上 下
107 / 258
ツィアル国

103.国を亡ぼすために

しおりを挟む

 ――王宮内 地下通路――

 「アルフェンと言ったか、この五日間観察をしていたが本当にただの冒険者のようだ。だが、魔法の素養はかなり高い……マナの制御が恐ろしく上手かったな。あの素養、そして若い体はいくらでも欲しい。顔の傷は気になるが、実験材料として早いところ捕まえておくか」

 陽も入らない王宮の地下通路を歩きながらカーランはぶつぶつとそんなことを口にしていた。
 ここは地下。彼が捕えた女子供を閉じ込めておく場所で、今日の『材料』を取りにきたところだ。

 「……しかし、一番欲しいアルという子供が居なければ実験意欲沸かないな。口減らしはせねば国庫に影響するからやらざるを得んが……。あれから10日近く経つというのに大将のやつはなにをしているのだ?」

 本人からも監視者からの連絡も無く、苛立ちを隠さないカーラン。
 実のところ、大将に付いていた監視は酒浸りの状態の彼を見て報告することが無いので放置していたりする。
 
 一人呟きながら、カーランはとある牢へ到着する。

 「……! あ、あなたが犯人ですね……こ、子供たちには手を出さないで、ください!」
 「……」
 
 村から攫ってきた人族の牢。
 魔人族が攫ったという捏造が欲しいため、定期的に攫うよう指示を出しているカーラン。今回はたまたま、目の前で睨みつけるオリィの村だったわけである。
 彼は子供を守るように立ちはだかるオリィを見た後、呟く」

 「……ただの人間には意欲が沸かん。アルフェン……あいつなら少しは面白い結果になるか? しかし魔人族の男が邪魔だな……む」
 「……ひっ……」
 「その魔人族の子を使うか――」


 ◆ ◇ ◆

 「あー、疲れたな……」

 風呂上りの俺はベッドに倒れこむとそのまま眠ってしまいそうな心地よさを感じて目を瞑る。

 ――現場仕事も慣れたもので、通訳をしながら簡単な土壁塗りくらいはできるようになってきた。
 金もきっちり払ってくれているので、飯を食って風呂に入り、ゆっくり休む。
 心地よい疲れの中、俺は明日の予定を考えていた。 

 「明日は魔法で固めるかな。外壁は手でやるより速いし。うん、だんだん楽しくなってきたな……って、違う!? クソエルフをなんとかしないといけないんだよ俺は!?」
 「どうした、でかい独り言だな?」
 「ああ、ごめん。ちょっと労働の喜びをかみしめていた」
 「たまにおかしなことを言うなアルフェンは」

 クスリともしないグラディスの言葉に言い返すことができず、俺は再びベッドに寝転がり、今度こそ次の手を考える。

 昨日、グラディスが寝た後に読んだ『ブック・オブ・アカシック』によれば、もう少し働いていればカーランに呼び出されるらしい。
 が、そこでは倒すことが出来ず、牢屋でオリィ達を逃がすのが目的だ。
 
 きちんと逃げ切れるそうで、できればそこでヤツがどれほど強いのかを確認したいところ。
 というか本当に尋ねたことしか書いてくれないのは不便だが、何も知らないよりマシと思うべきなのか……。
 ところどころ怪しい記述もあるのが気になる。
 
 それと、さすがに何度か読んで気づいたのだが『誰かが書いている』ような文章なんだよな。

 ‟村の人間はまだ無事なはず。カーランに呼ばれたら、王宮に泊めてもらい地下へ行くといい。グラディスは必ず連れて行くこと”

 とかな。
 エリベールの【呪い】についてはまったく無反応なので、知識が出鱈目。
 持ち主が知りたい情報が浮かび上がる、というのはぶっちゃけ7割くらいしか合っていない。
 まあ、教えてくれないものは教えてくれないので怒っても仕方がない。

 「明日に備えて寝るか……」
 「……夜分遅くに失礼します。ルイグラス様の使いで来ました。アルフェン殿のお部屋で間違いないでしょうか?」
 「……アルフェン、下がっていろ」

 グラディスが剣に手をかけた状態で応対すると、屋敷で見た護衛の人だった。
 そんなわけで、屋敷を出て五日目の夜、俺のところへルイグラスの使いがやって来たというわけ。
 
 <なにか進展があったんですかね?>

 リグレットが頭の中でそんなことを呟く中、護衛の人は話し始めた。

 「ルイグラス様が各地へ話をしに行って分かったことがありましたので、そのご報告と今後の対応についてです」
 「他の領地はどうだったんだろ? 貴族だけが裕福に暮らしているって話」
 「それが――」

 この人の話によると、貴族の件は半分当たりで半分ハズレ。
 魔人族の住むザンエルドの国に近い領地が三つほどありそこは、魔人族の子や人を攫う役割を与えられていたらしい。
 その領地は国……いや、カーランから資金調達が出来るため金回りが良かったのだとか。
 ルイグラス達の領地は放置され、そこにばかり金を費やしていたから冒険者に払う国庫はないのではとの見方だ。

 「そういうことか……でもよくこの短期間で調べられたね」
 「一つ、良心の呵責に苛まされていたところがありましてね、少し突いたら青い顔で吐きましたよ」
 「それでも優秀すぎると思うけど……」
 「それを言うならルイグラス様です。彼が護衛をあまりつけずに話し合いにいったわけですから」
 「だな。で、今後の対策とは?」
 「カーランの討伐になります」
 「!」

 おっと、大胆な話が浮いて来たぞ?
 話を聞いてみると、魔人族を攫わせていた貴族の状況告発にその他の単純に金の無い貴族達を従えて国に談判をするのだそうだ。
 そこで国王に問うてカーランを差し出せば良し。もし従わない場合は……

 「王宮を制圧するのか」
 「ええ。あらゆる領地から兵士と護衛を集めれば十分な力になります。一応、秘策もあります故」
 「そっか。俺は数日の間にカーランに呼ばれる可能性があるから、その後突撃になるかな? 王都から逃げてくる形になるから、俺も参加させてもらう」
 「ほう? まあ、問題ないかと思います。私は先行してきましたが、すでに動いています。数日中にはここへルイグラス様がやってくるでしょう」

 なるほど、そりゃ頼もしいや。
 だけど俺は一つ、気がかりなことがあったのでそれを告げておく。

 「オッケー。……だけどカーランは【呪い】の使い手だ。その仲間になった貴族は注意した方がいい。俺はガーゴイルをけしかけられたことがあるからな」
 「【呪い】、ですか……? そんなことが……」
 「俺の目的の一つはあいつの解呪法を知ることなんだ。だから、ヘマはできないし、しない」
 「わかりました、お伝えしておきましょう」

 手遅れかもしれないけどな、とはあえて言わない。慌てて戦意が崩れるのもまずいからな。

 ――かくして、俺が思うよりも大規模な反攻作戦になる話を聞き、グラディスと共に気を引き締めて、その日は寝た。
 図太いとかいうなよ? 睡眠は大事なんだぜ?

 そしてさらに二日後、予定調和のカーランに呼び出される日になったのだが――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

処理中です...