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ぼくのヒーローたち 3
しおりを挟む「いやだ」
夕飯を食べ終わりテレビを見て過ごしている時に、綾の母親が悪気無しに地雷を踏み抜いてしまい、綾は怒って部屋に閉じこもった。
「お母さんいや!!こないで!!」
「綾、ごめんね…」
「いや!!!」
なんとか機嫌を取ろうとしてもダメで、ブランケットにくるまって、部屋のクローゼットの中に籠城してしまった。
ことの発端は、優仁と椿が大学に進学するというのをそれぞれの母親達から聞いてきた。
「優仁君と椿君、高校生卒業したら大学に行くんだって。」
「そうなの?ぼくもいく?」
「綾はいかないかなぁ。」
「…どうして?優仁くんも椿くんもずっと一緒に居てくれるっていってたよ?
ぼくも優仁くんと椿くんと大学いく…」
「大学は綾には難しいからね。
優仁君と椿君賢いから賢い大学行くだろうし、綾は入学も無理だと思うよ。」
「…優仁くんも椿くんもずっと一緒に居てくれるって言った…」
「そうねぇ、今まではね。
それに二人に彼女が出来たらずっと一緒は難しくなることもあるよ。
どっちも独り占めにして来たじゃない。」
「ずっとっていったもん…約束したのに…」
「今までずぅーっと一緒に居てくれたでしょう。
みんな大人になるから仕方ないの、わからないといけない事もあるよ。
綾だって絵のお仕事で忙しいなってなってくる事もあるよ。」
母親からしたら、ぼんやりと世間話の延長をしたような感覚だったように思っていた。
テレビ画面を見ていて、綾がどんな顔をしているのか気がつけなかった。
「優仁くんと椿くんが好きになる女の子どんな人なんだろうねぇ?」
優仁と椿があまりに上手にずっと綾が機嫌良く居られる様にコントロールしていたから小さい時によく起こした癇癪もなりを潜めていて、綾の気性を忘れてしまっていた。
バン!と綾がテレビのリモコンを床に投げつけて耳を強く塞いだ。
「聞きたく無い~~~~!」
二人が約束を無かった事にして自分のそばから居なくなるかもしれないと言われて、綾の感情が暴発するようにはじけた。
耳を強く塞いだまま、叫び声をあげた。
「綾…!」
母親がしまった、と気がついた時には時既に遅く、宥めようにも近づくと興奮して怒って泣き叫ぶ状態になってしまった。
「いやぁああああ!!!
優仁くんも椿くんもずっと一緒っていったのぉ!!
お母さん嘘つきぃいいい!!」
綾は部屋に駆け込んで部屋に閉じ篭り、更にクローゼットの中に閉じこもった。
クローゼットの中には綾の秘密基地になっていて、何か耐え難い事があると閉じ籠ってやり過ごす場所。
呻くような鳴き声が微かに部屋の外に漏れ出てくるも、今の状態で母親が近寄ると余計に悪化するだけになる。
小さい頃は興奮状態になると噛みついてきたりもした、更に追い詰まると自傷が出てしまう。
しかしこのままにはしておけない。
興奮し過ぎて体調が急激に悪化してしまう可能性がある。
離婚して引っ越した時は、感情の起伏の激しい綾をきちんと育てられるか不安だった。
道で声をかけて来た男の子2人のお陰で今の今まで楽にやってこれたのだという事を改めて思い知った。
綾は環境が変わるのを嫌がる。
近くに居る人が変わるのも受け入れられ無いのもわかっていたはずなのに。
ましてや日々ベッタリとくっついている優仁と椿の存在が無くなる可能性なんて想像でも耐えられるわけがなかった。
優仁と椿は仲良くしてくれる他所の家の子で、お願いして一生一緒に居てもらうわけにはいかない。
どう考えてもあんなにモテそうな子達が女の子出来ないわけがないじゃないかとそう思っていた。
そうだとしても今言わなくて良いことだったのに、もっとゆっくり時間をかけて理解させなければいけない事なのに。
日頃なんとなく考えていた事が出てしまった。
『お母さんいや!!!!』
何年も無かった、久しぶりの拒絶は精神的に来るものがあった。
夜更かしを叱る事はあったけど、ほとんど毎日ずっとニコニコしてくれたのに。
綾のあんな悲しそうな顔は、引っ越してきた時に道端でしゃがみ込んで泣いた時以来な気がした。
いつでも困ったら迷わず呼んで。
2人は折りに触れてそう言ってくれていた。
優仁と椿の母達に連絡をいれた。
「本当にごめんね居たらでいいんだけどうちに来てもらえないかな。」
ヘルプを伝えるとすぐに優仁と椿が来た。
「優仁君…椿君…おばちゃんやっちゃった…」
綾の母親のげっそりとした顔に二人は驚いた。
「…おばさん、うちに行ってて貰っていい?
母さんには言ってある。
様子見て連絡するから。」
母親は「お願いします」と優仁の家に向かった。
事情をざっと聞いた後、部屋に向かうと、クローゼットの中から細かい息がきこえた。
「変な呼吸音してる…綾、過呼吸なってるかも。」
「綾~、ここ開けるよ、優仁も居るからね。」
扉を開くと、怯えた顔の綾が倒れ込んでひ、ひ、とちゃんとした呼吸が出来ずに苦しそうに泣いていた。
「おいで」
椿が綾を起こして抱き上げた。
興奮して汗をかき、熱を持った身体はぐったりとしているが、綾の力の入らない腕は離すまいとしがみつこうとしていた。
「綾、はちみつの飴たべな。」
後ろ椿の後ろから優仁が綾の口に飴を入れた。
涙と鼻水で汚れた顔を濡タオルで綺麗に拭いてもらい、
ベッドにうつ伏せに寝て二人に背中を撫でられると徐々に呼吸は落ち着いていった。
綾は両手で優仁と椿の服の裾を握っている。
「……ゆじく…と…つば…く……ぼ…ぼく…とばいば…するの?」
優仁くんと椿くん、ぼくとばいばいするの?
消え居るような声だったが、二人には十分聞こえたが、叫び声をあげたせいで声は枯れていた。
「おか…さんが、ぼくが…ゆじ…くんと……つばき…く…ひとりじめ…したから…ゆじ…く…にも、つばきく…にも…かのじょ…できたら…いっしょ…いられないって…」
せっかく落ち着いてきたのに、綾は再び泣き声をあげ始めてしまう。
優仁くんも椿くんもさよならするの嫌だ。
でもお母さんがぼくは大学にはいけないって。
彼女出来たらもう一緒にはいてくれないって。
ぼくどうしたらいいのかわからない。
かなしい。
優仁と椿は顔を見合わせた。
「僕は彼女なんて作らないよ。優仁も。」
「なんで椿や俺が綾にキスしたりするんだと思う?」
「なんで他の人に言っちゃいけない秘密の事を綾にするんだと思う?」
優仁と椿が、優しい声で綾に話しかけた。
「僕ら二人とも綾の事大好きでしょうがないからだよ。
綾、僕らとずっと一緒に居てよ。」
「綾が俺らのとこから居なくならないでよ。」
「僕らの事独り占めしてよ。」
「ひとりじめ…して…いいの?」
「当たり前じゃん、いいよ。
俺らがそうして欲しい。」
「「一生一緒に居よ」」
綾は泣きながらウンウン頷いた。
「優仁くんと椿くん大好き。
一生一緒いる。」
綾は2人が居なくならないと約束してくれた事に安心して2人の服を握り締めながらしだいに眠りについていった。
何度も擦ったであろう目元はあかく腫れている。
「綾、僕らと離れるの嫌だって。」
「もうこれは嫁に貰うしか無いな。」
2人はスウスウと寝息をたてる綾を暫く見つめていた。
「このまま泊まってくか、起きて俺ら居なくなってたらまた不安になりそうだし。」
「オッケー。おばさん優仁とこに泊まるって。」
綾のベッドはセミダブルで三人で眠るには相当キツイ。
どちらかが1人で泊まる時は後ろから綾を抱きしめてぎゅうぎゅうになって寝ている。
「俺綾とベッドで寝るから椿床で寝ろよ。」
「…は?何言ってんの?優仁が床で寝なよ。」
「…冗談だよ。」
「嘘つけ。」
時々二人が綾の部屋に泊まるので用意してもらってある客用布団を床に敷いた。
綾が風邪を引くといけないので着替えさせたが、綾は深く眠りこんでいて起きなかった。
優仁が胸元を強く吸って跡をつけた。
「ちょっと!ずるい!」
椿も優仁に習う様に綾の胸元に跡をつけた。
もう伝えるべき覚悟は決まっている。
今更どうのこうの言われても綾は2人から離れない。
ベッドで寝ている綾を抱いて布団の上に移動させて川の字になる。
翌朝二人から「お母さんのこと許してあげような」と言われて綾は素直に「大きな声出していやって言ってごめんね」と母親に謝罪をした。
「二人とも本当にありがとうね。」
「いや、僕ら綾と一生一緒に居るんで安心してください。」
「そのうちきちんと綾くださいって言いにきまーす。」
「え?」
「お母さんぼく優仁くんと椿くんのお嫁さんなるんだって。
独り占めしていいんだって。」
「!!??」
優仁と椿のおかげで綾は二人の大学進学が確実になっても不安定になる事なく高校卒業を迎える事が出来た。
優仁と椿から息子さんをもらいます宣言を受けた母親もはじめは冗談かなと思っていたのだが、優仁と椿の母親達からも色々と話を聞くうちに冗談じゃないという事がわかってきた。
二人の家ではもう既に息子達が綾と添い遂げたいと言っているのを理解している様子で、綾さえ大丈夫なら見守っていかないかと提案された。
「綾君のことで優仁と椿君本気で喧嘩になった事何回もあるのよね。」
「本当、綾君には見せられないくらいのやつね…綾君がどっちの家のお墓に入るかですごい喧嘩なってたから多分成人式に綾君に何着せるかでまた大喧嘩になると思うから覚悟しておいて…。」
「高校生が喧嘩する内容じゃないわね。綾君には良い迷惑すぎる…。
喧嘩してても綾君に2人して会うのはやめられないんだから。」
「ええ~….綾は嬉しそうにしてるけど本当にいいのかなぁ….」
「もう本当綾君には申し訳ないしかないよ…」
「本当…ごめんね」
「いやこちらこそ大事な息子さん達を…」
母親達は大切な子供達の幸せを、最良のカタチで優先させたかった。
「綾、将来ちゃんとしたの渡すからひとまずこれつけて欲しいなぁ。」
優仁と椿が卒業式が終わって綾に指輪を渡した。
優仁とお揃いのものと、
椿とお揃いのもの。
どちらも今は高校生が背伸びして買った物ではあったが、3人にとっては値段は関係なくとてつもなく大切だった。
綾の左手の薬指には2本の指輪がつけられた。
「綾、指輪俺にもはめて。」
「僕にも」
「優仁くんと椿くんはお揃いしなくていいの?」
綾が不思議そうな顔で聞くと2人は一瞬嫌そうな顔をして「いい、いらない」と答えた。
「約束の指輪!」
綾は嬉しそうにリングのはまった自分の指を長い時間眺めていた。
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