上 下
120 / 258
ツィアル国

116.一旦の決着

しおりを挟む

 「あああああああ! アルにいちゃぁぁぁぁぁ!!」
 「ふぐ……!?」
 「にいちゃだぁぁぁぁぁぁ!!」
 「ぐあ!?」

 三日ほどかけてツィアル国から戻った俺と両親が屋敷へ入ると、驚くほど憔悴した双子が目に入った。
 だが、俺を見た瞬間にソファから飛び降りて突撃してきて、まずはルーナに鳩尾を頭突きされて腰にしがみ付かれ、次いでルークにもう一撃もらいその場で膝をついたのだ。
 油断していた……カーランよりも強力なダメージに思わず悶絶していると、奥から現れた祖父母に声をかけられた。

 「アル……! アルじゃないか、い、生きていてくれたか……くぅ……」
 「ああ、良かった……」
 「爺ちゃん、婆ちゃん」

 この二人も本気で心配してくれていたことが伝わり、双子と共に抱きしめてくれる肩に手を置いて再会を喜び合った。
 
 グシルスと救援に来ていたシェリシンダの騎士は一足先に国へ戻ったのでここには居ない。何気にグシルスの行動力は凄い。
 手紙を出すタイミングと俺と出会うタイミングがばっちりだったことによる。
 実際、両親が来たから出番はなかったけどもし来ていなかったらお世話になっていたに違いない。

 それはともかく――
 
 「ほらルーナ、ちーん」
 「んー-!! えへー」

 ようやく泣き止んだ双子の鼻をハンカチでかませてやると満面の笑みで笑いかけてきたので俺は苦笑しながら頭を撫でてやった。
 
 「体は大丈夫か?」
 「うん、この通り全然大丈夫だよ。ちょっと危ない場面はあったけどね」
 「怖いことを言わないで頂戴。それでもう解決したのかしら?」
 「ええ、とりあえず明日は陛下のところへ報告へ行きますが――」

 と、祖父母へ父さんと俺が今回の顛末を話し、疲れているだろうということで今日は一家そろってゆっくりすることとなった。
 双子は甘やかし、久しぶりに食べる母さんの料理も当然、美味い。
 俺は色々と失ったけど、手に入れることもできていたとあの戦いを経て改めて感謝する。
 
 カーランは恐らく最後に『復讐に固執するとこうなる』と言いたかったのかもしれない。
 だが、逆に俺はやるべきことを成さねばと気を引き締めた。

 このままここに残るにしても、ライクベルンに戻ったとしても恐らくそれなりに平和に暮らせるに違いない。
 エリベールと結婚すれば可愛い嫁さんと地位が手に入るだろうし。

 でも、本来ならそんな平和な生活は実家で出来ていたのでそれを奪ったあいつらを許すわけにはいかない。
 カーランもそうだが、こういう輩は他の人間達に害を及ぼす可能性も高いので、潰しておくのは後々の世にもいいことだと思う。

 そのためにはまずライクベルンへ帰ってから情報を集める必要がある。
 カーランが知らないと口にしていたので、あっちの大陸を主な出没地点として範囲を広げるのがいいだろうと考えていた。

 「んふふ……アルにいちゃ……」
 「僕、強くなったよーすやぁ……」
 <うふふ、べったりですね>
 「まあ今日くらいはな。しかし、こうくっつかれたら本を読むのも難しいぞ」
 <まあまあ、しばらくゆっくりしたらいいんじゃないですか? 問題はもう起きないと思いますけど>

 無責任なリグレットの発言を受けて俺は口を尖らせる。
 確かにここからなにか問題が発生する可能性は少ないのでいつもどおりの日常は過ごせる。
 気になるのはそこではなく、『ブック・オブ・アカシック』なんだよな。
 
 「ん……アルにいちゃ……居る?」
 「お? おお、居るぞルーナ」
 「あーい……」

 とりあえず度々目を覚ますルーナを寝かしつけないといけないので、本を読むのは諦めて俺も目を瞑る。
 聞いた話によると、俺が誘拐されてから双子はずっと泣いていたらしいが、ある時を境に二人は魔法と剣の訓練を始めたそうだ。

 もちろん三歳児にできることなど少ない(俺は例外のはず)ので可愛らしいものみたいだが、泣いてた双子に『そうさせてしまった』のは少しだけショックではある。

 なんにせよ、冒険者稼業とカーランとの戦いで俺は子供という身体ハンデ以外に、この世界においての実戦経験不足や知識不足が露呈されたので、爺さんに手紙を送り、もっと修行を進めなければならないと感じていた。

 「また……忙しくなるぞ……ふあ……」
 <……おやすみなさい、アル様……>

 ◆ ◇ ◆

 そして翌日――

 「ゼルガイドにアルよ、よくぞ無事で戻った。書状は確かに受け取った。……アルを見つけるだけでなく、ツィアル国との友好を結んでくるとはな」
 「それは私ではなく、息子の功績ですね。親の私としては寿命が縮む思いでしたが」
 「ははは、それはそうだろう。……ラッドに言われてお前とカーネリアを向かわせたことは正解だった、シェリシンダにだけ恩を売ることになっていただろうしな」
 「父上」
 「あ、いや、コホン。良かったな、ラッド。アルが無事で」

 ……この国王も癖がある、というよりなるべく色々と関わりたくない系の意識が伺えるな。
 ツィアル国のテロの時に斥侯だけでなく、もう少し突っ込んで調査をすべきだったのではと思うので日和見主義なのだろう。ラッドに冷たい視線を向けられているので普段からそういう父親なのかもな。

 「そうですね。アル、また一緒に授業を受けられるね!」
 「ああ、助かったよラッド。まさか父さん達が来てくれるとは思わなかった」
 「それはエリベールさんに言ってあげてよ。凄く心配していたから」
 「しばらく会わないと思うけど、会ったらお礼を言っておくよ」

 俺とラッドが笑い、日常が戻って来たと実感させる。
 一通りの報告を済ませると、国王は顎に手を当てて口を開く。

 「それにしても『英雄』が生きているとはまた荒唐無稽な話だな」
 「実際に目で見たわけではありませんから、虚言とそれほど変わりません。ただ、『ブック・オブ・アカシック』を探しているようなので俺……いえ、僕が狙われる可能性が高いです」
 「アル……」

 父さんが心配そうに呟くが、俺がこれを持つ以上それはあり得る。
 
 「『英雄』が相手だと国に迷惑がかかると思うので、僕は大きくなったらライクベルンへ戻ります。もしかしたら先に身内から連絡があるかもしれませんが」
 「ア、アルバート将軍か……」
 「アル、どうあってもお前は俺達の息子だ。アルバート様とは話をさせてもらうが、もし戻ってもここへいつでも帰って来ていいんだからな?」
 「うん、ありがとう父さん」
 「……エリベールさんが黙っているとは思えないけど」
 「ん? ラッド、なにか言ったかい?」
 「いやあ、なんでもないよ! さて、また学校へ行けるように……いや、もうこのまま城で授業をするのもいいかなー」
 「?」

 俺から目を逸らして今後のことを語るラッドに違和感を覚えたが、成長するまでもう少しこの生活をさせてもらうかと思った。
 
 エリベールにはこちらから会わなければその内愛想を尽かすに違いないし。
 さて、これから俺はどうやって修行しようかな……父さんの剣はもうちょっと後に教えて貰うとして、やっぱり魔法かね。

 そんなことを考えながら、俺は元の日常に戻るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...