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サンディラス国の戦い

196.追跡者

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 「ジェンリャン渓谷へ行ってみよう」
 「え? おねしょ治すの?」
 「おいおい、もう十四になるのにそりゃねえ……いてえ!?」

 ディカルトに一撃を食らわしてから、俺は口を開く。
 町は一通り確認をしたけど国王は見当たらず、すでに渓谷に向かっている、もしくは到着している可能性が高い。
 問題は王位継承をした時期と『ブック・オブ・アカシック』の予知の時期がずれていないことを願いたい。
 サンディラス国がこんなふうになったのはここ数年のことらしいし、追放した時期がいつなのか俺達には分からないから、すでに居なくてもおかしくはないのだ。

 「このままアテもなく探すよりはそれらしい場所へ行った方がいいと思うんだ。それこそ神頼みで来る人がいるなら目撃情報もあるかもしれないし」
 「まあ、潜伏場所としては好都合かもしれねえ、か。オレはアル様に任せるぜー」
 「わたしもそれでいいわ!」

 説明としては微妙ではあったけど、一日を町中の聞き込みで費やした疲労を考えると目的があった方が気は楽だということか。
 二人からしてみれば『居たらラッキー』程度の感覚だと思うしな。

 そこから話は一気に進み、宿を取った後はすぐに食事を摂ってから就寝。渓谷へは朝から出発して一日と少しかかるため、地図を見た時にあったオアシスで一泊をしたい。
 人も多いだろうし、魔物と極力戦わない状況を選びたいところだ。
 
 ◆ ◇ ◆

 「ふい……暑いわねえやっぱり」
 「町は風の魔法で人工的に涼しくしているから、砂漠に出ると一際って感じだよな。<アイシクルダガー>」

 俺はアイシクルダガーを地面に放って氷の刃を作ると、ロレーナとディカルトへ一本ずつ投げて渡す。

 「タオルかなにかでくるんでおけば少しはマシだと思うよ。魔力で作ってるから中々溶けないだろうし」
 「わお、アルフェン君やっぱ賢いー。うんうん、いい感じ♪」
 「しっかしすげぇよなアル様は。剣も魔法も一流だし、血筋なんだろうな。つーかいてぇ……」
 「いきなりなんだよディカルト。俺達の命を狙ってたくせに」

 ディカルトがアイシクルダガーに頬ずりし、血を流しながらそんなことを言いだした。回復させるために並走すると、目を細めてから小声になる。

 「……どこからかわからねえが視線を感じる。バレたか?」
 「どうかな。とりあえず泳がせとこう。岩陰とか攻撃してもいいけど」
 「下手にここで交戦するより、オアシスで迎え撃った方がいいんじゃねえか?」

 それもそうだと頷いてから意思疎通を図ると、ディカルトはわざとらしく声を上げた。

 「あー、あの時はあいつに従ってたからなー。今は坊ちゃんのしもべですからご安心を! 実際、殺すメリットはねえしな」
 「それならそれでいいけど」
 「意外と仲いいよね二人って」

 ロレーナの言葉に俺達は肩を竦めて口をへの字にし、またディカルトが先頭を預かってくれる。なんというか不思議なヤツである。
 ただ戦うという欲求のためだけに生き、こうやって話しているが爺さんや俺と戦いたくないかと言えばそうではなく、最近は『一緒に居た方が強者と戦える』からという理由……特に黒い剣士とやりあいたいから協力的なだけだ。
 最終的にヤツを倒したらこっちに牙を剥くんじゃないかと考えている。

 こういうやつは向こうの世界でも居た。
 協力してもらっていた事務所に『死にたがり』なヤツと共闘したこともあるしな。
 こういうやつは変わり身が早いが、利害が一致している場合はまあまあ信用できる。調子に乗らせないためにもそんなことは言ってやらないのだが。

 <それにしても、水神が気になりますね>
 「おう!?」
 「どうした?」
 「い、いや、なんでもない……急に話しかけてくるな」

 人前でこいつが口を出すのは久しぶりだと小声で返す。
 まあ、お宝を隠したやつがそういう噂を流して近づけさせないようにする、みたいなことも考えられる。

 「とりあえず魔物を蹴散らしてから考えようぜ」
 「オッケー!」
 「ロレーナの火薬は取って置いてくれ、ディカルトやるぞ!」
 「へいへい!」

 そんな調子で魔物の襲撃を退けながら今日の野営地まで到着。
 ……視線はずっとついてきていたので恐らく気のせいではなく俺達を追っているらしい。そして運がいいのか悪いのか、到着した際に水辺に少し人が見えた。
 一般人か、それを装った回り込んでいる追手か……?

 「……」

 すっかり日が暮れたところで簡易コテージを収納魔法から出し、注意深く周囲を警戒しながら設置。特になにも無かったが、焚火を消して就寝を見せたところで動きがあった。

 「……このガキずいぶんいいものを持っているな……」
 「貴族の坊ちゃんにしちゃ強いが……」
 「構わん、男は要らないがガキと女は使える連れて行く――」
 
 「ふうん、パーティのお誘いにしちゃ随分物騒じゃないか?」
 「な……!? 起きて……いや、気づいていたのか!?」
 
 忍び足でこそこそと話しながら近づいてきた男に声をかけるとすぐに飛びのいて口を開く。数は5人、か?
 
 「ただの冒険者というわけではなさそうだな……」
 「お互い様だろ? なんで俺達をつけた?」
 「知れたこと、陛下のことを嗅ぎまわっている不審者を放置するわけにはいかんからな!」

 おっと、それはどっちの話かな? まずは倒してからかと、俺は魔法を放った。
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