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ライクベルン王国

182.時は過ぎ

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 屋敷に引っ越してきてから一年が過ぎた。

 俺とリンカは十三歳だが、ここに帰って来た時点で誕生日が近かったから実はもうすぐ十四になる。

 修行に明け暮れている毎日を過ごしていて、黒い剣士に関する手掛かりは得られていない状況である。
 『ブック・オブ・アカシック』に尋ねてみるも核心については触れず、時が経てばとしか返ってこず、こんな調子で大丈夫なのかと苛立つ。

 陛下や騎士たちがこっそり調査を進めているが、せいぜい遠征で事情を話すくらいしかないのでこちらは受け身にならざるを得ない。
 正直、身動きが取れないのは歯がゆい思いだ。

 訓練は順調で、俺の剣ランクは50を越えてリンカは40。爺さんには全然及ばないが手ごたえはあるし、魔法を使えば悪くない勝負になる。

 このまま待ち続けるだけというのも得策ではないので、本が示していた通り装備品を新調すべきかと爺さんに提案を投げかけようかと思っていたところで客人が現れた。

 ◆ ◇ ◆

 「アル様にお客様が見えられていますよ」
 「俺に? 爺ちゃんじゃなくて?」
 「ええ、オーフ様にロレーナ様と言っておりますが、如何いたしましょうか?」
 「なんだって!? 通していいよ!」

 あれから音沙汰が無かった二人が尋ねて来てくれた。
 代わり映えしない毎日だったから少し気分がいいなとリンカを連れて応接室へ。
 そこでちょうど畑仕事から帰って来た爺さんと出会う。

 「前に見た娘と知らない男が入るのが見えて追ってきたが、アルフェンの知り合いか?」
 「ロレーナだよ。ジャンクリィ王国から手紙を持ってきた」
 「ああ、そうか娘の方は見たことがあったわけだ」
 「男の人はお兄さんなんですよ」
 
 リンカが笑ってそう言うと、なるほどと爺さんは顎に手を当てて頷いていた。それにしても……

 「爺ちゃん、農夫姿が似合うなあ」
 「ふん、いい男はなんでも似合うのだぞ。リンカは今日も可愛いのう」
 「ありがとうおじい様」

 自分も行くと言いだした爺さんを連れて俺達はオーフ達の待つ応接室へ。
 入ると相変わらずの二人がこちらに顔を向けて手を振ってきた。

 「やっほー、アルフェン君にリンカちゃん! 元気ー?」
 「久しぶりだな」
 「オーフにロレーナ、久しぶり。こっちは元気だよ、そっちは……元気そうだな」
 「おうよ! ロレーナから聞いていたが無事にここまで帰り着いていて良かったぜ」

 歯を出して笑うオーフを尻目に俺達もソファに座る。
 そこで彼が立ち上がり、爺さんに頭を下げた。

 「初めまして、アルベール様。私はオーフ、しがない冒険者です。以後、お見知りおきを。……‟死神”の名は存じています」
 「はっはっは、腕は衰えているとは思わんが、もう将軍の座は譲ったのでな、その通り名は返上でもいいかもしれんわい。それとアルフェンとリンカ、二人の孫をすくってくれたこと、感謝するぞ」
 「いえ、むしろこちらが助けられましたよ。ゴブリンロードを倒せる者はそうおりますまい」

 俺に視線を向けて笑うオーフに愛想笑いで返す。何故かべた褒めなのがむずがゆいんだよ……。
 
 「今日はどうしたんですか? 遊びに来てくれたとか?」
 「いやあ、実は依頼でこっちに来ることがあったから顔を出したのよ」
 「依頼? ライクベルンでとは珍しいな」
 「……やっぱこっちには情報が回ってないみてえだな。ジャンクリィ王国とライクベルン王国の合同で戦争に近い戦いが始まる……かもしれねえ」
 「なんじゃと? 詳しく話せい」

 爺さんが目を細めて口を開くと緊張が走る。
 戦争に近い、というのが気になったようでオーフを急かす。彼は小さく頷いた後に話し出す。

 どうもライクベルンから見て南西、ジャンクリィからだとほぼ西に位置する国、サンディラス国が不穏な状況になっているらしい。
 山の向こうにある向こう側は緑が少ない砂漠に近い大地が広がっているみたいだが、過酷な中でも適応して暮らしている。

 しかし、向こうから逃げるようにして各国に来る者が後を絶たないのだとか。
 素行不良な人間も居るので、どういうことか問い合わせたところ送り込んだ使者はしばらく軟禁された上で突っ返されたらしい。
 ……その時に酷い暴行を受けたようで、大変だったとか。骨が折れるような感じとか……。

 「酷い……」
 「ジャンクリィ王国からは山の中腹から行けるんだが、やはりそういう感じで取りつく島は無し。国交は問題ないんだが、鉱物の金額をやたら吹っ掛けてくるようになってな。ならこっちは食料と水を等価にすると宣言したら攻め込むぞ、みたいな脅迫めいた話が来たってわけだな」
 「言いがかりっぽいなあ……」
 「うむ。元々こちらへ攻めてくるつもりだった、ということが伺えるな。サンディラス国は広さだけならかなり広い。昔はイークベルン王国と揉めたこともあるのだからあり得ん話ではないな」

 爺さんが橋を落とした事件について語る。
 あれって確か砂塵族側が落としたって話だったっけ? 攻められないように、みたいな。

 「にしても、急だな」
 「ずっと準備をしていて整ったのかもしれんな。ではお主らはそれに参加するのか?」
 「そうですね。アルフェンの黒い剣士も調べていたけど、ジャンクリィやスリアンじゃなんもなしよ」
 「まあ、本を持っている当事者の俺でも情報無しだから仕方ないよ。でも、ありがとう」

 特に俺を作戦に参加してもらうみたいは話じゃなく、単純に激しい戦いになるかもということで顔を見に来てくれたらしい。

 そんな二人に一泊してもらい、食事を振舞って部屋へ。
 そういえば、と俺は以前ゴブリンロードを倒した時に『ブック・オブ・アカシック』に驚いたことを言われたのを思い出して本を開く。

 「……お前、ゴブリンロードの時にオーフは死ぬはずだったと言っていたな? ロレーナはその時どうだったのかと、今からサンディラス国と戦争をするらしい。それについて教えてくれ」

 さて、なんと答える?
 
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