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黒い剣士、再び

215.蹂躙

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 「数は?」
 「騎馬が三十ってとこですかね、私なら町を強襲するなら伏兵を忍ばせますね」
 
 スチュアートが槍を肩に担いで険しい顔をしながら状況の報告をする。すでに町の家屋は戸締りをして通りには人っ子一人いない。
 そして俺が帰って来てからこの町の門は強固になっているため、簡単には破れないため、少し猶予がある。

 「三十人程度とは舐められたもんだな」
 「黒い剣士の仲間ならそれなりに腕が立つよ。父さんも剣は鍛えていたけど、殺されたくらいだ油断しない方がいい」
 「……うっす。ギルディーラの旦那とオレ、スチュアートのおっさんでなんとかなるんじゃねえ?」
 『一人十人か、いいだろう』
 「ワシも行くぞ、アルフェンと騎士達は伏兵に備えて町に残れ。奴らの狙いはお前だ、その方が良かろう」
 「……門の近くにいるからケガをしたらすぐ戻ってきてくれ。回復魔法は使えるし。それと――」

 ◆ ◇ ◆

 「……!
 「そこで止まれ」
  
 町を出たアルベール達は正面から黒い部隊の前に立ちはだかる。
 ヘルムまで全て黒い集団の異様さをものともせず、剣を突き付けた。

 「貴様等が王都を襲った賊どもか。『ブック・オブ・アカシック』を手に入れるのになぜそんな真似をした?」
 「……」
 「だんまりみたいですぜ、しにが……アルベール殿、ぶっ殺しましょうや」
 「そうだな。一人は残せよ、ディカルト」
 『勢い余るかもしれんから保証はできんぞ』

 ギルディーラがそう言った瞬間、四人の乗った騎馬は放射状に広がり戦闘が始まった。

 「……!? 迎撃しろ、相手は四人だ」

 いきなり仕掛けてくるとは思っていなかった黒い部隊だが、瞬時に危険を判断して部隊を展開させる。
 
 だが――

 「はっはっは! 数が多いな! こりゃ結構きついかな! なんせこの中じゃ俺が一番ランクが低いからよ」
 「……」
 「おっと、一斉にくるか? ……なら、こうだ」
 「……な!?」

 先制はディカルトで、側面から連中へ攻撃を仕掛けると、初撃を回避され逆に包囲される。しかし、一番力が無さそうな者を見極めて詰め寄っていくと大剣で胴を薙ぎ払った。

 「ぐは!?」
 「囲んだならすぐに攻撃しろよ! おら、返してやるぜ!」
 「う、おおおお!!」
 「ちゃんと口が利けるんじゃねえか。仲間がやられて目が覚めたか!」

 ディカルトは心底楽しそうな顔で大剣を振りながら躍り出ると、そこへスチュアートが槍を回しながら大声で叫ぶ。

 「突っ込みすぎるなよディカルト! ぬん!!」
 「ぐぬ……」
 「槍か……」

 スチュアートは堅実に、そして確実に武装の隙間を縫って一撃を繰り出していく。
 あまりの正確さとリーチで踏み込むのを躊躇っているところへ、黒装束の一人が魔法を繰り出して来た。

 「『燃え盛る業炎よ力を与えたまえ』!<エクスプロード>!」
 「ぬ!?」
 「今だ!」

 略式詠唱のエクスプロードがスチュアートを襲い、すぐに黒の部隊が追撃に入る。
 
 「……少し驚いたがアルフェンの魔法の方がきついな、お前達のランクはいくつくらいなんだろうな?」
 「馬鹿な……!? がああああああああ!?」
 
 槍でめった刺しにされた男が落馬し、場が混乱。
 その様子を見ていたアルベールが二人目を斬り伏せながら口を開く。

 「ふん、練度は悪くないが相手が悪かったな」
 「おのれ……!」
 「目的を聞くと思ったか? 王都が人質だと萎縮するとでも? 甘いのだ、その認識が。他国に屈するなら死を選ぶ。それがライクベルンの王族と貴族だ」
 「ぐああ!?」
 「馬鹿な……我々はランク75は越えるのだぞ!? ……あ?」
 
 そう捲し立てていた男の頭に剣が突き刺さる。

 『この『魔神』を相手にその程度で勝てると思うなよ?』
 「は、速――」

 ギルディーラの剣で串刺しにされて絶命した黒装束。そのまま剣を横に振り抜きそ背後から迫っていた男の首が飛ぶ。
 
 「ま、魔神……だと」
 「なんでこんな辺境の町に……!?」
 『そんなことはお前達に関係ないだろう? 貴様等がライクベルンの王都を制圧したことと……同じことだ!!』
 「殺せ! 王女の望む本を手に入れろ!!」

 そこからは一方的な戦いが展開され、数に物をいわせて激しく抵抗するが一人、また一人と黒い部隊は地面に消えていく――

 『まあまあだったな』
 「チッ、傷だらけなのはオレだけかよ」
 「数が数だからな。もう少し防御を固めた方がいいぞ」
 「さて、後は貴様一人だ。この部隊の指揮官は貴様だな? お前達の状況、聞かせてもらうぞ?」

 アルベールが埃を払いながら目を細めると、地面にへたりこんだ黒装束の男が激昂する。

 「ぐ……ま、魔神が居るとは……聞いていなかったぞ! ……だが、これなら英雄クラスといえど!」
 『なんだ?』
 「これは……! させん!」
 「がっ!?」

 どす黒い色をしたダガーを腰から抜いてギルディーラに襲い掛かって来た男の腕を瞬時に切り裂いて飛ばすアルベール。
 『それ』は昔、自分の腕を蝕んだものと同じものだと直感で反応していた。

 「あ、がぁぁぁぁぁ!? 腕がっ!?」
 「それは?」
 「ワシが腕を失くすきっかけになったダガーに似ている……【呪い】とやらがかかっている代物だろう。ディカルト、こいつをアルフェンのところへ。回復魔法をかけたあと……拷問だ」
 「……ヒュウ……怖い怖い」

 ディカルトは冷や汗をかきながら男の腕を拾い、町に向かって歩き出す。
 伏兵はおらず、これで勝利かと思った瞬間――

 『……どういうことだ?』
 「き、気味が悪いな……」

 倒した黒い部隊の人間は鎧だけを残して跡形も無く消えたのだった――
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