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運命を操る者

248.イレギュラー×2

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 ――別の未来

 「これで……ようやく俺の旅も終わり、か」
 「……」
 「そう睨まないでくれリンカ。見ての通り、俺はアルフェンだぞ? 和人でもある。同一人物なんだ。ああ、老けているのが嫌か? まあ、そこは勘弁してくれもっと早く――」
 「……なぜこんなことを……こっちの私は死んだのに、別の世界から連れてこようとするなんて。昔のあなたはこんなことを考える人じゃなかった」

 どこかの城……その寝室のベッドに座らせられぶつぶつと呟くアルフェンと名乗る中年の男性は確かに顔立ちはそう見える。

 だけど頬はこけ、目の下のは隈。
 もうくすんでしまった金髪に痩せてしまった身体をボロボロになった見覚えのある服に身を包んでいた。
 別の部屋には『私であった者』の骨などがあり、それを残していることも常軌を逸していた
 ……多分、この人はアルで間違いないのだろう。だけど、和人ともアルフェンとも雰囲気が全く違う。

 「なんで、か……。まあ、怜香ならそういうだろうと思ったよ。もちろん『向こう側』の俺も同じことを思うだろう。だが、さっき語った通りなにもいいことが無かった。イルネースに言われて暮らしたこの世界は酷すぎた。父さんも母さんも、マイヤもイリーナさんも……みんな死んだ」
 「でも、それは運命じゃない。和人は前世で妹さんと家族が殺され、私は病気で長生きできなかった。それが人生」
 「くく……そうだ、確かにそうなんだよリンカ。だけど俺は前世から今世にかけてそれが許せなくなった」

 振り返って笑う彼は次の瞬間、目を見開いて叫び出す。

 「なんで俺ばかりこんな目に合う……!! この身を犠牲にして復讐をしても何の意味を持たない……俺だけ生き残ってどうしろというんだ……!! だからイルネースを殺した。こんな世界に送ることなどせずにいっそあの時に逝かせてくれればと後悔した。だから殺した」
 「よくそんなことが……」
 「できたさ。ヤツが俺を見ているのは自分で言っていたからな。いつもと違うことをするだけであいつは呼ぶだろうと踏んでいた。そこで俺は次に行った時に殺すことを考えた。……するとどうだイルネースの力を手に入れることができた。まあ、あの神の世界からは追い出されたが研究の末にせめてお前だけでもと計画を思いついたわけだ」

 ――執念。

 ただひとつこの人が『和人』と同じといえるのはその執念だろう。
 前世であの男を追い詰めたのもそれによるものが大きい。
 確かに私もバックアップしていたが、和人の執念は手助けをしなくてもいつか成し遂げていたと思う。

 「……その力を別の形に使おうと思わなかったの?」
 「必要ない。もう俺の大事にしたい人間は……誰も居ない。いや、ここ以外の国は戦争に戦争を重ねているから今頃は滅びているかもな。さて、おしゃべりはこれくらいにして腹は減ってないか? ああ、寒いからコーヒーを作ってこようか。しかし若いなリンカ……」

 そう言いながら彼は部屋を出ていく。
 逃げる……にしても、窓の外は猛吹雪で出られそうにない……かといってこのままここにいると私は彼とここで一生を過ごすことになる。

 「どうしよう……アル……」

 私はさっきまで幸せだったはずなのにと涙を流す――

 ◆ ◇ ◆

 「なんでそこで紬の名前が出るんだ?」
 「ツムギ……? 誰だ?」
 「爺ちゃん……。もうこの際だから言うけど、俺には前世の記憶があってそこで死んだ妹の名前が紬、なんだ」
 「……あの時、本の声が『クガ カズト』と言っていて自身を『アルフェン』だと口にしていたことに違和感を感じていたがよもやその通りだったとは……」
 「てことは、アル様は『アルフェン』であり『クガ カズト』ってことですかい?」
 「まあ、記憶があるだけで俺はアルフェン=ゼグライトで間違いないけどな」

 ディカルトの言葉にそう返しておく。
 実際、両親から生まれてきた俺は間違いなく爺ちゃんの孫だし。
 それはともかく、イルネースの真意を聞くためもう一度話す。

 「俺のことは後でじっくりってことで、イルネース説明を頼む」
 『……そうだね。君の中に住んでいる妹さんはこの世界の者じゃないんだ。恐らくだけど、これも向こうの『君』がすり変えたんだと思う。スキルは与えたけど、君の中に妹さんを入れることを良しとしないよ僕は。リンカさんのようにどこかで会う、とかそういうのが見たいわけだし』
 「なんだって……? というかお前が……あ、いや、そういうことか……」
 『なんだい?』

 俺は何度かイルネースに呼ばれたことを思い出してそのことを話す。
 今となってはどうだったのかあやふやだが『本物のイルネース』ではないこともあったんじゃないか? と。

 『……あり得るね。まあ、終わったことだから今は先のことを話そう。で、妹さんは向こうとの繋がりがあった上で『ブック・オブ・アカシック』も聞いている限り向こう側。その二つを特異点にして僕が『探る』ことで到達できるはずさ。だから――』
 <あ!?>
 「む……!」
 
 イルネースが言葉を切った瞬間、俺の中から紬が飛び出し目の前に現れた。
 
 「こ、れは……」
 「ほほう……」
 「お兄ちゃん、私……」
 「俺より年上でお兄ちゃんってのもなんか変な話だけど久しぶりだな。前に正体を明かしてくれた時以来だな」
 
 俺は紬について簡単に説明する。
 すると紬は前世で酷い目にあったことなどを自分で話した。気を使ってか復讐のことは言わなかったが、それについてなにかあったのだろうなという視線は全員から向けられたけど。

 『それじゃあ準備ができたら教えてくれ』
 「……今からだ。すぐに行くぞ」
 『わかった。では紬君、本を持ってくれ。アルフェン達は彼女を囲むように立ってくれ』

 言われるがままそうすると、俺達の周りが光り出す。

 「……戻ってこれなかったらごめん」
 「いいさ、妹ちゃん可愛いし、そっちに面倒見てもらうよ」
 「ええ……!?」
 「オーフお前……!」

 俺が声を上げた瞬間、意識途切れた――
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