上 下
193 / 258
サンディラス国の戦い

186.いきなりの衝突

しおりを挟む

 頂上にて一泊し、また半日かけて下山。
 山頂は寒かったけど、下るにつれてじわりとした暑さを感じ始めた。
 日本の梅雨開けくらいから夏にかけての湿度が強い状態と言えばわかるだろうか。

 「同じ大陸なのに山を越えただけでここまで違うものなのかな……」
 「北の大地も急に雪景色になるから、こんなものだと思うぞ。山が風の流れを遮断しているからかもしれんな」

 爺さんはタオルで汗を拭きながら俺に言う。
 まあ異世界だし、赤道がどうのみたいな説明よりかは魔力的ななにかがあると思った方が理解しやすいのかもしれない。『目の前にある事象』が幻ではない限りそうなのだから。

 そんな調子で蒸し暑さを感じつつ、最初の町へと到着。
 道中、砂漠ならではの魔物と戦いながらだったが、こっちは相当数の人数で行軍しているため難なく倒すことができていた。
 
 「夜になると冷えるな……砂漠だなマジで……」

 日が暮れてくると今度は急激に温度が下がり、行ったことはないがサハラ砂漠がこんなのらしいよな。
 そこでロレーナが俺にマントを肩からかけてくれた。

 「マント使う? わたしは初めて来たけど面白いわね。家は殆ど石でできているし、日焼けしまくっているからみんな色黒だわ。というかお風呂入りたいー!」
 「これだけ居たら宿も取れるかわからねえし、野宿かねえ」
 「アルフェンは絶対宿に寝かせるからな。ワシの名誉にかけて」
 「いいよ、そんなところで名誉使わなくても。っと、イーデルンとオーフの話が終わったみたいだな」

 ジャンクリィ側の先導者はオーフなので、責任者として話を聞いていた。
 ただの冒険者って感じじゃないんだよなオーフって。フェイバンと仲がいい、というだけでは説明がつかない気もするが……。

 <あ、お二人の話が終わったみたいですよ>
 「うーん……オーフに話を聞くか」

 イーデルンと顔を合わせると殴ってしまいそうなので、俺達はオーフの下へ。
 ジャンクリィ王国の兵士と騎士に混じって話を聞いてみると――

 「いやあ、面倒くさいことになってきたぜ。ここから先は用事のある人間だけで来いとよ」
 「どういうことだ? まさか国王と交渉する人間だけで行けってことか?」
  
 オーフの連れていた騎士が訝しんで口を開くと、

 「ああ、護衛は10人以下。そうでなければ交渉のテーブルにつかないって話だ」
 「無茶を言いやがるな、おい」
 「要するにそれが嫌なら来るな、ということだろうな。よほど戦いがしたいとみえる」
 「マジかよ、望むところだぜ」

 ディカルトだけノリ気だが、俺達は疑問と困惑の表情で黙り込む。
 国力差が相当あるにも関わらず、交渉にはつかないとなれば理由はいくつかある。
 
 ・交易がなくとも自給自足でやっていける。
 ・意地を張っているだけ。
 ・ガチで戦争をして勝てると確信している。

 で、恐らくガチで戦争をして勝てると踏んでいるのだろう。
 交易がないと木も手に入らないし、食料事情も厳しい。肉が取れそうな魔物は出てこなかったし、野菜もいいものが取れるとは思えないからだ。

 「本気でやる気みたいだな。にしても急にどうしたんだろうな。直近の国交ってどうだったのか気になるな」
 「確かにそうよね、去年とかそんな話なかったじゃない?」
 「ワシが将軍をやっていた時は特に揉めているようなことは無かったな。国王と謁見したこともあるが、気さくな方だった」
 「なにか心変わりしたってことかねえ。ま、偉い奴にはよくあるこった」

 ディカルトがそう言って締めるが、さてどうするの部分が浮いてしまう。
 護衛を少なくして行くのか、それとも引き返すのか。
 そこでイーデルンが俺達のところへやってきた。

 「オーフ殿、ジャンクリィ王国はどうされる? 我々は一度引き返そうかと思うのだが……」
 「あー、そうですか。俺達はこのまま王都へ向かおうかと思っています。トンネルを開通させないと面倒ですからねえ」
 「そ、そうか……」
 
 ジャンクリィ王国はオーフとロレーナ、他8人で対応するらしい。
 ただ、このままライクベルンが引き返すなら俺はオーフについていこうかと考えている。

 だが――

 「ライクベルンも行けばいいではないか。誇り高きライクベルンの将軍が言いなりになって戻るなど笑いものぞ」
 「ア、アルベール殿……」
 「お前も将軍なら覚悟を決めよ。無論、ワシもついていくぞ」
 「くっ……そ、そうですね、では申し訳ありませんがアルベール殿、同行をお願いします。他はディカルト、貴様も来い」
 「へいへい、言われなくても行きますよっと。ただ忘れて貰っちゃ困るぜ、オレぁもうあんたの部下じゃねぇからな? 今はアルフェン坊ちゃんの犬です」
 「うるさいよ!?」
 「ぐあ!?」

 なぜか俺を抱きかかえて真顔になるディカルトにかかとで顎を攻撃して地上へ降りると、俺もイーデルンへ言う。

 「爺ちゃんが行くなら俺も行くよ。こっちの二人とは知り合いだし」
 「わ、分かった。ではそれを踏まえてメンバーを募る」

 俺と爺さんの顔を見て一瞬、嫌そうな顔をしたがすぐに踵を返してライクベルン側の騎士と兵士に声をかけていた。
 あんなのが将軍ねえ、副隊長をしていた時の方が生き生きとしていた気がするけど、俺と爺さんに嫌がらせをしてまで守る地位……本当にあれで幸せなのかねえ?
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...