前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪

文字の大きさ
上 下
139 / 258
中央大陸の戦い

133.取引

しおりを挟む

 <……それ、読むんですか? 私は最近、嫌な感じしかしませんけど>
 「嫌な感じとかわかるんだな……。いや、俺も最近の本は感じ悪いなと思うけどな」

 マイヤの件はかなり腹が立ったので投げ捨てたくらいにはあまりいい感情はない。
 しかし先のことをある程度予測して教えて貰えるのは犠牲者を減らしたりする意味では助かるのだ。
 エリベールや誘拐された子供達に【呪い】の詳細、カーランについてなど有用な情報が無かった訳じゃない。

 あれ、まてよ? よく考えると大局的な話は有用だけど個人的なことだと冷たい気がしないか……?

 「……ふむ。今後注意してみるか。とりあえずマイヤについて報告してみて反応を確かめよう。ブックよブックよブックさん、俺に相応しい女性はだあれ?」
 <なんですかそれ……>

 俺が本を開きながら冗談めかして鏡よ鏡的な感じの言葉を口にする。
 すると白いページに文字が浮かび上がり――

‟リンカ=ブラネイルだ”

 ――知らない名前が出ていた。

 「誰だよ!?」
 
 なにか反論があるのかと思ったが、淡々と文字を浮かび上がらせていく『ブック・オブ・アカシック』

 ‟中央大陸のどこかで会うことになる同年代の女の子で、お前は彼女を助けなければならない。いいな、必ずだぞ。黒い剣士を倒すには必要な人材であり、エリベールと共に大切な人物になるだろう”

 「これって……」
 <浮気の斡旋……!>
 「違う!? いや、違わないのか……? というか必ずってどういうことだ? 情報を知っているからか?」

 ‟……ああ、うん、そんなところだ”

 「嘘くせえ!!!!」
 <ものすごいざっくばらんに返してきましたね……。嫌な予感しかしませんけどどうしますか?>
 
 リグレットが『うわぁ……』というような声色で俺に尋ねてくるが、ことは黒い剣士に関わることなら無視もできない。
 
 「その、リンカってヤツはどこにいるんだ?」
 
 ‟中央大陸に入れば分かる。大丈夫、彼女はお前とは馬が合うというやつだ”

 「えらく言い切るな……それくらい重要だってことか? もし出会わなかったり大事な人として扱えなかったらどうなるんだ?」

 ‟後悔するだろう。少なくとも黒い剣士を追うなら必要になるはずだ”

 <どっちでも良さそうな感じしません?>
 「確かに。まあ、その時に決めればいいか、どこで会えるかは……相変わらずだんまりだし、見た目を含めて絶対そうなるとは限らないだろうし。
 それよりエリベールはもう大丈夫なんだろうな? 後、カーランの『英雄』を作るって話はどれくらい信憑性があったのか分かるか?」

 先のことはいいとして、エリベールやカーランのことを尋ねてみることにした。
 この先、エリベールが危機に晒されたりすることがあるなら先手を打っておきたい。

 すると――

 ‟シェリシンダ王国はエリベールが生き残ったことによって未来が変わったのでどうなるかは不明。
 『英雄化』は人工的に行うことは難しい。が、できなくはない。カーランのミスは種族を……例えば人族と魔人族、エルフといった他種族との交配を極めて強い者を作ろうとした。
 しかし、それだと時間がかかりすぎ、隔世遺伝でしか強くならないかもしれないし、そんな存在が産まれないかもしれない。
 だから数十年、子供の選別をして――”

 そこで俺はおかしな話ということに気づき、ストップをかけた。

 「ちょっと待て。交配も考えていたみたいだが、カーランは俺を媒介して英雄を作ろうとしていたぞ? 子どもの力をどうにかして抽出するような実験をしていたみたいなことを言っていた」

 そういうと、本は少し間があってから文字を浮かび上がらせる。

 ‟考え方そのものが違うのか。やはり過干渉は良くないのかもしれないが、もう止めることはできない。一つ、提案をしたい”

 「あ?」
 <なんだこいつ>

 ‟出来る限り本を開ける状態にして持ち歩いて欲しい。選択を迫られる状況ですぐに助言できるようにだ。そうすれば危ない橋を渡らずに済む可能性が高くなる
どうだろうか”

 リグレットがポツリと呟いたが確かに『なんだこいつ』って話だ。
 まさか持ち歩けとか指示されるとは思わなかった……。
 そこで俺は以前から懸念していたことを聞いてみることにした。

 「……お前、一体何者なんだ? 未来を予測していると思っていたが、どうも歴史を知っていて『そうならないよう』に俺を動かしている気がする。
 予測はそうかもしれないが、俺の質問に対してリアルタイムで書き込んでいるんじゃないのか?」

 ‟そうではない。アルフェンが主になったということを予測して、聞いたことから意見を導いているに過ぎない。……本にマナを込め、持ち歩いてくれればもう少し先が分かるかもしれない”

 要求が増えたな……。
 持ち歩くのは悪い案じゃない。何故ならこれが『ブック・オブ・アカシック』だということを知らしめることが出来るからだ。
 マナを込めるデメリットは今のところ無いが、なにかを隠し事をしている気もするので憚られるのだ。

 だが、これはこいつを試すいいチャンスかもしれない。
 味方なのか敵なのか……

 <アル様、いいんですか?>
 「……とりあえずは」
 
 俺はマナを本に込めると、辞書サイズだった本が小さくなり、懐に入れられる程度の大きさへとなった。

 ‟感謝する。……次の停泊先では特になにも起こらない。その次も。東の港へ到着してからギルドへ行くといいと出ている”

 「占いかよ!? それに東の港町まで降りるつもりは無いからなんも起こりようがないだろうが」

 捨てても戻って来るしなあ。
 まあ俺を破滅させようという訳では無さそうだが、こういう曖昧で適当加減が、人を不幸にするいわく付きの本と言われるのかもしれない。
 今度、今までどういった人物についていたか聞いてみるとするか……

 「ふあ……」

 とりあえず東の港町までゆっくりするかとベッドに倒れこみ、俺は眠りについた。

 その日は何故か、前世で協力者と恋人のような関係だった怜香との馴れ初めの夢を見ていた――


 ◆ ◇ ◆

 ――???――

 「来たぞ来たぞ……! ついにアルフェンのマナを本と繋げることが出来た……!! エリベールが生き残り、ツィアル国との絆もある。魔人族も協力してもらえそうな体制がある……これなら……」
 
 薄暗い地下室で無精ひげを生やした妙齢の男が本を開いた状態で震えていた。
 
 「あと少し……この体、もってくれよ――」

 涙をこぼし、背後のベッドに横たわる人物に近づき、男は口元を不敵にゆがめていた――
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...