95 / 258
ツィアル国
91.お貴族様
しおりを挟む「ま、魔人……!? ルイグラス様、お下がりください!」
「おっと、これはまたいかついね。君達は冒険者かい?」
お付のおっさんの陰から貴族のお坊ちゃん、ルイグラスという名の男が笑みを浮かべて話しかけてくる。
装備は腰の剣と弓、魔物用に胸当てなんかもしっかり装備しているな。
顔はイケメンで、くせっ毛の金髪は猫みたいにも見える。
<なよっとしてそうですね>
リグレットの目にはかなわなかったらしい。
だが、こいつは俺にとって重要なファクターになる……らしい。
「俺はアルフェン、人間だ。こっちが魔人族のグラディスで、二人とも冒険者だ」
「へえ、小さいのに偉いじゃないか!」
「もう少しで11歳になるよ。見てこいつ、依頼の品なんだ!」
「ほう……確かに登録されていますな。それに見事なジャイアントタスク」
おっさんが俺のギルドカードを見ながら感嘆の声を上げ、一応は信用してくれたらしい。考えさせないため、すかさず質問をする。
「兄ちゃんたちはなにをしているんだ? いい服を着ているけど」
「うむ、よくぞ気づいたぞ坊主。こちらのお方はこの辺り一帯を取り仕切る貴族の一人でヘープ家のルイグラス=ヘープ様であるぞ」
「ははは、テルス自己紹介をありがとう。というわけで、僕達は趣味である狩りに来ているんだ」
なにがというわけなのか分からないが、金髪をふぁさとかき上げ、得意気な顔で趣味をしに来たと言う。
本によると本当にただの狩猟でこの時点では特になにもないのだが、この後、重要なイベントが来ることになっている。
ずれていなければいいとか書いていたけどそこは意味が分からなかった。
「へえ、貴族ってそういうのを趣味にしているんだ。獲物はとれた?」
「それがさっぱりでね。魔物が増えているせいか、野生動物があまり居ないんだよ」
「魔物は狩らないの?」
「弱い魔物なら狩れるけど、僕は冒険者ではないし危険を犯す必要もないだろう?」
「ふうん、やっぱり貴族なんだなあ。それじゃ、気を付けてな。手伝うよグラディス」
「ぶ、無礼であろうが!」
俺はため息を吐き、二人から顔を背けてグラディスの手伝いに回る。
おっさんは激昂しているが、もちろんわざと挑発をしたからだ。
ルイグラスはどう出る? この辺りの会話は本になかったが、俺の思う通りに喋っていいとのことだった。
「ふむ、アルフェンと言ったか。どうしてやっぱり、なんて言い方をしたのかな?」
すぐに食いついて来たか、よしよし。
解せないといった感じで聞いてくるルイグラスには振り向かず、毛皮を剥ぎながら答えてやる。
「そりゃあ、町や村が貧しい状況なのにのほほんと趣味をやっているなんてさ。まあ、貴族がなにもしないってみんなぼやく意味がわかるね」
「ぐ、ぬ……! いわせておけば!」
「だいたい、俺だって誘拐されてここに来たんだ。グラディスが助けてくれなかったらどうなっていたか」
「なんだって……? 詳しく聞かせてもらえるかい」
「うーん、信じてくれるかなあ……貴族だし……」
俺はもう少しだけ挑発し、他の子供と港町で誘拐された経緯を語り、紆余曲折を経て冒険者として生きていくことを決めた可哀想な僕……という体をとった。
すると――
「ううむ、誘拐事件は魔人の仕業だと聞いていたぞ? その男、怪しいのではないか? ……いや、可能性の問題だぞ、うん」
ずっとグラディスを警戒していたおっさんがハッキリとそう口にし、俺が不快感を顔に出すと焦って目を逸らす。
まあ、両方を知らなければ人間の肩を持っていたかもしれない。なんせ悪いことをすると攫われるという都市伝説があったくらいだしな。
だけど、グラディスは非常にいいやつで気さくなのだ、それは言わせておけないと睨む。
「他の子供達は、無事だったのかな?」
「ああ、みんな無事だ。なんなら、港町にケントって子がいるはずだから聞いてみるといい」
「そうか」
ふむ、ホッとしたような表情だな。
貴族は冷徹で、民のことは考えていないと思っていたが、ルイグラスは人が良さそうな気がする。
「アルフェン君と言ったかな? もう少し話を聞きたいんだけど、時間はあるかい」
「俺達、依頼をこなさないといけないから村で休むけどそこでもいいか?」
「そうだな……テルス、スケジュールはどうなっている?」
「明日の昼まではフリーですが、話を聞くとなると村に泊まることになりますぞ」
そろそろ暗くなってきた空を見上げながらおっさん……テルスが不安げに口を開く。
「まあ、早朝に出発すればいいだろう。では、行くとしようか」
「あれ? ……うわ!?」
ルイグラスが笑ながら合図をすると、どこに居たのか武装した男達が数人ぞろぞろと出てきて頭を下げた。
「ははは、警戒させてしまうと思って控えさせていたんだ。解体は終わったかな」
「ああ。行こう、グラディス」
「……」
俺が通訳しないとグラディスは微妙にしか聞き取れないので、黙って頷き荷車に素材を乗せて出発する。
「アルフェンが引くのかい?」
「体力づくりの一つだよ。強くなるためには色々やらないとな」
「ふうん、面白いな君は」
ルイグラスは目を細めて笑ながら俺の横を歩いていき、やがて村へと到着した。
結局三頭か……もう少し魔法も試したかったけど、仕方ない。
「あ、アルフェン君達おかえり……って、増えてない?」
「お邪魔するよお嬢さん。村長に挨拶をしたい、案内してくれるかな?」
「あ、は、はい! お父さんです! こ、こちらへ……。アルフェン君、き、貴族の人?」
「みたいだよ。ルイグラスって名前だった」
「はー……名前だけは知っているわ……か、かっこいい……」
オリィはこういうヤツが好みなのか。
まあ、村の若い連中よりイケメンに惹かれるのは田舎の娘にはよくあることだ。
「でもアルフェン君も将来かっこよくなりそうよね」
「やめてくれ、顔より強さが欲しいよ」
そんな話をしながら村長の家へ赴き、滞在をことわっておくルイグラス。
俺達は牙以外の素材をまた売り払いお金を手にすることができた。
「……」
喋れないグラディスがちょっと寂しそうだったことを付け加えておく。
宿泊施設と集会所で腰を下ろし、ルイグラスの質問を受けることにした。
1
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる