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中央大陸の戦い

159.不意に現れるヤツ

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 「ここは……」

 意識が覚醒した瞬間、ここが『違う場所』であることが分かる。同時に、一度来たことがある、とも。
 手足が無いのでいわゆる精神体というやつ。
 
 この状況なら答えは一つ――

 「……イルネースか?」

 この世界を作った神の名を口にするとぼやけた視界に人影が見え、口を開く。

 『やあ、久しぶりだね和人君』
 「やっぱりか。って、随分姿がはっきりしないな?」
 『……ああ、前にも言ったと思うけど本来はそこまで現世に干渉することはできないからね。前も君の姿は無かったろう? だんだん不安定になっていくんだ』
 「なるほどな。で、そこまでして俺を呼んだからには理由があるんだろうな? 現世はゴブリンロードとの戦いで大変なことになっているんだ、回復できる俺も早く戻らないと……」

 かなりブレて見えるイルネースを目……といっていいか分からないがよく凝らして視ていると、さっそく本題に入る。

 『さて、今日ここに呼び出したのは他でもない。スキルと彼女について少し補足しておこうと思ってね』
 「スキルって二つのか? 彼女ってのは心当たりがないんだが」
 『スキルはそのままセラフィムとパズスだね。まあ、パズスは使ったことがないみたいだけど、無茶をしているから警告かな』
 「警告だと?」
 『ああ、マナが少ない状態、ちょうど今みたいな状況で使うのは得策じゃない。最悪寿命が縮む』
 「げっ、マジか!?」

 俺が驚愕の声をあげると、イルネースの頭であろうシルエットが縦に動き肯定の意思を表示する。
 今のところ限界を越えて使ったのはさっきの女性二人に対してだろうか。
 あれからかなり身体が重く感じたからな。

 『今までに二回、かな? 母親の子宮回復と欠損した冒険者の回復をした時はかなり消耗したハズだ。早死にしたくなければ気を付けるんだね。パズスも同様だけどセラフィムほどじゃないから、体のマナが成長すれば連発はできる。
 セラフィムは怪我の治療から失ったものを復元できるけど、度合いによって消耗度が変わると覚えておけばいい』
 「分かった。けど、なんで今更?」
 『はっはっは、無茶をするから、このままだと人生を、前に死にそうな気がしたからだよ』

 相変わらず腹立つな。
 まあ要するに自重しろと言いたいらしい。だけど、目の前で死にそうな人を見て助けないという選択は無い。
 ……いや、死ねば復讐はできなくなるから正しいと言えばそうなるのか。

 まだ子供の段階での忠告はありがたいと思うとしよう。
 続いて俺はもう一つの話題に変えてみる。

 「で、彼女ってのは?」
 『リンカだ。あの子は手放したらダメだよってことを言いたかったんだ、必ずライクベルンへ連れて行くんだね。馬が合うってあったろう』
 「あ? ……ああ! 『ブック・オブ・アカシック』が書いていた子か!! どうりで聞いたことがあったと思った。でも、彼女を連れて行くっていっても家族とかいるだろうし、強引に連れて行くのはマズイだろ」

 本には黒い剣士を追うには必要と書いていたが、俺は彼女についてなにも知らないので下手なことはできないと思う。

 『いやあ、案外さっきの戦いで惚れたりしてね?』

 よしんばそうだとしても向こうにも都合というものがあるだろうに……。
 俺が反論しようとしたところで、イルネースが舌打ちをする。

 「チッ、時間……みたいだね。それじゃスキルの扱いには十分注意するんだよ。特別にマナを回復しておいてやるから、生き残った人の治療はできるはず』
 「結局なんだったん――」

 ◆ ◇ ◆


 「――だよ!」
 「ひゃん!? あ……起きた……起きたわロレーナさん! ああ、コホン起きたぞ!」
 「あいた!?」
 「あ、す、すまない!?」
 「きゅーん」

 文句を言おうと口にしたところで目を覚ましたらしい。
 勢いで上半身を起こすと、膝枕をしていたと思われるリンカが慌てて立ち上がり膝が後頭部へ直撃。さらに腹に乗っていたクリーガーがころんと地面に転がり落ちた。

 めげずに再び尻尾を振って乗ってきた子狼を撫でていると、日がとっぷりと暮れていることに気づいた。
 いったいどれくらい寝ていたのかと考えるより先に、ゴブリンロードの死体近くにいたオーフとロレーナが近づいてくる。

 「わあああん! 良かったよー!」
 「生きてたか、驚かせやがって!」
 「うわ!? ま、なんとか……それで、状況は? 自分静かみたいだけど」
 
 ロレーナが俺に抱き着き、オーフは頭をくしゃりと撫でてくれると軽く頷いてから説明を始める。

 まずゴブリンロードは再生せず、完全に絶命したところでゴブリン達の士気が低下。
 逃げる者や、やぶれかぶれで突っ込んでくるやつなど様々いたが散漫になってくれたおかげでほぼ全滅させることができた。
 
 プラスでゴブリンロードが操っていた魔物たちも我に返ったように散っていったそうだ。
 そのことについてはもう一つ驚くことがあった。
 
 「この子達が来てくれたから早い収束になったのよ。クリーガーちゃんのおかげね」
 「きゅんきゅん♪」
 「おお……」

 ロレーナの視線の先にはフェンリアーの群れが固まっており、月明かりに白い毛がよく映えていた。
 そういえば結果的に俺とオーフとロレーナがドラゴンスネイルを倒した形なので、助けてくれたのかもしれないな。同じく南に下っていたし。

 「サンキューな」
 「アオオオオオオ!」
 「おう!?」

 リーダーが遠吠えを上げ、他の仲間も追って鳴く。
 ひとしきり鳴いた後、俺とクリーガーを見てから踵を返して歩き出す。なんとなくだがもう会うことは無い。そんな気がした。

 「元気でなー! 人間に捕まるんじゃないぞ!」
 「きゅんきゅーん!」
 
 最後に一度だけリーダーが振り返り、フェンリアーの一団は闇夜に姿を消した。
 だが、余韻に浸っている暇はないと口を開く。

 「ケガ人はいるか? マナが回復したから今なら治療に専念できる」
 「……大丈夫か? でも、まあ、欠損を治せるヤツなんて他にいねえしな……」
 「うん。ごめん、お願いできるかな?」
 「欠損を……治せる?」

 クリーガーを抱っこするリンカを後ろに、俺はロレーナについて現場へと向かった。
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