上 下
197 / 258
サンディラス国の戦い

190.国王に見えぬ者

しおりを挟む
 「ギルディーラ殿……」
 「案内ご苦労、ここからは俺が連れて行こう」
 「し、しかし……いえ、よろしくお願いいたします」

 俺達をここまで案内してきたサンディラス国の兵士は頭を下げて道を譲り、困惑しながらも門番により鉄柵が開かれた

 門を抜け、ツィアル国の宮殿に近い造りをした城へ入る俺達。
 なんというかこういうのはエジプトとかにありそうだなみたいな感想を抱いていると、半そでのローブを着た男が駆け寄ってくる。

 「ギルディーラ様お戻りになられていましたか。……そちらは?」
 「客人だ。国王に会いたいそうだ」
 「は!? お言葉ですが、見る感じ他国の者……今の状況でそれは……」
 
 もっともだ。
 他国と喧嘩しようって時に王の許可なく連れ歩くのは常識で考えれば無理である。
 しかし、ギルディーラはローブの男の肩に手を置いて言う。

 「なにかあっても俺が守るから心配するな。それともなんだ? 俺の強さが信じられないか?」
 「い、いえ、そういうわけでは……」
 「ならいいだろう。俺の客でもあるのだ。国王との謁見を申し出てくれ」

 ギルディーラがにこりと笑顔を見せると、ローブの男は冷や汗をかきながら踵を返してこの場を去った。

 「なんだ? 折角笑顔で対応してやったのに」
 「怖すぎるよ、どう考えても煽っているんだけど」
 「なんだと……? おい、”死神”、お前の孫は恐れを知らないな」
 「はっはっは、私自慢の孫ですからな、ギルディーラ殿」
 「久しぶりに気概のある戦士を見たな」
 「精鋭ぞろいですよお父さん♪」
 「誰がお父さんだ」

 ロレーナに呆れた目を向けながら呟くギルディーラは、爺さん、オーフ、ロレーナ、ディカルトの順に目を向ける。
 気概のある戦士は彼等のことらしい。まあびくびくしていないし。

 ジャンクリィ王国の騎士や冒険者もまあまあだといった感じだが、イーデルン以下、ライクベルンの方には目もくれなかった。
 傍目には堂々しているイーデルン達だけど、分かる人には分かるんだな、やっぱ。

 そんな会話をしながら通路を進み、大きな扉の前まで案内される。
 そこでロレーナが今更なことを聞いてきた。

 「そういえばクリーガーちゃんも居ないのね?」
 「リンカと一緒に留守番してもらってるよ。婆ちゃんとリンカに預けとけば安心だからな」
 
 戦いになったら困るし、とはさすがにギルディーラの前では口にしない。それにこの暑さじゃまいっちまうだろうし連れて来なくて正解だったと思う。
 
 しばらく待っていると扉が開き、髭もじゃのおっさんが入るように促してきたので、ギルディーラの後を追う。

 赤いカーペットはお約束かと思いながら視線をなぞり、少し遠め見える玉座に合わさると、眼鏡をかけた優男っぽい人間が口元に笑みを浮かべて肘をついていた。
 ……見るからになんかありそうなヤツだと直感で思う。
 年の頃は30半ばから後半ってところか? 浅黒い肌がこの国の人間であることを物語る。
 俺達が中ほどまで進んだあたりで男が口を開いた。

 「おかえりギルディーラ殿。町の散歩はどうだったかな?」
 「まあまあ活気があって悪くない。後はチンピラの取り締まりを厚くしてもらいたいものだな。旅行してきた子供が因縁をつけられていたぞ」
 「くく、この国に旅行に来る方が悪いのさ。我ら砂塵族の領域に入ったのだから従ってもらわないと。君もその限りではないよギルディーラ殿?」

 国王……でいいのか? そういう雰囲気には見えない男がギルディーラに指を向けながらそんなことを口にする。
 すぐにそれはそれといった調子で俺達に目を向けて細い目をさらに細めた。

 「それで、ライクベルンとジャンクリィ王国の使者がサンディラス国王であるダーハルになんの用だい?」
 
 なるほど、俺達が決めている間に先に戻っていた奴が居たらしく、伝わっていたようだ。するとオーフが一歩前に出ると片膝をついて口を開く。

 「ジャンクリィ王国の代表、オーフと申します。お察しの通り使者として参った次第。我が国の陛下より書状を承っております、ご査収いただけますでしょうか?」
 
 すると慌ててイーデルンも前へ出て懐から書状を取り出した。

 「ライクベルンは一将軍、イーデルン=マイヤーです。こちらも同じく、確認をしていただきたい」
 
 冒険者のオーフに遅れているようじゃなあ……。
 とりあえず髭もじゃのおっさんが二人の手紙を回収して国王ダーハルに渡す。
 
 そのまま待機していると、ひとしきり目を通したダーハルがバッと手紙をまき散らして、笑う。

 「まあ、こんなものだろうね。残念だけど、答えはノー。国交は回復させないよ」

 その態度に俺達はピクリと眉を動かし、周りの兵士たちは困惑顔で様子を伺っている。

 「……そうですか。ライクベルンの町は砂塵族のせいで大変なことになっているのですがそちらについてはどうお考えかお聞かせいただきたい」
 「ア、アルベール殿」
 「イーデルン、一国の主が決めたことだ、そういうつもりなら仕方がない。だが、自国の領民が他国で迷惑をかけている状況は確認をとらねばならん」
 「む、むう……」

 爺さんが窘めるとイーデルンが呻く。
 まあ、自分とこはそれでいいかもしれないけど、言う通り迷惑をかけられている事実はあるんだよな。
 それについてどう返答してくるか? 返事を待っているとオーフが便乗して質問を投げかけた。

 「ジャンクリィ王国とのトンネルの件もある。あそこは今、そちら側の出口だけ封鎖されているが、こちら側も閉鎖させてもらいますよ? 攻め込まれたらたまりませんからね」
 
 暗に戦争はさせないと訴えているオーフ。
 ダーハルの答えは――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】赤い糸はきっと繋がっていないから【BL完結済】

今野ひなた
BL
同居している義理の兄、東雲彼方に恋をしている東雲紡は、彼方の女癖の悪さと配慮の無さがと女性恐怖症が原因で外に出るのが怖くなってしまった半ひきこもり。 彼方が呼んでいるのか、家を勝手に出入りする彼の元彼女の存在もあり、部屋から出ないよう、彼方にも会わないように気を使いながら日々を過ごしていた。が、恋愛感情が無くなることも無く、せめて疑似的に彼女になれないかと紡は考える。 その結果、紡はネットアイドル「つむぐいと」として活動を開始。元々の特技もあり、超人気アイドルになり、彼方を重度のファンにさせることに成功する。 ネットの中で彼女になれるならそれで充分、と考えていた紡だが、ある日配信画面を彼方に見られてしまう。終わったと思った紡だが、なぜかその結果、同担と間違えられオタクトークに付き合わされる羽目になり…!? 性格に難ありな限界オタクの義兄×一途純情ネットアイドルの義弟の義兄弟ものです。 毎日7時、19時更新。エロがある話は☆が付いてます。全17話。12/26日に完結です。 毎日2回更新することになりますが、1、2話だけ同時更新、16話はエロシーンが長すぎたので1日だけの更新です。 公募に落ちたのでお焚き上げです。よろしくお願いします。

元勇者の俺は、クラス転移された先で問答無用に殺されかけたので、魔王の部下になることにした

あおぞら
ファンタジー
 ある日突然、とある高校の2年3組の生徒たち全員がクラス転移で異世界に召喚された。  そして召喚早々、人間種を脅かす魔王を討伐して欲しいと言うラノベのテンプレの様な事をお願いされる。  クラスの全員(陽キャのみ)で話し合った結果、魔王を討伐することになった。  そこで勇者の象徴のチートスキルを鑑定されるも、主人公である浅井優斗(あさいゆうと)だげチートスキルを持っておらず無能と言われ、挙句の果てに魔王のスパイとしてクラスメイトから殺人者と罵られ殺されそうになるも、難なく返り討ちにしてしまう。  何故返り討ちにできたかと言うと、実は優斗はこの世界を一度救った元勇者のため、強すぎて鑑定が出来なかっただけだったのだ。  しかしこの出来事と何日か過ごした時に沢山の人間の醜い姿を見て、とうとう人間を見限った優斗は――― 「初めまして今代の魔王。元勇者だが……俺をお前の部下にしてくれ」 「ええっ!?」  ―――魔王軍に入ることにした。

魔女の記憶を巡る旅

あろまりん
ファンタジー
第13回ファンタジー小説対象に出してみました。 上位には無理でしょうが、暇つぶしの読み物にいかがっすか~なんて(笑)             □ ■ □ 『古の魔女』 太古より受け継がれし古き記憶。 世界を包む魔力の循環を支える者。 『白』の魔女モルガーナ。 『緋』の魔女エルヴァリータ。 『黒』の魔女ラゼル。 世界に散らばる数多の魔女はこの三人の『古の魔女』の系譜に連なる血族とされる。 だが、『古の魔女』の記憶は時の流れに薄れ、今ではお伽噺の中だけの存在となっている。 これは、そんな1人の『古の魔女』に出会った男のお話。

揚げ物、お好きですか?リメイク版

ツ~
ファンタジー
揚げ物処「大和」の店主ヤマトは、ひょんな事から、エルフの国『エルヘルム』へと連れて来られ、そこで店をひらけと女王に命令される。 お金の無いヤマトは、仲間に助けられ、ダンジョンに潜って、お金や食材を調達したり、依頼されたクエストをこなしたり、お客さんとのふれ合いだったり……と大忙し? 果たして、ヤマトの異世界生活はどうなるのか?! 

エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南
ファンタジー
辺境伯令嬢のリンディエール・デリエスタは五歳の時に命を狙われて前世の記憶を思い出した。『目覚め人』と呼ばれる転生して記憶を思い出した者は数百年に一人いるかどうかの稀な存在。命を封印されていたドラゴン、ヒストリアに助けられ、彼に魔法や文字、言葉を教えてもらうようになる。両親は病弱な長男しか目になく、半ば忘れ去られて育つリンディエール。使用人達に愛され、親友のヒストリアに助けられて彼女は成長していく。ちょっと違う方向へ……。チートで天然な明るい主人公が、今日も我が道を突き進む! *所々、方言に合わないものもあると思います。『エセ』ですのでよろしくお願いします。 * 完全に趣味と勢いで書き始めた作品です。ちょっとした息抜き、疲れた時のサプリとしてお使いください。 ご利用は計画的に(笑)

【コミカライズ化決定!!】気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています

坂神ユキ
ファンタジー
 サーヤこと佐々木紗彩は、勤務先に向かっている電車に乗っていたはずがなぜか気づいたら森の中にいた。  田舎出身だったため食料を集めれるかと思った彼女だが、なぜか図鑑では見たことのない植物ばかりで途方に暮れてしまう。  そんな彼女を保護したのは、森の中に入ってしまった魔物を追ってきた二人の獣人だった。  だが平均身長がニメートルを普通に超える世界において、成人女性の平均もいっていないサーヤは訳ありの幼女と勘違いされてしまう。  なんとか自分が人間の成人女性であることを伝えようとするサーヤだが、言葉が通じず、さらにはこの世界には人間という存在がいない世界であることを知ってしまう。  獣人・魔族・精霊・竜人(ドラゴン)しかいない世界でたった一人の人間となったサーヤは、少子化がかなり進み子供がかなり珍しい存在となってしまった世界で周りからとても可愛がられ愛されるのであった。  いろいろな獣人たちをモフモフしたり、他の種族に関わったりなどしながら、元の世界に戻ろうとするサーヤはどうなるのだろうか?  そして、なぜ彼女は異世界に行ってしまったのだろうか? *小説家になろうでも掲載しています *カクヨムでも掲載しています *悪口・中傷の言葉を書くのはやめてください *誤字や文章の訂正などの際は、出来ればどの話なのかを書いてくださると助かります 2024年8月29日より、ピッコマで独占先行配信開始!! 【気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています】 皆さんよろしくお願いいたします!

この奇妙なる虜

種田遠雷
BL
クリッペンヴァルト国の騎士、エルフのハルカレンディアは任務の道程で、生きて帰る者はいないと恐れられる「鬼の出る峠」へと足を踏み入れる。 予期せぬ襲撃に敗北を喫したハルカレンディアには、陵辱の日々が待ち受けていた――。 鉄板エルフ騎士陵辱から始まる、奇妙な虜囚生活。 転生しない方の異世界BL。「これこれ」感満載のスタンダード寄りファンタジー。剣と魔法と暴力とBLの世界を。 ※表紙のイラストはたくさんのファンアートをくださっている、ひー様にお願いして描いていただいたものです ※この作品は「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」にも掲載しています

菊松と兵衛

七海美桜
BL
陰間茶屋「松葉屋」で働く菊松は、そろそろ引退を考えていた。そんな折、怪我をしてしまった菊松は馴染みである兵衛に自分の代わりの少年を紹介する。そうして、静かに去ろうとしていたのだが…。※一部性的表現を暗喩している箇所はありますので閲覧にはお気を付けください。

処理中です...