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アルフェンの旅立ち
122.約束
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「……久しぶりね、アル」
「う、うん。久しぶり、エリベール」
静かにソファに座りながら挨拶をする彼女を見ると一部分、明らかに違う箇所があり目を見張る。
「エリベール……髪が……」
「……」
「どうしたのさ、綺麗な長い髪を切っちゃったのか」
「――せいよ」
「え?」
口をへの字にしてぼそりと呟いたので聞き返すと、エリベールは拳を握ってから大きな声で怒りだした。
「アルのせいよ! どうしても旅に出るっていうから、私もこの一年で鍛えたのよ! 邪魔だったから切ったの!」
「ええ!? なんでまた……」
「アルが帰っちゃうなら……ついていこうと思ってよ……。足手まといにならずに、姫としてじゃなく、エリベール個人としてね」
マジか……。
俺を好きになりすぎて拗らせてしまったらしい。てっきり失恋したからとか、新しい婚約者がそうしろと言ったからみたいな話をされるのかと思っていたら、これだ。
「……本当は諦めようかと思った。けど、アルは私のことが嫌いって訳じゃないと聞いているから、復讐さえ納得する形で終われば、その、結婚してくれると思ったの。だから一緒に行って、仲良くなって、いつでもここへ帰って来れるようにって……」
「そんなことを考えていたのか!? ……いや、そうさせたのは俺か……とりあえず落ち着こうエリベール。今日はその辺も含めて話をするよ」
「どういうこと?」
「おねえちゃんのとこに座るの」
半泣きでソファに座りなおすエリベールにルーナが寄っていき、にこーっと笑いかけて彼女の隣に座って手をつないでいた。
「まあ、その……あの時はああいったけど、エリベールのことは嫌いじゃない。むしろ好きだ」
「……!」
「ふふ」
「だけど、復讐は止められないし、ライクベルンにいる爺ちゃんたちからの連絡もないから心配だ。だから旅に出ることは止められない」
俺がそういうとエリベールは少し肩を落としたが、決意の顔で『ついていく』という顔を見せる。しかし、彼女を連れて行けるわけもないので――
「……そしてエリベールを危ないところへ連れて行くわけにはいかない。君はここに残って欲しい」
「……っ。私は……!」
「最後まで聞いてくれ。俺はここに来る間に色々考えたんだ。もしまだ俺を好きでいるなら告白をしようと。それともう一つ」
「もう一つ……?」
「俺が16歳の成人を迎えた時に必ず一度ここへ戻る。その時まで結婚は待って欲しい。必ず帰ると約束する」
エリベールを連れてはいけない。
でも俺も目的を捨てることは……できない。
前世でも言われたが、復讐なんて意味が無いのかもしれない。
だけどこの世界に両親や使用人を殺した人間が生きている以上、俺の二の舞を踏ませたくないし、ケジメはつけるにはヤツを殺すしか平穏を得られないのだ。
それに、俺は向こうへついたら一つ、危ない橋を渡るレベルのことをするつもりだから余計に連れて行けない。
「……もし死んじゃったらどうするのよ」
「その時は……まあ、ごめんとしか……」
「馬鹿! そこは死なないって言いなさいよぉ……」
「アル兄ちゃんまた泣かした!」
「ご、ごめん。都合のいいことを言っているのは分かっているけど、待っていてくれないか?」
俺はエリベールに近づき膝をついてから顔を見る。
手を取って口づけをすると、エリベールは顔を赤くして俺に抱き着いてきた。
「絶対……帰って来てね……私、ずっと待ってるから……」
「ああ。大丈夫、俺は意外と死なないんだ」
「あー、コホン。盛り上がっているところ悪いけど、そろそろいいかしら?」
「「あう!?」」
隣で生暖かい目をした王妃が微笑み俺達の頭に手を乗せて撫でまわす。
見れば母さんとルークが小さく拍手していた。
「これで憂いは断てたかしらね。アル、必ず帰って来てね、じゃなきゃエリベールどころか私も悲しいわ」
「……はい。少なくとも爺ちゃんに会わないといけません。死んではいないと思いますが。ついでに結婚する報告もしてきますよ、はは」
「そうね。結婚式にはこちらに来て欲しい……いえ、こちらから挨拶に出向くべきかしらね」
「それをしたら騒動になりそうですけどね……」
母さんが呆れ顔で言うと、王妃も肩を竦めて舌を出していた。エリベールのお茶目さはこの人の影響なんだろうなと思う。
「結婚ー! やったー! おねえちゃんが結婚したー!」
「こ、こらルーナ、まだだからな!」
「ルーナもするのー!」
「ふふ、第二婦人は決まりかしら? そうだ、アル」
「なんだ?」
俺に抱き着いたエリベールがニヤリと笑って口を開く。
「どうせ行く先々で女の子を誑かすんでしょうし、一人か二人なら連れて帰って来てもいいわよ」
「ぶっ!? い、いや、そんなことはないって」
「どうかしらねー。まあ、覚えておいてね? ここに帰ってくればなんでもいいから」
末恐ろしい子である。
王妃も『子を多く作っておいた方がいい』と乗り気だったのがなあ……
まあ、【呪い】のせいでそのあたりは敏感になっているのは仕方ないか。
もしエリベールとは別に男の子が産まれていたらそっちが王位を継ぐので彼女が一緒に来た可能性は高いかな? ただ、守りながら戦えるような相手ではないのでやはりおいていくかもしれないけど。
そんな調子で話は進み、俺が必ず帰ってくることを約束して話は終わる。
後は母親同士がお茶を飲みながら世間話をし、俺と双子はエリベールと一緒に城内を散歩。
メイドや執事、騎士に愛想を振りまいて人気者になった双子は甘やかされていた。
「よかったー。おねえちゃんとアル兄ちゃんが結婚するの」
「そうね。ルーナちゃんも大きくなったらね?」
「うんー!」
「でも、お前ツィアル国の王子に好きだって言われてたじゃないか」
「?」
そう、前に向こうへ行った際にリンツ王子がルーナに一目ぼれし、なんやかんやと声をかけていた。
あの子は今、8歳だったか? ルーナと4つ違いなのだ。
「リンツ君はお友達なの」
「可哀想に……」
「僕はライラおねえちゃんが結婚しようって言ってたー」
「お前も苦労しそうだな……」
ルークの未来は明るいようなそうでもないような。
まあ気立てはいいけどラッドの妹は4つ年上だから尻に敷かれそうだ。
リンツは頑張って欲しいとしか言えない。
そんな子供らしくない会話をしながら程なくして会食をし、そして夜。
何故か俺一人だけの部屋を離れに用意され、静かなひと時を過ごしていた。
「……ふう」
<覚悟を決めましたね! 私は感動しました! ……やっぱり生きる原動力は女ですよ、女!>
「おっさんかお前は!? ま、エリベールの手前、死ぬわけにはいかなくなった。……前世でも怜香がストッパーになっていたおかげで最後の最後まで生き延びれた、ような気がするし」
今は面影もぼんやりとしか思い出せない理解者のことを考えながら目を瞑る。
すると――
「アル、入ってもいい……?」
「え? エリベールか、いいよ」
「うん」
パジャマ姿のエリベールが入って来た。
髪を切った姿にまだ慣れないが、これはこれで可愛らしく見える。
「どうしたんだ?」
「その、一緒に寝ようかと思って。明日からまた会えなくなるし」
「い、いや、それは……」
俺が焦っているとエリベールはスッとベッドに乗って来て抱き着いてきて……キスをした。
「あ、あの、エリベール……さん?」
「絶対生きて帰って来てね? だから――」
「ん……」
俺はもう一度キスをし、抱き寄せる。
なるほど、離れの部屋にされたのは……どうやらこれが狙いだったのかとピンとくる。
「エリベール、いいのか?」
「……うん。アル、呪いを解いてくれてありがとう、大好きよ」
<うひょー! きたきた、来ましたよ!>
脳内でリグレットがうるさいが、無視だ無視。
そして俺達は、互いの身体を――
「う、うん。久しぶり、エリベール」
静かにソファに座りながら挨拶をする彼女を見ると一部分、明らかに違う箇所があり目を見張る。
「エリベール……髪が……」
「……」
「どうしたのさ、綺麗な長い髪を切っちゃったのか」
「――せいよ」
「え?」
口をへの字にしてぼそりと呟いたので聞き返すと、エリベールは拳を握ってから大きな声で怒りだした。
「アルのせいよ! どうしても旅に出るっていうから、私もこの一年で鍛えたのよ! 邪魔だったから切ったの!」
「ええ!? なんでまた……」
「アルが帰っちゃうなら……ついていこうと思ってよ……。足手まといにならずに、姫としてじゃなく、エリベール個人としてね」
マジか……。
俺を好きになりすぎて拗らせてしまったらしい。てっきり失恋したからとか、新しい婚約者がそうしろと言ったからみたいな話をされるのかと思っていたら、これだ。
「……本当は諦めようかと思った。けど、アルは私のことが嫌いって訳じゃないと聞いているから、復讐さえ納得する形で終われば、その、結婚してくれると思ったの。だから一緒に行って、仲良くなって、いつでもここへ帰って来れるようにって……」
「そんなことを考えていたのか!? ……いや、そうさせたのは俺か……とりあえず落ち着こうエリベール。今日はその辺も含めて話をするよ」
「どういうこと?」
「おねえちゃんのとこに座るの」
半泣きでソファに座りなおすエリベールにルーナが寄っていき、にこーっと笑いかけて彼女の隣に座って手をつないでいた。
「まあ、その……あの時はああいったけど、エリベールのことは嫌いじゃない。むしろ好きだ」
「……!」
「ふふ」
「だけど、復讐は止められないし、ライクベルンにいる爺ちゃんたちからの連絡もないから心配だ。だから旅に出ることは止められない」
俺がそういうとエリベールは少し肩を落としたが、決意の顔で『ついていく』という顔を見せる。しかし、彼女を連れて行けるわけもないので――
「……そしてエリベールを危ないところへ連れて行くわけにはいかない。君はここに残って欲しい」
「……っ。私は……!」
「最後まで聞いてくれ。俺はここに来る間に色々考えたんだ。もしまだ俺を好きでいるなら告白をしようと。それともう一つ」
「もう一つ……?」
「俺が16歳の成人を迎えた時に必ず一度ここへ戻る。その時まで結婚は待って欲しい。必ず帰ると約束する」
エリベールを連れてはいけない。
でも俺も目的を捨てることは……できない。
前世でも言われたが、復讐なんて意味が無いのかもしれない。
だけどこの世界に両親や使用人を殺した人間が生きている以上、俺の二の舞を踏ませたくないし、ケジメはつけるにはヤツを殺すしか平穏を得られないのだ。
それに、俺は向こうへついたら一つ、危ない橋を渡るレベルのことをするつもりだから余計に連れて行けない。
「……もし死んじゃったらどうするのよ」
「その時は……まあ、ごめんとしか……」
「馬鹿! そこは死なないって言いなさいよぉ……」
「アル兄ちゃんまた泣かした!」
「ご、ごめん。都合のいいことを言っているのは分かっているけど、待っていてくれないか?」
俺はエリベールに近づき膝をついてから顔を見る。
手を取って口づけをすると、エリベールは顔を赤くして俺に抱き着いてきた。
「絶対……帰って来てね……私、ずっと待ってるから……」
「ああ。大丈夫、俺は意外と死なないんだ」
「あー、コホン。盛り上がっているところ悪いけど、そろそろいいかしら?」
「「あう!?」」
隣で生暖かい目をした王妃が微笑み俺達の頭に手を乗せて撫でまわす。
見れば母さんとルークが小さく拍手していた。
「これで憂いは断てたかしらね。アル、必ず帰って来てね、じゃなきゃエリベールどころか私も悲しいわ」
「……はい。少なくとも爺ちゃんに会わないといけません。死んではいないと思いますが。ついでに結婚する報告もしてきますよ、はは」
「そうね。結婚式にはこちらに来て欲しい……いえ、こちらから挨拶に出向くべきかしらね」
「それをしたら騒動になりそうですけどね……」
母さんが呆れ顔で言うと、王妃も肩を竦めて舌を出していた。エリベールのお茶目さはこの人の影響なんだろうなと思う。
「結婚ー! やったー! おねえちゃんが結婚したー!」
「こ、こらルーナ、まだだからな!」
「ルーナもするのー!」
「ふふ、第二婦人は決まりかしら? そうだ、アル」
「なんだ?」
俺に抱き着いたエリベールがニヤリと笑って口を開く。
「どうせ行く先々で女の子を誑かすんでしょうし、一人か二人なら連れて帰って来てもいいわよ」
「ぶっ!? い、いや、そんなことはないって」
「どうかしらねー。まあ、覚えておいてね? ここに帰ってくればなんでもいいから」
末恐ろしい子である。
王妃も『子を多く作っておいた方がいい』と乗り気だったのがなあ……
まあ、【呪い】のせいでそのあたりは敏感になっているのは仕方ないか。
もしエリベールとは別に男の子が産まれていたらそっちが王位を継ぐので彼女が一緒に来た可能性は高いかな? ただ、守りながら戦えるような相手ではないのでやはりおいていくかもしれないけど。
そんな調子で話は進み、俺が必ず帰ってくることを約束して話は終わる。
後は母親同士がお茶を飲みながら世間話をし、俺と双子はエリベールと一緒に城内を散歩。
メイドや執事、騎士に愛想を振りまいて人気者になった双子は甘やかされていた。
「よかったー。おねえちゃんとアル兄ちゃんが結婚するの」
「そうね。ルーナちゃんも大きくなったらね?」
「うんー!」
「でも、お前ツィアル国の王子に好きだって言われてたじゃないか」
「?」
そう、前に向こうへ行った際にリンツ王子がルーナに一目ぼれし、なんやかんやと声をかけていた。
あの子は今、8歳だったか? ルーナと4つ違いなのだ。
「リンツ君はお友達なの」
「可哀想に……」
「僕はライラおねえちゃんが結婚しようって言ってたー」
「お前も苦労しそうだな……」
ルークの未来は明るいようなそうでもないような。
まあ気立てはいいけどラッドの妹は4つ年上だから尻に敷かれそうだ。
リンツは頑張って欲しいとしか言えない。
そんな子供らしくない会話をしながら程なくして会食をし、そして夜。
何故か俺一人だけの部屋を離れに用意され、静かなひと時を過ごしていた。
「……ふう」
<覚悟を決めましたね! 私は感動しました! ……やっぱり生きる原動力は女ですよ、女!>
「おっさんかお前は!? ま、エリベールの手前、死ぬわけにはいかなくなった。……前世でも怜香がストッパーになっていたおかげで最後の最後まで生き延びれた、ような気がするし」
今は面影もぼんやりとしか思い出せない理解者のことを考えながら目を瞑る。
すると――
「アル、入ってもいい……?」
「え? エリベールか、いいよ」
「うん」
パジャマ姿のエリベールが入って来た。
髪を切った姿にまだ慣れないが、これはこれで可愛らしく見える。
「どうしたんだ?」
「その、一緒に寝ようかと思って。明日からまた会えなくなるし」
「い、いや、それは……」
俺が焦っているとエリベールはスッとベッドに乗って来て抱き着いてきて……キスをした。
「あ、あの、エリベール……さん?」
「絶対生きて帰って来てね? だから――」
「ん……」
俺はもう一度キスをし、抱き寄せる。
なるほど、離れの部屋にされたのは……どうやらこれが狙いだったのかとピンとくる。
「エリベール、いいのか?」
「……うん。アル、呪いを解いてくれてありがとう、大好きよ」
<うひょー! きたきた、来ましたよ!>
脳内でリグレットがうるさいが、無視だ無視。
そして俺達は、互いの身体を――
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