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誰にマーキングされた?

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「準備は出来ている。当日の逃走ルートも決めた……。ん? おい、聞いているのかヒロト!」


 タカの声に「え……、ああ」と頼りない返事をするヒロトは、ボーッとタカの話す逃走計画を他人事のように聞いている。


 あのピアノバーから帰宅し、時貞とヒロトの間の何かが変化した。


 時貞は遅くても毎晩マンションに帰宅するようになったのだ。ヒロトを抱きベッドで寝る毎日。しかし不眠症の時貞は、直ぐに安眠とはいかないようだったが、ヒロトが歌を歌ってやれば、ゆっくりと眠りに落ちていく。


 ヒロトはそんな毎日を少し気に入っていた。


 だからこそ、タカが必死になって練っている逃走計画を、心ここに有らずで聞いてしまうのだ。


「……タカ。俺、やっぱり逃走はちょっと……。バンドにも迷惑が掛かるだろう?」


 ヒロトの発言を聞いて「はあ?」と、顔色を変えるタカはヒロトの両肩を掴んで揺すりだした。


「何言ってんだ! このままで良いわけがあるかよ! お前はそのヤクザに良いように弄ばれてんだぞ! 嫌だろ? 虫唾が走るだろう?」

「え……、いや。時貞はそんなに悪い奴じゃねえんだよ……」

「ヒロト! 止めてくれよ……。お前はそいつに洗脳されてるだけだ! 俺が助けてやるから……」


 タカがギュッとヒロトを抱きしめ、ヒロトは「ちょっと……!」と声を上げるが、タカは更に身体をすり寄せていた。タカの細めのドレッドに顔を埋める様になったヒロトは、タカの使っている香水の匂いを嗅ぐ。さっぱりとした柑橘系のそれは、時貞の使っている甘いムスクの香りと正反対だった。ヒロトは瞬時に嫌悪感から、タカの側から離れようとする。


 ゴリッ


 ヒロトの下腹部に何か固いモノが当たる。それは位置的に明らかにタカの男根のようだった。ヒロトはドーンとタカを突き飛ばし、「や、やめろよ」と震える声を上げる。


「よー! 遅れてゴメン!」


 スタジオのドアを開けて中に入ってきたドラムのシンが、中の異様な雰囲気に気が付き「喧嘩? ダメだよ」と作り笑いをしながら、二人の間に割って入る。


「お、俺。今日はボイストレーニングに行くんだった。ごめん、帰るわ……」


 ヒロトは慌てて荷物を掴み、スタジオから逃げるように出て行くのだった。


 それを見つめるタカは「チッ」と舌打ちしてガリガリと親指のツメを噛む。タカはギターケースからギターを取り出し、「今日はヒロト抜きで練習だ」とシンに告げるのだった。


****


「どうしたんだ? 練習はまだ始まったばかりだろう?」


 ヒロトが練習が終わるよりも早くスタジオから出てきた為に、時貞は少し驚いてヒロトに尋ねる。ヒロトはいつも練習に行くのを楽しみにしていたのに、どう言う風の吹き回しだと。


「今日は気分じゃないんだ……。家に居る方がいい……」


 車の中で座る時貞にスッと寄りかかるヒロトは、時貞の肩に頭を置いて目を瞑った。時貞は自分の肩の上に置かれたヒロトの頭を大きな手で撫でる。その時、フワッとタカの香水の匂いが時貞の鼻を掠める。瞬時に顔色を変える時貞は、ヒロトの金髪をグッと乱暴に引っ張った。


「ちょ、痛い! 時貞!」


 苦痛に顔を歪めるヒロトの顔を睨み付ける時貞は、「お前、誰にマーキングされたんだ!」と声を荒らげた。


 意味の分からないヒロトは、「はあ? 何言ってるんだ!」と言い返すが、時貞は「しらばっくれるなら確認してやる!」と、ヒロトの穿いているジーンズを無理矢理引きずり下ろした。


「ちょ、止めろよ時貞! ここは車の中だぞ……。前の奴らに見られる!」


 すると運転席と後部座席を遮るように扉が自動で閉まる。これで密室になっただろうと、時貞はヒロトの下着にも手を掛けた。


 あっという間に脱がされたヒロトのボクサーパンツは、無残にも車の床に落とされた。下半身には何も隠す物が無くなったヒロトは、恥ずかしさで少し震えている。車は道を走っていたが、時々信号で止まれば、隣の車線を走る車に乗る者が見える。交差点では歩く人々の細部まで確認できるのだ。もちろん、スモークが窓に張られている時貞の車は、外から干渉はされない。


 自分の下半身を誰かに見られている錯覚に陥るヒロトは、「やぁ……」と顔を赤くして下を向く。


「ほう……、やはりそうか。お前は人に見られると興奮するんだなあ」


 時貞がニヤリと笑いながらヒロトの肉棒を触る。それは既に反り立っていて、少し先走りさえも出ているのだ。


「窓に手を突いてコッチに尻を向けろ! 中を確認しねえとなあ」


 時貞の命令にゴクリと喉を鳴らすヒロトは、吐息を漏らしながらゆっくりと手を伸ばして窓に触り、グッと腰を突き出してはしたない恰好をした。


 時貞の顔の前に突き出されたヒロトの後孔は、キュッと締まっており、何も受け入れていないことを伝える。時貞に毎晩抱かれようとも、情事が終わればキュッと閉じていく小さな門は、ヒクヒクと皺を動かしている。


「欲しそうに俺を誘ってやがる……! ああ? どうして欲しいんだ?」

「ん……、入れて。時貞に後ろから突かれたい……。お願い……」


 ヒロトのお願いに「ああ、突っ込んでやるよ」と答えた時貞は、ゴリゴリに立ち上がった自身の男根をスラックスの中から取り出すのだった。 
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