上 下
232 / 258
黒い剣士、再び

225.陽動と潜入

しおりを挟む

 ――朝に紅顔ありて夕べに白骨となる、ということわざがある。

 どういうことか?

 『この世は無常で、人の生死は予測できないこと』である。
 
 黒い剣士が襲撃してきた時はまさにこの言葉を思い浮かべたものだ。
 なぜ今になってそんなことを思ったのか?

 「そんじゃ、行ってくるねー! 帰ったら一緒におやつをたべようねルーナちゃん、ルークちゃん!」
 「僕は男の子だよ!」
 「気を付けてな、妹を頼むぞディカルト」
 「おう、すぐに合流するぜ!」

 ……それは今から陽動へ行くロレーナとディカルトを見て、ふとそう思ったからだ。水神の時にも二人は居たが、俺も一緒に行動していたためそんなことは思いもしなかったが、今回は二人。

 たった二人で一番危険な陽動を担うため、あの時のことを思い出してしまった。
 もちろん信用していないわけじゃない。
 だけど相手は黒い剣士たちの一味で、得体のしれない死に方をする人かどうかもわからない存在。
 だからふとよぎったのかもしれない。

 「……無事に合流してくれよ」

 ◆ ◇ ◆

 「一番人が多そうだったのは西側でいいわね?」
 「ああ。灯りの数が多かったからな、ひとまずそれでいいと思うぜ。それにしてもこんな危険なことによく付き合ったよな。一家は育ての親みたいだけど、小さい子もいるし」
 「ま、わたし達もアルフェン君には助けられたからね。オーフがゴブリンロードと戦った時に死んでいたかもっていうのもあるし、そもそも無理を言ってついてきてもらった恩もあるからさ」

 わたしことロレーナは随伴するディカルトへ笑いながらそう答える。
 それだけが理由ってわけじゃないけど、彼に話しても理解は難しいと思う。
 アルフェン君……アルが居なかったら最後の肉親も死んで途方に暮れるところだったもんね。

 そっちの未来が『どうなるのか』という興味はあるけど、そうならなかったことの喜びの方が大きい。
 わたし達兄妹は元第一王子、現ジャンクリィ王国の宰相を任されている人の子。
 遊びで妊娠させたメイドが子供を育てているのを見て、疎ましく思って山奥の村に捨てた、というのが真相らしいがそのあたりはよく知らない。

 現在王位を継承せず宰相をしているあたり、失脚したとも考えられるけど、王族ならもみ消すくらいはやりそうなんだけどねえ。

 母親は村でゆっくり過ごしているので、お金や食料を持ってたまに会いに行っている。父のことを尋ねても『あの人は不器用だったから。私が悪かったの』と困った顔をするだけで攻める様子はない。
 第二王子、今の王様も良い人でわたし達に報酬の良い依頼を回してくれるため母は不自由なく過ごせている面もある。
 ……父とは顔を合わせることは無いんだけどね。

 ジャンクリィ騎士団長のフェイバンは陛下の息子、第二王子なので彼とは従兄にあたる。
 彼も親身になってくれるからわたし達はしっかりとした訓練を受けて二つ名をもらうような強さも手に入れた。

 わたし達……いえ、わたしは運がいいのだろう。
 この世界に産まれて複雑な家庭だったとはいえ母は生きているし、父も兄も健在。……ちょっとオーフは危なかったみたいだけど、アルのおかげで今も元気だ。

 だけどアルは両親を今まさに倒そうとしているヤツに殺され、人生を狂わされた。
 今度はこちらが助ける番だよね。

 「さて、と。これに着火したらもう後戻りはできないわ、覚悟はいい?」
 「くっく、そんなもんオレが復讐を終えた時から済んでいるぜ? やっちまいな」
 「オッケー。『軽き熱よここに』<ファイア>」

 そういえばディカルトは村を潰されたことがあるってアルが言ってたわね。
 お父さんもそうだし……こういう復讐者《リベンジャー》が集まっているのは偶然なのかな?

 とりあえずアル達が潜入する時間を早く作ってあげないとね! 
 わたしは作った1本のダイナマイトに火をつけると適当なキャンプの中へと投げ込む。

 人質の可能性は考えたけど、国境での戦いを見る限り人を巻き込むつもりはないのかと思いその考えは捨てた。

 「次、行くわよ」
 「おう」

 投げた瞬間、サッと移動を始め、暗がりで有利な林の中を移動し、都合四本のダイナマイトをあちこちにばらまき――

 「ぐあああああ!?」
 「て、敵襲! 皆の者、攻撃に備えろ!!」
 「む、向こうでも爆発が!」

 「ぎゃあああ!?」
 「い、今ので何人やられた!?」

 ――一瞬で場が騒然となる。

 「す、すげぇ威力だな……!? 耳がキーンってなったぞ!?」
 「もう少しやっとく?」
 「……いや、切り札としてとっとけ。奴等、展開が早い。アル様のところへ戻るぞ」
 「わかったわ、なら――」
 「こんな夜更けに逢引きかな? 随分と火薬臭いがね?」
 「「……!?」」

 その時『なら、アルと合流を』と言いかけたところで背後から声がかかり息を飲むわたし達。
 ゆっくりと振り返るとそこには黒い鎧を着た例の敵さんが立っていた。

 「そう思うならあんたはのぞき見ってことになるけど、趣味が悪くない?」
 「まったくだぜ。こいつは高くつくぜ……!」
 
 そう答えながらディカルトはすでに攻撃を仕掛けていた。

 「受け止めた……!?」
 「くく……あの爆発はお前達で間違いなさそうだな、目的はわからんが……捕まえて吐かせればいいか」
 
 男はなにかを空に飛ばし、すぐに音を立てる。
 恐らく、仲間を呼んだのだろう。

 「長引くと不利か、一気に叩くわよディカルト……!」
 「行くぜ!!」

 こっちは……なんとかするしかない。
 アル、後は任せたわよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...