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運命を操る者

250.奪還戦

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 「アル!」
 「心配するな、そこで待っててくれ!」
 「チッ、さすがに『俺』か」

 狭い部屋でのエクスプロードは避けにくいため相手を蹴散らすには最適だ。
 しかし同じ威力で無詠唱を使える同一存在である俺はエクスプロードを放ち相殺する。
 すぐに散開して目標を散らす中、俺は煙の中を前進してマチェットを振り下ろす。
 
 「ふん!」
 
 斬撃による風切り音と金属のぶつかる鈍い音が部屋に響く。その間を縫って爺さんがリンカを確保すべく移動するのが視界の端に見える。
 目的はリンカの救出なので『俺』を必ず倒すということもない。

 だが――

 「そう簡単にことが運ぶと思うな!」
 「うお!?」
 「きゃ……!?」

 俺を蹴り飛ばして爺さんに斬りかかる『俺』。
 そのままリンカを抱え、隣の部屋に穴を空けて逃げ出した。

 「判断が早い……!」
 「お兄ちゃんもう止めて!!」
 「紬か……お前を利用したことは悪いと思っている……こっちの世界で死んだお前の魂を神の力で送り込んだ……」

 紬もこの世界で『誰か』だったらしいことを匂わせる。……誰だったんだ?
 城を破壊しながら進む『俺』に、こういった野戦に強いオーフが並ぶ。

 「償いと懺悔は一人でやりな!」
 「オーフ……! ……ダメなんだよ、俺はもう止まるわけにはいかないんだ!」
 「オレも居るぜ!」
 「む……! 以前とは違い鋭い……!」

 オーフもディカルトも『生き残った』が故にランクを上げているのだ、こいつが相対した時と違うのは明白。
 そこへいつの間にか回り込んでいたラヴィーネが仕掛けた。

 『諦めろ私の子孫、アルフェン。この世界のお前は私と同じ……運命というものに遊ばれたのだ。別世界を混乱に入れるのは間違っている』
 「お前が言えたことか! 人の両親を殺したお前が!!」
 『分かっている、それでもこちら側のアルフェンからリンカを奪うのは違うと言っている!』
 「くそ……!」
 「こっちの私は死んだのよ! 『私』に失礼だと思わないの!」
 「どいつも邪魔ばかりする……! 普通に暮らしたいだけなのにどうしてこうなる!!」

 リンカもウェディングドレスをボロボロにしながら逃げ出そうとするが鍛えた時間が違うリンカでは振りほどけないようだった。
 ラヴィーネが足止めをしてくれ、俺と爺さんも追いつく。見ればいつのまにか二階の踊り場へと来ていた。
 
 「こんな雪国から逃げるのも大変だろう。諦めろ」
 「まだだ……。マスタークラスの魔法を味わえ!」
 「なに!?」

 エクスプロードよりもさらに強い熱量を帯びた炎が解き放たれる。
 当たればやけどじゃ済まないソレを俺も魔法で打ち消そうとするも少し弱まった程度で襲い掛かって来た。
 
 『なんの……!!』
 「ギルディーラ!」
 
 大剣を振り回して勢いをさらに殺してくれたおかげで肌の表面をチリチリと焼く程度に収まった。
 四人は生身……だがラヴィーネは――

 『私には効かんぞ!』
 「死人が!!」

 ――炎が渦を巻いた瞬間に飛び込んでいた。
 確かにあの雪山を軽装で移動してきたのだから装備にかすでに死んでいるからか感覚はないと見ていいのか。

 「リンカを守りながらよくやっていると思うけど、ここまでだ!」
 「はは! これでも一人でこっちのラヴィーネを殺した俺に勝てるつもりか!」
 『往生際が悪い……が、確かに強い』

 ラヴィーネを魔法で牽制しながらギルディーラを退ける。
 大技を仕掛けたいがリンカに当たらないようにするのは難しいので魔法は使えない。
 逆に狭い通路でリンカを連れている『俺』はこちらに手加減無しで攻撃ができるためハンデとしてはかなり痛い。
 オーフとディカルトの斬撃もいつもより鈍いのはそのせいだろう。
 でも長引かせるのは得策じゃないと俺は左手に魔力を収束させ、姿勢を低くして飛び込んでいく。

 「リンカ、怪我をしても治してやるからな!」
 「うん! 私には構わず思い切りやって!」
 「お前……!? リンカを傷つける気か!」
 「それこそお前が言えたことかぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 俺は足元にエクスプロードを放ち、『俺』と俺、そしてリンカを巻き込んで爆発する。
 直後、巻き上がったリンカにアイシクルダガーをスカートや肩口へ放ち、離れた場所にある柱へ縫い付けた。
 リンカのドレスは焼け焦げ、彼女も擦り傷や火傷の痕が。気絶はしていないようだが顔を歪める姿に胸が痛くなる

 「オーフ! ディカルト!」
 「「任せろ……!!」」
 「なんて馬鹿な真似を!? リンカ!」
 「追わせると思っているのか!」
 『全力で倒させてもらう!』
 「爺ちゃん、ギルディーラ……!」

 全身から煙を出しながら駆け出そうとする『俺』へ二人が立ちはだかり、攻め立てる。治療のためその横をすり抜けてリンカの下へ走る俺。

 あの一瞬と躊躇わない一撃が勝負の明暗を決めた。
 手加減の必要が無くなった二人にラヴィーネが加われば止められる人間などいない。
 それでもなお、腕を切られても肩から血を噴出させながらも抵抗を止めない『俺』
 『英雄』と『魔神』である両者も足が下がるほど、魔法と剣で暴れる。

 そして、打ち合いの末に爺さんの剣が真ん中から折れた。

 「どけ爺ちゃん! リンカが居ないと俺は!!」
 「アルフェン! この世界のリンカはもうおらぬのだ! 現実を……受け入れろ! お前はアルフェン=ゼグライト、ワシの孫なのだろうが!」
 「……!?」
 「あ!?」
 「ぐぬ……!」

 折れた剣を捨てた爺さんは防御もなにもせず、腹に剣を受けた。
 
 「馬鹿……者が……!」
 「あ、あああ……じ、爺ちゃん……。もう……たくさんだ……みんな……消えちまえ……!」
 「マズイ!? リンカを頼む!」
 「おいアル!?」
 「お兄ちゃん!」

 あれを……あの右腕の力を解放させるわけには……いかない!!
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