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10 動いた!
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「あ! 私の血が……!」
ルーチェの傷口から流れ出た血が、ゴーレムの頬に垂れている。慌てたルーチェが自身のドレスの袖部分でそれを拭くが、血が伸びてゴーレムの唇に付く。綺麗な形をしているゴーレムの唇は血の気のない紫色だったが、ルーチェの血がその唇を赤く染める。その妖艶な美しさに、ルーチェはウットリとした表情を浮かべた。
「……口紅が付いたみたいね。フフフ、男性だし吸血鬼さながら……」
するとゴーレムに変化が起きだす。眼球がギョロッと動き視点がルーチェに合うのだ。その変化にルーチェは気が付いていない。ゴーレムの唇に付いた自身の血を拭こうとしていて、その唇しかルーチェは見ていなかった。
ルーチェがゴーレムの唇に再度触れたとき、薄らと唇が開いていく。そしてニュルッと舌が伸びてきて、唇の上の血を舐める。それを間近で見たルーチェは、ギョッとしてその舌の動きを凝視している。
「う、動いた……!」
ルーチェは視線を感じその方向を見る。それはゴーレムの眼……。ギョロッと動く眼球はルーチェを捕らえて放さない。ルーチェが顔を横にずらすとゴーレムの視線もそれに続いて動く。頭部は動かないが眼球だけが動く不気味さに、ルーチェは「ひえーー!」と声を上げてその場から逃げだそうとした。
しかしニュッと伸びてきた逞しいゴーレムの手が、ルーチェの腕を捕まえる。ガッチリと握られてしまい、その場から逃れることができなくなったルーチェは「やぁーー!」と大声を出す。
ゴーレムはルーチェの大声に動じる様子もなく、掴んだルーチェの腕を自分の口元に持って行きあの刃物傷に唇を充てる。
ジュル ピチャ ジュッっと音を立てて傷口の血を舐めては啜るゴーレム。しかし瞳はルーチェを捕らえて放さない。あの美しいダイヤモンドの瞳はキラキラと光り、妖しくルーチェを見つめている。
自分の血を啜る美しい男を驚いて見ていたルーチェだったが、少しずつ身体が熱くなっていることに気が付く。自分の身体、ましてや傷口を舐められると言う行為は、もちろん初体験であり、こんな側に身内以外の大人の男が近づくのもジオン以外は初めてなのだから。
「んぁ……、もう、やめて……!」
自分の身体の変化に対応できなくなったルーチェは、ゴーレムを乱暴に押しのけて何とか腕を引き離した。
少し熱く火照る身体を自分で抱き寄せながら、ルーチェはゴーレムを睨み付ける。恥ずかしさからどうすればいいか分からないので、取り敢えずこの状況を作った人……いや、物を睨んだのだ。
「あなた……が、俺のマ……マス……ターか?」
少し震えている声だが重低音を響かせており、明らかに成人男性のものだった。ルーチェは「キャー!」と大声を上げて周囲を見渡す。もちろん、この部屋に成人男性はいない。
「え……? 誰? 誰よ!」
「だから……、貴方が俺の……マスターなのか?」
再度聞こえてきた重低音はあのゴーレムの美しい口元から聞こえてくる。まだ少しルーチェの血で赤い唇は、再度開いて「……マスター」と音を出した。
「ゴーレムって……、は……話せるの?」
「俺は話せる……。他は知らない」
やはりあの美しい口元から音が聞こえてくる。ルーチェは恐る恐るゴーレムに近づいてソッと唇に触れた。
「ま、魔法が成功したのかしら? でも、きっかけは……。血? 私の血!」
「ゴーレムを動かすにはマスターの体液が必要だ。それをゴーレムに与えて魔法は完成される」
「そ、そうなの……? そんなの何処にも書いていなかったわよ」
「それは知らない……。俺はマスターが俺に体液を与えてくれるのを待っていた。マスターがいることは分かっていた。しかし動くことはできなかった」
淡々と語るゴーレムをジッと見つめるルーチェは、どこからどう見ても人間にしか見えないと驚いていた。話ながら瞬きする瞼、息を吸い込むような仕草をする身体。そしてジッと自分を見つめる輝く瞳。
「マスター? どうかしたのか?」
「え? あ、ああ……。何?」
ルーチェは自分がウットリとゴーレムを見ていたことに気が付き、バッと顔を赤らめて下を向く。ゴーレムが何か質問していたようだが、殆ど耳に入っていなかった。
「先ほども聞いたが、俺は何をすればいいのだ?」
「え? 何をすればって……。あ、私とここで普通に生活してくれない? 女一人だといろいろ物騒で……」
ゴーレムはジッと黙ってルーチェを見つめる。ルーチェは何かおかしなことを言ったのかと不安になり、「だ、ダメかな?」とゴーレムにお伺いをたてるのだ。マスターなのに……。
「駄目ではない。しかし、俺の知識は今は少ない。マスターの言う普通の生活が分からない……。学習が必要だ」
「ゴーレムが学習……? 分かった。今から本を持って来るからそれを読もう!」
ルーチェはジオンの部屋にある大量の本を運んできて、ゴーレムの前に「どうぞ!」と積み上げていくのだった。
ルーチェの傷口から流れ出た血が、ゴーレムの頬に垂れている。慌てたルーチェが自身のドレスの袖部分でそれを拭くが、血が伸びてゴーレムの唇に付く。綺麗な形をしているゴーレムの唇は血の気のない紫色だったが、ルーチェの血がその唇を赤く染める。その妖艶な美しさに、ルーチェはウットリとした表情を浮かべた。
「……口紅が付いたみたいね。フフフ、男性だし吸血鬼さながら……」
するとゴーレムに変化が起きだす。眼球がギョロッと動き視点がルーチェに合うのだ。その変化にルーチェは気が付いていない。ゴーレムの唇に付いた自身の血を拭こうとしていて、その唇しかルーチェは見ていなかった。
ルーチェがゴーレムの唇に再度触れたとき、薄らと唇が開いていく。そしてニュルッと舌が伸びてきて、唇の上の血を舐める。それを間近で見たルーチェは、ギョッとしてその舌の動きを凝視している。
「う、動いた……!」
ルーチェは視線を感じその方向を見る。それはゴーレムの眼……。ギョロッと動く眼球はルーチェを捕らえて放さない。ルーチェが顔を横にずらすとゴーレムの視線もそれに続いて動く。頭部は動かないが眼球だけが動く不気味さに、ルーチェは「ひえーー!」と声を上げてその場から逃げだそうとした。
しかしニュッと伸びてきた逞しいゴーレムの手が、ルーチェの腕を捕まえる。ガッチリと握られてしまい、その場から逃れることができなくなったルーチェは「やぁーー!」と大声を出す。
ゴーレムはルーチェの大声に動じる様子もなく、掴んだルーチェの腕を自分の口元に持って行きあの刃物傷に唇を充てる。
ジュル ピチャ ジュッっと音を立てて傷口の血を舐めては啜るゴーレム。しかし瞳はルーチェを捕らえて放さない。あの美しいダイヤモンドの瞳はキラキラと光り、妖しくルーチェを見つめている。
自分の血を啜る美しい男を驚いて見ていたルーチェだったが、少しずつ身体が熱くなっていることに気が付く。自分の身体、ましてや傷口を舐められると言う行為は、もちろん初体験であり、こんな側に身内以外の大人の男が近づくのもジオン以外は初めてなのだから。
「んぁ……、もう、やめて……!」
自分の身体の変化に対応できなくなったルーチェは、ゴーレムを乱暴に押しのけて何とか腕を引き離した。
少し熱く火照る身体を自分で抱き寄せながら、ルーチェはゴーレムを睨み付ける。恥ずかしさからどうすればいいか分からないので、取り敢えずこの状況を作った人……いや、物を睨んだのだ。
「あなた……が、俺のマ……マス……ターか?」
少し震えている声だが重低音を響かせており、明らかに成人男性のものだった。ルーチェは「キャー!」と大声を上げて周囲を見渡す。もちろん、この部屋に成人男性はいない。
「え……? 誰? 誰よ!」
「だから……、貴方が俺の……マスターなのか?」
再度聞こえてきた重低音はあのゴーレムの美しい口元から聞こえてくる。まだ少しルーチェの血で赤い唇は、再度開いて「……マスター」と音を出した。
「ゴーレムって……、は……話せるの?」
「俺は話せる……。他は知らない」
やはりあの美しい口元から音が聞こえてくる。ルーチェは恐る恐るゴーレムに近づいてソッと唇に触れた。
「ま、魔法が成功したのかしら? でも、きっかけは……。血? 私の血!」
「ゴーレムを動かすにはマスターの体液が必要だ。それをゴーレムに与えて魔法は完成される」
「そ、そうなの……? そんなの何処にも書いていなかったわよ」
「それは知らない……。俺はマスターが俺に体液を与えてくれるのを待っていた。マスターがいることは分かっていた。しかし動くことはできなかった」
淡々と語るゴーレムをジッと見つめるルーチェは、どこからどう見ても人間にしか見えないと驚いていた。話ながら瞬きする瞼、息を吸い込むような仕草をする身体。そしてジッと自分を見つめる輝く瞳。
「マスター? どうかしたのか?」
「え? あ、ああ……。何?」
ルーチェは自分がウットリとゴーレムを見ていたことに気が付き、バッと顔を赤らめて下を向く。ゴーレムが何か質問していたようだが、殆ど耳に入っていなかった。
「先ほども聞いたが、俺は何をすればいいのだ?」
「え? 何をすればって……。あ、私とここで普通に生活してくれない? 女一人だといろいろ物騒で……」
ゴーレムはジッと黙ってルーチェを見つめる。ルーチェは何かおかしなことを言ったのかと不安になり、「だ、ダメかな?」とゴーレムにお伺いをたてるのだ。マスターなのに……。
「駄目ではない。しかし、俺の知識は今は少ない。マスターの言う普通の生活が分からない……。学習が必要だ」
「ゴーレムが学習……? 分かった。今から本を持って来るからそれを読もう!」
ルーチェはジオンの部屋にある大量の本を運んできて、ゴーレムの前に「どうぞ!」と積み上げていくのだった。
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