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アルフェンの旅立ち

123.一旦のお別れ?

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 「うう……」
 「だ、大丈夫かエリベール、無理しないでいいって言ったのに……」
 「いいのよ……これで私はアルのものよ」
 「ものって言い方はダメだって。こ、恋人なんだしな」
 「……! そ、そうね!」

 色々察してくれると助かるが、まあ、大人の階段とやらを二人してあがったのだ。
 まだ12歳と13歳で早いと思うかもしれないが、異世界ということもあるし成人前に結婚している女の子も多いためできないわけじゃない。

 ……正直に言うと凄かった。
 別に前世で『いたして』いないわけではないが、可愛い娘との行為は危うく復讐を忘れさせられるような――

 「ふふふ、昨日までの険悪さがウソみたいに仲良くなったわね」
 「ひゃい!? ……か、母さんか」
 
 急に背後から声をかけられて飛び上がる俺。
 昨日の情事を知られるわけには――

 「わたくしも居ますわよ」
 「げ、ディアンネス様も」
 「『げ』とはなんですか。でも、仲直りしてくれて良かったわ」

 両家の母親が揃うと緊張する……。
 よもやエリベールから言いだすことはないと思うが、バレたら娘を傷物にされたと怒られやしないだろうか?
 さっきは異世界だからとか歳が若くても良いみたいなことを言ったが親バレはやはり怖いのだ。

 「おねえちゃん、おまた痛いのー?」
 「う、ううん、大丈夫よ?」
 「……!」
 「……!」

 あ、やば!? 母さん達が『察した』!?
 ルーナめ、余計なことを……!!

 「それじゃあ、俺、先に行くよ! トイレに行きたいし!」

 俺はさわやかに笑って駆け出そうとしたが――

 「待ちなさい」
 「ちょっと話をしましょうか、アル。エリベールは双子ちゃん達を連れて先に行きなさい」
 「ええっと……はい」
 「おてて繋ぐー!!」

 ――あっという間に回り込まれて前後を封じられてしまった。
 ルークが呑気な声をあげていることを若干恨めしく思いながら俺は、

 「こっちですこーし話をね……?」
 「聞きたいわ」
 「あ……ああああああああああ!?」

 両脇を固められて別室へ連行された。

 ◆ ◇ ◆

 「おいしいね、アル兄ちゃん!」
 「うん……そうだな……」
 「兄ちゃん元気ない」
 
 別室に連行された後はもちろん尋問。
 俺は恥ずかしさをこらえながらエリベールといたしたことを伝えると、母さんからとりあえず拳骨をもらい、王妃からはお礼を言われた。
 もしこれで子供ができればそれはそれでということらしい。
 後一日滞在してくれと懇願されたが、昨日は興奮状態だったのでいたしたが、冷静になった今では少々恥ずかしい……

 「~♪」
 「お母さま、ご機嫌ですね?」
 「それはそうよ。エリベールも大人になったし、できれば今からでも結婚式を挙げたいくらいなんだけど」
 「けっこん!!」

 ルーナが壊れたおもちゃのように結婚という言葉に反応する。まあ学校に通うようになれば少しは落ち着く……はずだ。
 
 「万が一ということがありますから、式は帰って来てからでお願いします」
 「わかっているわ。国政の勉強もしてもらいたいけど、わたくしも元気ですし問題ないでしょう。ああ、孫が楽しみねえ」
 「そうですね。あたしも子供を授かれると思ってませんでしたから、孫なんて夢のまた夢でしたもの」
 「そうよね……わたくしも病気が治らなければ一族が途絶えていたかもしれないし……」
 「「アルには幸せになって欲しいわ」」

 母親’Sが口を揃えてため息を吐きながら口をついていた。
 エリベールは顔を赤くしてパンにバターを塗り、俺と目が合うと柔らかく微笑んでいたのが可愛かったな。
 怜香も年上だったので姐さん女房ということに抵抗はない俺である。

 そんなバタバタとした朝が終わり、昼前にはイークンベルへ帰る準備が整った。
 一応、帰る前に挨拶をしておこうとグシルスを尋ねてみると、

 「おう、アル元気そうだな! いや、アルフェン王と呼ばないといけないか?」
 「まだ結婚してないし、気が早いよ。その話も耳が痛いくらい聞いたし……」
 「だっはっは! むしろこれからが大変だけどな!」

 俺の肩をバシバシと叩きながら笑うグシルスにルーナが食って掛かる。

 「アル兄ちゃんをいじめたらダメ!」
 「おお、妹か? 大丈夫、兄ちゃんとは友達だからな」
 「そうそう、だから大丈夫だよルーナ」
 「はーい!」
 「鎧、かっこいいー」
 「お、こっちは男の子か。男女の双子なのにそっくりだな……。パパはもっとすごいんだろ?」
 「うん! でもおじさんもかっこいいよー!」
 
 グシルスが装備を褒められて嬉しいのか、ルークの頭を撫でていると、ふと真顔になって俺に向き直った。

 「……ライクベルンへ戻るのか。護衛は?」
 「え? いや、一人で帰る予定だけど?」
 「ありえねえよそりゃ……。お前、国王候補だって分かってんのか?」
 「まあ……」

 俺が視線を外して頬を掻いているとグシルスがため息を吐いてから口を開いた。

 「その顔だと自覚はあっても重要度はあんまり考えてなさそうだな……。アルベール将軍の孫ってだけでもVIPなのに、今はシェリシンダ王国のVIPでもあるんだぜ?」
 「でも正体を知られなければ大丈夫じゃない?」
 「軽いなお前は……いや、ライクベルンまで大人がついていた方が絶対いい」
 
 グシルスが大真面目に言い、地図を取り出て近くのテーブルに広げて指をさす。

 「ライクベルンは特に戦争をしているとは聞いていないが、船で戻る場合ツィアルの港を出てから、中央大陸のどこかの港に降りて徒歩か馬車で戻る。多分ライクベルンならこの港がいいだろう」
 「東側の港か……」
 「ああ。南からより直線距離なら近いはずだ。本当なら砂漠を越えた方が早いんだけどな」

 地図に広大な砂漠……イークンベルの東にある大橋付近を見ながら呟くグシルス。
 砂塵族とやらが大橋を破壊してから行けなくなったので仕方ないのだが、勿体ないと思う。
 ここが行路になれば貿易もライクベルンへ戻るのもそれほど難しくなく、シェリシンダ王国へ戻る足掛けにしやすいからだ。

 「まあ、無いものねだりは仕方がないよ。でも、俺の都合で誰かを引っ張りまわす訳にもいかないし、いつ帰れるかも分からない旅に同行させるのは気が引ける」
 「いや、お前についていくのはウチからなら誰でも行きたがると思うけどな? また俺が行ってやろうか?」
 「うーん、グシルスは腕が立つしエリベールを守っていて欲しいんだよな。途中までなら一応アテにしたい人は居るんだ」
 「もしかして魔人族の男か?」

 グシルスの言葉に俺は頷く。
 実を言うとルイグラスからの手紙で、俺とグラディスにお礼がしたいという連絡があったのだ。グラディス次第だけど、領地経由で港まで一緒に来てもらおうかとは考えていた。
 まあ船に乗ってしまえば一人だが、こう言っておけば心配は軽減されるだろ。
 
 「まあ、あいつなら大丈夫か……」
 「そうそう、なんとかなるって。シェリシンダ王国は頼むよ、次期国王としてさ」
 「へっ、こいつ言うじゃねえか! ……気を付けてな」
 「ああ」
 「「ばいばーい、おじちゃん!」」

 そんな会話をしてグシルスと別れ、程なくして出発の時間となった。
 馬車が用意されている場所へ向かうと、俺は目を丸くする事態に驚く。

 「さ、いきましょ! 旅立つまではなるべく一緒に居るんだから!」

 どうやらエリベールが屋敷に泊りへ来るらしい……
 だ、大丈夫かな?

 <アル様の理性が心配ですね>

 腹立つなこいつ……
 まあ、ルーナ達が喜んでいるからいいか。
 そんな調子で俺のシェリシンダへの挨拶が終わり、憂いなく次のステップへ進むことが出来た。
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