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サンディラス国の戦い

185.山岳地帯

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 陛下との話し合いからさらに三日ほど経過した今日、いよいよサンディラス国へと旅立つ時が来た。
 乾燥地帯ということなので砂漠ほどの荒野ではないらしいけど、魔人族の住む地域よりは砂地が多い。また、風も強く装備はきちんとしないと砂で目をやられるとか。

 ライクベルンやジャンクリィと同じ大陸なのにここまでの差があるのは、今まさに上っている山と、サンディラス国の森林伐採による環境破壊レベルでン百年前くらいからガラリと変わってこんなことになっているらしい。
 干ばつならまあいつかは雨が降れば……という感じだけど、人的要因は人間がなんとかしない限りそうそう元にはもどらないのが――

 「ふう……現状だな」
 「なに? 疲れちゃった?」
 「いや、いい運動になるなって。にしても高いなこの山」
 「世界で何番目かの高い山だからな。北の方には雪と氷に覆われた高い山があるらしいぞ」

 汗ひとつかいていない爺さんが水袋に入っている水を飲みながらそう返してくる。
 この前ゴブリンロードと戦った山とは違い、斜面も急だから歩きにくいんだよな。
 一応、道らしきものは作られているけど、ホント簡素なものだ。
 
 「イーデルン野郎は一番前か、なんかしてくるかな?」
 「あんた、なに仲間面して横に居るのよ? あっち行きなさい」
 「ああ? いいじゃねえか! あん時のことは謝ったんだからよ! なあアル」
 「いや、信用はしてないけど……」
 「嘘!?」

 ディカルトが俺の肩を掴んで意外そうな顔をするが、一年そこらで完全に信用できるほどじゃないだろと。
 するとロレーナが俺を奪取し、下を出して口を開く。

 「ほらみなさい! アルフェンはウチの子なんですから」
 「それもおかしいだろ……」
 「嘘!?」
 「嘘!? じゃないよ。ところでオーフ、今回はどうして参加したんだ?」
 
 ロレーナの手を逃れて前を歩くオーフに尋ねてみる。
 ジャンクリィ王国の騎士団長フェイバンと仲が良かったり、ロレーナが書状を持ってきたりと、実は謎が多いんだよなこの二人。

 「……本当はフェイバンのヤツが来る予定だったんだけど、他にやることがあってな。まずは先兵として俺が代表で来たんだよ」
 「冒険者なのに国の依頼で良く動くよな」
 「はは、色々あんだよ俺達にも」

 『俺達』か。
 ゴブリンロードの時に俺を庇って死ぬ予定だったわけだが、その場合、残されたロレーナはどうなるのかとか色々気になる点はつきない。
 あのクソ本もここはどうなるか分からないらしいし、オーフは気にかけておかないと死ぬ可能性もあるかもしれない。

 「ま、とりあえず交渉が上手く行くといいけどな」
 「だな。これが終わったら、少し休むかねえ。金も貯まったし」
 「そういうこと言うなよ!?」
 「え? なんでだ? 痛っ!? なにすんだアルフェン!?」

 フラグが立つとは言えず、口ごもる。
 これはますます目が離せない……俺はオーフの尻を叩いて行軍を続けるのだった――

 ◆ ◇ ◆


 「陛下、斥候からの情報です。ライクベルン側の山に使者が来ているようです」
 「……ふん、まだ交渉するつもりなのか? 迎撃――」
 「止めておけ。全面戦争になったら人が死ぬぞ」
 「構わないだろう、この国が繁栄するための戦いを恐れる者などおらんだろ?」

 玉座で雄弁に語る男が控えている熊のような人間に笑いかけると、ため息を吐いて続ける。

 「食料の自給がそれほどない国だぞここは? 二国を相手に立ち回れるほど国力が強くない」
 「そのために『英雄』を雇ったんじゃないか、バルケン。お前もランクが89と高いだろう? 勝てるさ」
 「……そう、上手くいかないのが戦争だと何度も……。まあいい、先代はどこにいる?」
 「え? さあ……もうどこかで野垂れ死んでいるんじゃないか? ま、あんな無能王なんて必要ないだろ。とりあえず話だけは聞いてやるか。なにをしている、早く持ち場につけ」
 「……了解」
 「口の利き方に気をつけよ。もうただの友人という間柄ではない、王と従者なのだからな」
 「申し訳ございません。それでは失礼します」

 バルケンと呼ばれた男は肩を落としながら謁見の間を出て行くと、先ほど報告をしてきた兵士と共に通路を歩く。

 「……大丈夫ですかね、この国」
 「大丈夫な訳はない。あの男が国王になった時点でな。もう国を出ている者も居るようだしな。お前も今後の身の振り方を考えておけ」
 
 兵士と別れたバルケンはため息を吐いてから再び歩き出す。
 
 「先王を探さねば……このままでは本当に砂塵族は淘汰されてしまう。イークンベルとの国交回復にも向けていた矢先これだ。ダルジャンも王になった途端、急に人が変わったみたいに危険な言動が目立つ」

 イークンベルと争いを起こしたのは二代前の王。
 今回はその問題ある王のひ孫である王子が父親と交代……いや、追い落として成り代わった瞬間、戦いを始めようというのだ。

 「『英雄』ギルディーラ=ガラップ……一人で戦いを収束できるわけもあるまい。しかし、話は通じそうだ、一度話をしてみるか……」

 幼少期の思い出を一瞬振り返りながら、バルケンは先を急ぐのだった――


 ◆ ◇ ◆
 
 「へえ、サンディラス国って『騎士』とか『兵士』じゃないんだ」
 「そうだ。今でこそ国として機能しているがほんの500年くらい前までは集落として活動していたからな、そういった概念がないのだよ」

 俺と爺さんはそんな話をしながら見えてきた頂上を目指す。
 するとオーフが話に乗っかって来て口を開いた。

 「統治者が居ないから好き放題に木を切って、気に入らなければ殺し、破壊しまくった。ライクベルンやジャンクリィが見かねて国としての在り方を教えてようやくって感じなんだよな」
 「へへ、お嬢ちゃんも気を付けないとさらわれるぜぇ? まだ奴隷制度がある国みてえだからな」

 そう言ってロレーナの尻を触ろうとしたディカルトが地面に転がる。
 ロレーナって何気に剣と魔法以外のところでランク以上の力をもってんだよな。

 「だーいじょうぶよ! わたしにはオーフとアルフェン君がついているし!」
 「気をつけなよ? 俺達もずっと一緒に行動しているわけじゃないだろ。ライクベルンとジャンクリィ王国の使者って扱いなんだし」

 楽天的なロレーナにそう告げると、彼女は俺の手を取ってにっこりと微笑む。

 「ま、そこは実力のあるロレーナさんだからね! というか一年で大きくなったよね。もう少しでわたしと同じくらいだし」
 「屋敷でいいもの食べて運動しまくってるからかな?」
 「抱きしめるのが楽に……あわわ!?」

 ロレーナのスキンシップを回避し、先に目を向ける。
 頂上に辿り着いた俺は眼下の光景に目を奪われた。

 「……こりゃ、凄いな」
 
 一面の砂、砂、砂……少しだけ緑と湖が見えるがほとんど茶色の風景だ。
 さて、戦争回避ができるといいけどな……

 俺達はこのまま下山ルートへと足を進めるのだった。
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