138 / 258
アルフェンの旅立ち
132.ひと時の休息
しおりを挟む「あー……」
<暇ですねえ……>
出発して早一日。
俺は甲板で海を見ながらぼーっと過ごしていた。いや、それしかすることが無いから仕方がない。
向こうで言う18世紀くらいに存在したガレオン船みたいな帆船はそれなりに大きく、船底から三階分の移動範囲がある。
甲板のすぐ下の階が客室で二階が食堂や娯楽室。船底が荷物置き場、らしい。
らしいというのは底にいけるのは作業員だけだからだ。
まあ荷物は収納魔法に入れてあるし行かなくてもいいんだけど、こう暇だと探索をしたくなるのもあるな。
「ふあ……」
<また寝ます?>
「うーん、寝るのも体が鈍りそうだし素振りでもするかな。ここ広いし」
<いいかもですね>
周りに誰も居なければリグレットのおかげで会話には事欠かないため寂しさは紛れる……。
<女の子が居ればベッドでイチャコラできるのに残念ですねアル様>
……紛れるが、口を開けば下品なことを低確率ながら言うので返事に困ることもしばしばだ。それでも一人旅を続けるうえで相談もできる相手がいるというのはありがたい。
<あー、双子ちゃんに会いたいですよー。次に会ったら大きくなってますかね>
「まあ……そうだな。いつ戻れるか分からないけど、爺さんの様子を見た後、一度戻りたいけど、一、二年は情報収集だな。……フッ! ハッァ! おっと……」
<あらら>
現代の貨物船みたいにハイテクな船ではないのでよく揺れるのだが、ここで剣を振るのは結構難しいことに気づく。
逆に考えればこの揺れの中、安定した動きが出来れば地上戦で有利に立ち回れるんじゃないか? 船の上で訓練すれば暇つぶしになるし一石二鳥……!!
――と、思ったのだが……。
「一人じゃ走り込みと素振りくらいしかできないな……」
<相手が居ないと実戦形式が難しいですからね……>
「あーあ、お前が人型ならなあ。かゆいところに手が届かない」
<な!? 話し相手がいるだけでもマシだと思って下さいよ!>
「お前が言ったら台無しだからな?」
甲板に設置されてあるベンチに寝転がって空を見上げる俺。
バランスを取る練習は問題ないが、やはり戦闘を想定し、ランダムに動き回ることで効率は大幅に変わるはず。
だが、残念ながら相手が居ない……
「下船まで我慢か……」
少し休憩するかと思い目を瞑って寝ていると、うとうとし始めたころに袖を引っ張られる感覚があった。
「ルーナか? 俺は疲れているから寝かせてくれ」
「ルーナ……? わたし違うよ」
「おう?」
うっすら目を開けて声のする方を見ると、全然知らない幼女が首を傾げて俺を見ていて、慌てて目を開ける。
「だ、誰だ……!」
<あら可愛い>
ちょうど起き上がったところで今度は男性が駆け寄ってきて幼女に声をかけていた。
「こら、勝手に動いたらダメだろう!」
「ごめんなさーい。でも、おにいちゃん見つけた!」
「ん? 俺になにか用があるのか?」
「ああ、すまないね寝ているところに。出航の時に君が見せた泡の魔法をこの子がえらく気に入っていてね、もう一回見たいと探していたんだよ」
ああ、アクアフォームの細分化状態か。
確かに子供であるウェイのために使った魔法なのでこの子も興味を持つかもしれないな。
「ああ、別にいいですよ。それ」
「わあああああああ!」
10本の指からちいさなシャボン玉のような泡を作り出して数を増やす。
時には手を振り、ゆっくり幼女の前でひときわ大きな玉を作り出すなどして喜ばせてあげた。
最後に幼女と親御さんをアクアフォームで包んでやる。
「すごーい!」
「ほう、これは面白いね」
「昔、この魔法で雨を防いで買い物に行ってたりしましたね。外側からの圧にはそこそこ強くて、内側から強く殴るか時間経過で消えるようになってますよ」
「……そういえば詠唱をしていない気が……」
お、魔法とは縁が無さそうな人だがそこを聞いてくるとは思わなかった。
別に隠しているわけではないし、広めてくれれば俺という存在が希少だと思われ、情報を持っているヤツから近づいてくるかもしれないのでそれはそれである。
「あー、まあ修行の末ってことで。慣れるとできるもんなんだ」
「それは凄いな。私も生活で魔法を使うけど略式詠唱でも難しいのに」
ま、戦闘を視野に入れてなければそんなものだろう。
ラッドとイワンに対しても『魔法は詠唱するもの』というのを払拭させるのに結構かかったからな。
そこで船の一番上にある鐘が大きく鳴り響いた。
いわゆる正午。
この船では正午と18時に食事が出るので、その時間に鐘が鳴る。
「お、そろそろ昼食みたいだし、俺行きます
「ああ、ありがとう。子供の扱いに慣れているね?」
「ほら、ミーナもありがとうを言いなさい」
「ありがとーおにいちゃん!!」
「これくらいの弟と妹が居るんです」
俺は手を振って船内に戻ると、食堂へ行き、特に盛り上がることもない普通の料理を口にして部屋へと戻る。
「……母さんの料理はやっぱ美味かったな」
<ふふ、それはそうですよ。それにしても夜になったらまた退屈ですね、流石に甲板は暗いですし>
「ま、二日すれば中継の港に到着するしのんびりしようぜ。さて、とりあえず今日はこいつでも読んで過ごすか」
俺は収納魔法からいつでも手元に戻ってくる『ブック・オブ・アカシック』を開いた。
1
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる