと同時にルーチェの拘束を解きだした。
「ど、どうして……?」
「惚れた女を奴隷に落としたい男がいるかよ……」
パブロは寂しそうに呟くのだった。
ルーチェの処遇をパブロに任せたカルロスは、ディアマンテを公爵夫人の屋敷へと馬車で運ぶ。緑のロープで拘束しなくても、全く反抗しない身体は、いとも簡単に運ぶことができたが、何せ大きいので数人の男達によって屋敷の中に運搬することになった。
「どうしてこのゴーレムは屍のように動かないの? 街で見たときは、人間のように動いていたのに!」
「分かりません……。捕まえてから暫くしたら動かなくなったのです。まるであの魔女から離れたら停止するような――」
「それはどういうこと? 他の性玩具のゴーレムではそんなことはなかったわ! で、その魔女は……?」
「奴隷商人に売り渡すことになっています。もう、今頃は……」
「そう、その売り上げも貴方達にあげるわ。しかし、このゴーレムはどうしてこんなに人間と大差ないのかしら?」
「く、詳しくは分かりませんが、ここにいる他のゴーレムはタダの腰を振るだけの人形ですが、コイツはかなり独立した人格を持っています。外見も人間と変わりない……。俺たちでさえ、コイツがゴーレムだとは信じられなかった。きっと魔女が何か大掛かりな魔法を使ったとしか……」
公爵夫人の秘密の部屋には人型ゴーレムが既に何体か置いてあるが、ディアマンテに比べてかなり品質が劣っているようだった。正しくマネキンといったところだ。
そのマネキン達に比べて、美しい銀髪とダイヤモンドのように光る瞳を持つ美丈夫なディアマンテは、性玩具のゴーレムとしては予想以上の存在であり、公爵夫人は身体の中で煮えたぎる性欲を押さえることができない。熱い吐息を何度も吐きだす。
ディアマンテを初めて見たときから、身体が疼いて仕方がなかった公爵夫人の下半身は、既にふしだらに濡れている。床に転がるディアマンテをジロジロと観察し、全裸のディアマンテの下半身の膨らみを、ゴクリと生唾を飲み込みながら凝視していた。
――魔女を締め上げて、この性能の良いゴーレムを量産することもできる。しかし、魔女は危険。飼い慣らせないなら、始末した方が得策。奴隷になって売られても、裏で始末する手筈は既に整えているわ。
「まあ、いいわ……。このままでも十分に価値はある。美しく妖艶なわたくしが刺激すれば、この魔羅も立ち上がること間違いなしよ。それに他のゴーレムのように、操る為の魔道具を使えばいいわ」
ディアマンテの下半身に頬ずりする公爵夫人は、「報酬は執事から貰って」と吐き捨てるように言い、カルロスを部屋から追い出す。そう、今からディアマンテの身体を弄って楽しみたいのだろう。そんな公爵夫人を冷めた目で見ていたカルロスは、「こっちは報酬さえ貰えればどうでもいい。それに龍珠が手に入ったからな」と小さく呟いてその場を立ち去った。
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薄暗い街の外れの荒ら屋で、手足を縛られたルーチェが虚ろな表情で窓の外の月を見る。時刻は深夜なのか、外の音は静かだった。
夕方にムニョスに戻ってからは、パブロに拘束されてこの小屋に閉じ込められたままだ。何度も声を張り上げて助けを呼ぶが、ルーチェの声が掠れていくだけで誰も助けに来ない。魔法が使えないように特殊な結界を部屋に張られているようで、いろいろ唱えてみたが何一つ効かなかった。
「ディアマンテ大丈夫かな……。燃料が切れて動けなくなっているのじゃないかな。彼には私が必要なのに……」
ディアマンテを思って涙を溢すルーチェは、自分をいつも守ってくれていた大きな存在がいなくて、寂しさに押しつぶされそうになっていた。ジオンが旅立って、ダンバルドに脅されて恐怖を感じたときから自分を守ってくれた存在は、ルーチェの中でとても大きくなっていたからだ。
「いつまで泣いてんだ! もういい加減に諦めろ。ディアマンテは性玩具のゴーレムとして買われたんだ。お前の元には戻ってこない」
建て付けの悪いドアを開けてパブロが部屋に入ってくる。ルーチェはキッと睨み返した。
「このままだとお前は奴隷として売られる。魔法が使えないように魔力を封印する焼き印を押されるだろう……。俺はそんなことしたくないんだ」
ルーチェに好意を寄せているパブロは、ルーチェを奴隷として売ることを躊躇しているようだ。ここで焼き印を押して奴隷商人に連れて行くようにとカルロスに言われていたが、焼き印の準備さえしていなかった。鉄製の焼き印は床に転がったままなのだから。
「俺と夫婦になって何処かで暮らそう。それがお前が平和に生きていく最善の道だ」
そんなパブロの提案に対するルーチェの答えは決まっていた。
「……私の隣はディアマンテの指定席。彼以外に私のパートナーになる資格はない!」
「ゴーレムとは子供は作れないぞ。それに、あれは道具なんだよ……。馬や剣、斧とかと同じ!」
「ゴーレムは道具とか、人間じゃないとか、全部関係ない! ディアマンテは私にとって大切な存在なの……。他の誰でもない、ディアマンテが好きなのよ。それに彼だけだもの、私の全てを受け入れてくれるのは。魔女だなんだと差別もしない!」
曇りのない眼差しのルーチェは、瞬きをしないでパブロを見ている。その真剣な様子から、パブロは「……わかった」と小さく肩を落とす。それと同時にルーチェの拘束を解きだした。
「ど、どうして……?」
「惚れた女を奴隷に落としたい男がいるかよ……」
パブロは寂しそうに呟くのだった。
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