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ツィアル国

100.クソエルフさんいらっしゃい

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 ――ツィアル王宮――

 「……なに? 冒険者が活発に活動しているだと?」
 「はい、ここ数日、狩猟の数が増えてギルドからの資金提供を受けています」
 「ふむ……陛下」
 「……」
 「あ、あの?」
 
 謁見の間にて宮廷魔術師のカロールは国王と共に大臣からの報告を受けていた。
 内容としてはシンプルで、ここ数日ギルドで魔物退治が盛んになり、月平均の数倍が狩られているとの話である。

 元々、ギルドでの報酬は国から出るのが常識なので、通常より多く依頼をこなされれば報酬が増えるのは必然。
 しかし、ツィアル国は冒険者をそれほど重視していないためあまり報酬金をギルドに回していない。そのためギルドマスターのゴードンが追加を依頼したのだ。

 「はい、承知しました。とりあえず今回の分は回してよいとのことなので、手配をお願いします」
 「……かしこまりました。相変わらず陛下は喉の調子が悪いのですか?」
 「ええ、薬は飲ませているのですが。まだまだ私も修行が足りず申し訳ない思いですよ」
 「左様ですか。それでは――」

 大臣が腑に落ちないといった様子で踵を返す。
 もう十何年以上前に喉をやられた国王に、カーランが薬を持って王宮に現れたと思えば宮廷魔術師に抜擢されたからだ。
 そのころは調子が良かったが、治る気配は無くカーランが耳打ちをして国王の意図を告げる、ということが常になっているためだ。

 大臣が扉に手をかけたところで背後からカーランに声をかけられる大臣。

 「ああ、そうだ――」
 「……?」
 「――冒険者達が急に活発になった原因の調査をお願いします。もしよそ者であれば私のところへ来るよう手配を」
 「何故です?」
 「それほど優秀なら、手駒にしておくことも考えねばならないでしょう? 魔人族がいつ攻めて来るか分かりませんからね」
 「……承知しました」

 大臣が出て行くと、カーランは国王が居るのにも関わらず――

 「研究費が減るのは勘弁して欲しいですからね……領地も早く縮小すればコンパクトになるというのに。魔人族の子供を攫っている割には彼らも甘いですねえ」

 ――そんなことを呟くのだった。

 ◆ ◇ ◆

 「はあ……はあ……今日はマッドスネーク二匹と、クレイジーフォックス、ヒュージアントを二十匹だ!!」
 「お、おお……すげぇなお前等……アルフェン、死ぬなよ?」
 『デルパ』
 「なんて!?」
 「だ、大丈夫だって言ってる……か、換金を……」
 「お、おう、待ってろ――」

 イゴールが俺の応対をする中、他の冒険者達は遠巻きにざわざわとしていた。
 まあ、Ⅴ日前は身綺麗だった俺が今は浮浪者に近いようなボロボロの状態だからそれも無理はない。

 俺は策として依頼をこなしまくれば一目置かれる存在になれるのではないかと思い、翌日から回数を増やした。
 ほとんどグラディスが対峙する形だが、俺もヒュージアントとかいうでかいアリみたいなのは倒せるので魔法と剣を駆使してなんとか数をこなせていたのだ。

 魔物との戦いはジャイアントタスク戦で結構おっかないと思っていたけど、やっぱりおっかない。牙や爪、腕力に素早さ、顎の力などなど……通常の動物や昆虫より圧倒的に強い。
 ここで稼げたからそろそろ身を守る防具が欲しいと思うくらいには危ない目にあった。ほら、服の袖、食いちぎられているだろ?

 「ほら、報酬の22万ルクスだ。そんなに稼いでどうするんだ?」
 「いやあ、装備が欲しくって。剣はあるからいいんだけど」
 「そういや珍しい剣を持ってるよなお前。とりあえず服も買っておけよ? なんかいい服みたいだけどな」
 「ああ、確かに……」

 カーネリア母さんが用意してくれた服だから着ていたけど、逆に大事にしておくべきか。

 『イクテ』
 「ん、分かった。それじゃまた来るよ!」
 「おう。お前達のおかげで他の冒険者達もやる気になってんだ、頼むぜ」

 俺は去り際に親指を立てたり、頭を軽くポンと叩いてくる冒険者達に挨拶をしながら外へ出ると、その足でそのまま商店街へと向かう。

 「グラディスもボロボロになったなあ」
 「まあ、連日だからな。アルフェンもよくやっている」
 「俺から言い出したことだからね。それじゃ服と装備を買いに行こう」
 「わかった」

 相変わらず不愛想に頷くグラディスを連れて冒険者らしい服を買い、着ていた服は収納魔法の中へ。
 値は張ったけど胸当てとすね当て、ガントレットを購入。
 グラディスは服だけ買い替えた。防具はすね当てしかないのに、筋肉が天然の鎧なのだろうか?

 そんな感じでギルドに来て五日程度だが新参で注目の冒険者扱いになり、他の冒険者も負けてられないと精を出すようになった。
 ……国が力を入れていないので、報酬が相場より少ないのが問題だということも知れたけどな。

 <報酬が少なければやりたがらないですよねえ>

 当然である。
 益々、国をどうしたいのかが分からないなと思っていた翌日に事件は起きた。

 「あふ……おはようゴードン。今日もいくつか見繕ってよ」
 「……アルフェン、お前なにやったんだ?」
 「え? どうしたのさ、怖い顔をさらに怖くして?」
 「うるせえよ!? 娘に言われたトラウマが蘇るだろうが! ……お前とグラディスに王宮へ呼び出しがかかった」
 「……へえ」
 「そういや、いい装備買ったな。謁見にゃちょうどいいかも――」

 と、ゴードンの話を半分に聞きながら、思ったより早かったなと考える。
 最低でも二週間くらいは見ていたんだけどな? ギルドが報告しているとは考えにくいが、なにか要因があるのか?

 で、そこからは早かった。
 迎えの馬車が到着し、そのまま王宮へと連れて行かれ、途中で門番に手を振ってぎょっとされたのが面白かった。

 そして、だ――

 「顔を上げて良いですよ。ああ、すみません陛下は声が出なくて代弁させていただいている宮廷魔術師のカーランと申します。以後、お見知りおきを」

 ――そういってフードの下で口を歪めて喋るのはずっと会いたかった男、カーランだった。

 <アル様!?>

 ……こいつか。
 どうやら意図通りに懐に潜り込めたらしいや。本に感謝ってところか?
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