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第四章 夜明けの神殿

第四十六話 虚構だとしても〜聖女視点〜

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 ――――勝負だ。

 体内を巡っていく青の魔力を捉える。

「【清め給え。御心のままに。命の安らかなることを。時の穏やかなことを――――】」
 私が扱える最高の浄化魔法を唱える。

 周囲に微かな風が吹き始める。莫大な魔力操作に伴い、大気が僅かに揺れているのだ。
「【私は願う。全ての命の安息を。私は知っている。それが叶わぬことを。人の身に余る願いだと――――】」

 青の光の動きが止まる。
 ――――
 呪いがかけられたという情報そのものを抹消する魔法。

「【願いは巡る。空回りつつも……時間のように。願いは継がれる。惑いながらも……命のように――――】」
 血液中の魔力が吸われていくのを感じる。

 この青の魔力が求めるのは――――血液に溶け込んでいる濃密な魔力なのか……?
 青の魔力の動きが鈍くなっていく。

「【私は誓う。目を背けぬと。耳を塞がぬと。だからどうか教えてほしい。汝の罪を――――】」
 ピキリ、と石像にひびが入る音がした。
 青の魔力は逃げ場を失い、ただ固まっている。

「【私は聖女。どこにも逃げない。抱き締めよう。慰めよう。傷を共に抱えよう――――】」
 石像が白い光に包まれる。


「【――――安寧なる眠りを求めて。共に】」


 詠唱が完結する。

 渦巻く白の魔力が、世界を染め上げていく。
 石像が中心から砕け散り、暗い森に陽光が差し込み始める。

「…………はぁ」
 大きく深呼吸をする。
「完全詠唱――――初めて成功したな……」

 地面に倒れ込む。魔力が回復するまでちょっと休憩……。

 木々の間から何かの気配を感じた。
 杖を掴んで様子を見る。敵だったら……かなり厳しい戦いになりそうだけど。
 木の間から姿を見せたのは――――鹿だった。恐らく、さっき助けた子だろう。

 地面に倒れ込んだ私を見て、近くにまで寄ってくる。
「……心配してくれてるの? 大丈夫だよ……」

 顔を近づけてくる鹿の頭を軽く撫でる。

 全てが虚構だったとしても、私に救えた命がある。
 それを考えるだけで、心が温かくなる。
 何も救えなかったわけじゃない。

 私にだって……できることがあった。
 それがひどく嬉しい。

 道の先を見ると、魔方陣が地面に描かれていた。
 ……来たときにも見た転移術式だな、あれ。
 アレを発動すれば神殿に帰れるのだろう。

 けど……もう少し休んでからにしよう。うん。途中で倒れたら迷惑だし。

 …………二人は大丈夫かな。
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