上 下
221 / 258
黒い剣士、再び

214.ライクベルン王都陥落

しおりを挟む

 「アルベール殿……!!」
 「どうしたスチュアート、そんなに慌てて? ……お前は!?」
 
 庭でいつものように訓練をしていると、巡回途中のはずであるスチュアートが転がるように入って来て、場に居た全員が注目する。
 そこにはスチュアート以外にもう一人居たんだけど、その人が大怪我を負っており俺達は慌てて近づいていく。

 「ア、アルベール……殿」
 「喋らないで。<ヒーリング>」

 俺は回復魔法でライクベルンで見た将軍の傷を治療する。この人がここまでやられるとは、一体なにがあったんだ?
 痛みが引いて来たらしい彼に水を飲ませて一息つかせると、俺達を見渡した後にとんでもない情報を口にする。

 「……ライクベルン王都が、陥落しました」
 「「「は?」」」

 恐らくそこにいた人間は全員理解が及ばなかっただろう。
 王都が陥落したということは実質このライクベルン王国の崩壊を意味する。
 爺さんがすぐ我に返り、彼の両肩を掴んで大声で叫ぶ。

 「ど、どういうことだクラスト! 陛下は無事なのか? 他のみんなはどうなった!」
 「陛下をお連れできなかったのは……最初に捕まってしまったからです……くっ……」

 経緯はドラッツエルという馴染みのない北方の国から王女が来訪。
 三人の護衛と女王が謁見を申し出て進めていたのだが、目的を聞いた瞬間に豹変……それが――

 「黒い剣士だって……!?」
 「ああ、どうやったのか豪奢なドレスが一瞬で黒い鎧に変化して戦闘が始まった。私を含めて将軍は二人、騎士団長五人、騎士が二十人近く居たから負けるはずは無いと思っていたのだが……」
 「たった四人相手に、負けたというのか!?」

 爺さんの言葉にクラストは力なく頷き、俺達は驚愕の表情を浮かべる。
 このクラトスという騎士も爺さんとランク的には近く、確か88とかだったはず。
 騎士団長も80上はあるはずだが、黒い剣士の強さはそれ以上らしい。

 「それじゃ『英雄』クラスじゃねえか。ギルディーラが本気になったらオレや死神、アル様が全員でかかっても勝てるだろ? それに近いんじゃねえか?」
 『……確かに『英雄』クラスなら、不意打ち気味に仕掛けた場合それくらいは出来るだろう。一応いっておくが面と向かってお前達と戦うのは流石にきついぞ?』
 「それは置いといて、王女は『ブック・オブ・アカシック』を手に入れたいと言ったんだな?」

 俺の問いにクラトスは頷き、話を続ける。

 「私が逃げきれたのは偶然ではないだろう。メッセンジャーとしての役割もあったはず。そしてアルフェン君が持っていることは知っている様子だったから、遅かれ早かれここに来るだろう」
 「そうだろうね。さて、困ったことになったな……」
 「どうするの? ここに居たらみんなを巻き込んじゃうから別の場所へ行く?」
 「くぅん……」

 クリーガーを抱っこしたリンカが心配そうに言う。
 全くその通りなのだが、悩む。

 俺を狙ってくるならこの町が危険になるのは当然で、その覚悟はあった。
 町の人達もわざわざ物見やぐらみたいなのを作って四方を監視するくらいには協力をしてくれている。
 ……だが、王都を狙うとは思っていなかった。これだと王都そのものが人質になるから、向こうが要求してきた場合俺が行かなければどうなるか分からない。

 「……戦わずして本を手に入れるには絶好のシチュエーションだ、逃げ場がない」
 「うーん……」

 俺が別の国へ移動しておびき寄せるという手もあるが、やはり王都を掌握されているのはネックだ。ならばと、俺は提案を口にする。

 「……黒い剣士を倒すのは俺の悲願。そして『ブック・オブ・アカシック』は俺が持っている。だから、こちらから攻め入ろうと思う」
 「アルフェン、それは」
 「爺ちゃんの言いたいことは分かるよ。陛下や町の人に危険が及ぶ可能性があるってことだよね? それを承知で、俺一人で乗り込むつもりさ」
 
 真面目に目を見てそう告げると、爺さんは目を合わせたまま驚くことを口にする。

 「違うぞアルフェン、行くなら全員だ。王都は奪還せねばならんからな」
 「でも人数が全然足りないと思うけど……」
 『俺は手伝うぞ。黒い剣士の正体を掴まねばならん。ディカルトも来るだろう』
 「当然だぜ! 将軍クラスを倒す王女とか惚れそうだぜ」
 「スチュアート達も総動員すれば、潜入して撃破はできよう。王都のことは我々の方が詳しい」

 隠れる場所や抜け道など、裏を掻く方法はある、と。
 それなら勝機は見いだせるか?
 意見の交換をしていたその時、魚屋のゲンさんが庭に駆けこんできた。

 「こっちに向かって黒装束の集団が来ているぞ!!」
 「私が追われたか……!」
 「いや、前回襲撃してきた時にこの家が俺の住む場所ってのは知られているからそれはないよ。今回は夜襲じゃないのが不思議なくらいだ」
 「迎え撃つぞ。相手の戦力を吐かせたい、一人は残すのだぞ」
 『承知』
 「アルフェン……」
 「行ってくるよリンカ。あいつを黒い剣士を倒せば全てが終わる……その前哨戦だ」

 俺はリンカの頭を撫でると、マチェットを手にしてみんなとともに屋敷を飛び出した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】赤い糸はきっと繋がっていないから【BL完結済】

今野ひなた
BL
同居している義理の兄、東雲彼方に恋をしている東雲紡は、彼方の女癖の悪さと配慮の無さがと女性恐怖症が原因で外に出るのが怖くなってしまった半ひきこもり。 彼方が呼んでいるのか、家を勝手に出入りする彼の元彼女の存在もあり、部屋から出ないよう、彼方にも会わないように気を使いながら日々を過ごしていた。が、恋愛感情が無くなることも無く、せめて疑似的に彼女になれないかと紡は考える。 その結果、紡はネットアイドル「つむぐいと」として活動を開始。元々の特技もあり、超人気アイドルになり、彼方を重度のファンにさせることに成功する。 ネットの中で彼女になれるならそれで充分、と考えていた紡だが、ある日配信画面を彼方に見られてしまう。終わったと思った紡だが、なぜかその結果、同担と間違えられオタクトークに付き合わされる羽目になり…!? 性格に難ありな限界オタクの義兄×一途純情ネットアイドルの義弟の義兄弟ものです。 毎日7時、19時更新。エロがある話は☆が付いてます。全17話。12/26日に完結です。 毎日2回更新することになりますが、1、2話だけ同時更新、16話はエロシーンが長すぎたので1日だけの更新です。 公募に落ちたのでお焚き上げです。よろしくお願いします。

元勇者の俺は、クラス転移された先で問答無用に殺されかけたので、魔王の部下になることにした

あおぞら
ファンタジー
 ある日突然、とある高校の2年3組の生徒たち全員がクラス転移で異世界に召喚された。  そして召喚早々、人間種を脅かす魔王を討伐して欲しいと言うラノベのテンプレの様な事をお願いされる。  クラスの全員(陽キャのみ)で話し合った結果、魔王を討伐することになった。  そこで勇者の象徴のチートスキルを鑑定されるも、主人公である浅井優斗(あさいゆうと)だげチートスキルを持っておらず無能と言われ、挙句の果てに魔王のスパイとしてクラスメイトから殺人者と罵られ殺されそうになるも、難なく返り討ちにしてしまう。  何故返り討ちにできたかと言うと、実は優斗はこの世界を一度救った元勇者のため、強すぎて鑑定が出来なかっただけだったのだ。  しかしこの出来事と何日か過ごした時に沢山の人間の醜い姿を見て、とうとう人間を見限った優斗は――― 「初めまして今代の魔王。元勇者だが……俺をお前の部下にしてくれ」 「ええっ!?」  ―――魔王軍に入ることにした。

魔女の記憶を巡る旅

あろまりん
ファンタジー
第13回ファンタジー小説対象に出してみました。 上位には無理でしょうが、暇つぶしの読み物にいかがっすか~なんて(笑)             □ ■ □ 『古の魔女』 太古より受け継がれし古き記憶。 世界を包む魔力の循環を支える者。 『白』の魔女モルガーナ。 『緋』の魔女エルヴァリータ。 『黒』の魔女ラゼル。 世界に散らばる数多の魔女はこの三人の『古の魔女』の系譜に連なる血族とされる。 だが、『古の魔女』の記憶は時の流れに薄れ、今ではお伽噺の中だけの存在となっている。 これは、そんな1人の『古の魔女』に出会った男のお話。

揚げ物、お好きですか?リメイク版

ツ~
ファンタジー
揚げ物処「大和」の店主ヤマトは、ひょんな事から、エルフの国『エルヘルム』へと連れて来られ、そこで店をひらけと女王に命令される。 お金の無いヤマトは、仲間に助けられ、ダンジョンに潜って、お金や食材を調達したり、依頼されたクエストをこなしたり、お客さんとのふれ合いだったり……と大忙し? 果たして、ヤマトの異世界生活はどうなるのか?! 

エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南
ファンタジー
辺境伯令嬢のリンディエール・デリエスタは五歳の時に命を狙われて前世の記憶を思い出した。『目覚め人』と呼ばれる転生して記憶を思い出した者は数百年に一人いるかどうかの稀な存在。命を封印されていたドラゴン、ヒストリアに助けられ、彼に魔法や文字、言葉を教えてもらうようになる。両親は病弱な長男しか目になく、半ば忘れ去られて育つリンディエール。使用人達に愛され、親友のヒストリアに助けられて彼女は成長していく。ちょっと違う方向へ……。チートで天然な明るい主人公が、今日も我が道を突き進む! *所々、方言に合わないものもあると思います。『エセ』ですのでよろしくお願いします。 * 完全に趣味と勢いで書き始めた作品です。ちょっとした息抜き、疲れた時のサプリとしてお使いください。 ご利用は計画的に(笑)

【コミカライズ化決定!!】気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています

坂神ユキ
ファンタジー
 サーヤこと佐々木紗彩は、勤務先に向かっている電車に乗っていたはずがなぜか気づいたら森の中にいた。  田舎出身だったため食料を集めれるかと思った彼女だが、なぜか図鑑では見たことのない植物ばかりで途方に暮れてしまう。  そんな彼女を保護したのは、森の中に入ってしまった魔物を追ってきた二人の獣人だった。  だが平均身長がニメートルを普通に超える世界において、成人女性の平均もいっていないサーヤは訳ありの幼女と勘違いされてしまう。  なんとか自分が人間の成人女性であることを伝えようとするサーヤだが、言葉が通じず、さらにはこの世界には人間という存在がいない世界であることを知ってしまう。  獣人・魔族・精霊・竜人(ドラゴン)しかいない世界でたった一人の人間となったサーヤは、少子化がかなり進み子供がかなり珍しい存在となってしまった世界で周りからとても可愛がられ愛されるのであった。  いろいろな獣人たちをモフモフしたり、他の種族に関わったりなどしながら、元の世界に戻ろうとするサーヤはどうなるのだろうか?  そして、なぜ彼女は異世界に行ってしまったのだろうか? *小説家になろうでも掲載しています *カクヨムでも掲載しています *悪口・中傷の言葉を書くのはやめてください *誤字や文章の訂正などの際は、出来ればどの話なのかを書いてくださると助かります 2024年8月29日より、ピッコマで独占先行配信開始!! 【気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています】 皆さんよろしくお願いいたします!

この奇妙なる虜

種田遠雷
BL
クリッペンヴァルト国の騎士、エルフのハルカレンディアは任務の道程で、生きて帰る者はいないと恐れられる「鬼の出る峠」へと足を踏み入れる。 予期せぬ襲撃に敗北を喫したハルカレンディアには、陵辱の日々が待ち受けていた――。 鉄板エルフ騎士陵辱から始まる、奇妙な虜囚生活。 転生しない方の異世界BL。「これこれ」感満載のスタンダード寄りファンタジー。剣と魔法と暴力とBLの世界を。 ※表紙のイラストはたくさんのファンアートをくださっている、ひー様にお願いして描いていただいたものです ※この作品は「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」にも掲載しています

菊松と兵衛

七海美桜
BL
陰間茶屋「松葉屋」で働く菊松は、そろそろ引退を考えていた。そんな折、怪我をしてしまった菊松は馴染みである兵衛に自分の代わりの少年を紹介する。そうして、静かに去ろうとしていたのだが…。※一部性的表現を暗喩している箇所はありますので閲覧にはお気を付けください。

処理中です...