上 下
75 / 258
ツィアル国

72.我が家へ

しおりを挟む

 「結局、我々の出番はありませんでしたな」
 「往復の護衛というだけでもありがたいです。出しゃばらないのは大人だなって思いましたよ」
 「シェリシンダの騎士達も優秀ですからね。野盗戦でお役に立てたのはアル様とエリベール様の護衛として努めることができて光栄ですよ」

 途中の町で一泊してそろそろイークベルン王国へ到着する馬車内。
 ゼルガイド父さんの部下である騎士とそんな話をしながらゆっくりと進んでいた。

 実際、向こうについてからはグシルス達、シェリシンダの騎士達が大活躍で、俺達の護衛としてついてきた彼らはずっと後衛で見守ってくれていた。
 決して役に立たなかったわけではない。

 「……ヴィクソン家のことは解決したとしても、大変な事態であることに変わりはありませんね。ゼルガイド団長と陛下に報告をお願いします。シェリシンダは友好国、二国が協力すればツィアル国の侵攻も防げましょう」
 「ですね。……ツィアル国……カーラン、か」

 イケメンと言って差し支えない副団長の神妙な顔に、俺は窓の外に目を向けて生返事をする。

 というのも、宿で一人になった時、ツィアル国の前に宮廷魔術師であるカーランを倒す必要があるがその青写真が見えないからだ。

 あと四年と見るか、四年しかないと見るか……
 あれだけ大見えを切った以上、呪いを解くために奔走しなければいかんのだが、方法がなあ……

 「さて、長旅お疲れさまでした。このままお屋敷につけますから」
 「ああ、ありがとうございます。ウェンツさん達もゆっくり休んでください」
 「はは、次期シェリシンダの国王様にそう言ってもらえるとは、ますます光栄ですね」
 「や、やめてくれ……」
 「いいと思いますけどね私は。お似合いですよ」

 副団長め、いつか弱みを見つけてその笑顔をひきつらせてやる……
 などと、どうでもいい恨みを向けていると屋敷に到着。
 ウェンツさんと別れ、俺は一人、久しぶりの我が家へ足を踏み入れた。

 「なんだかんだで十日近く出てたんだよな。そろそろルーナもカーネリア母さんやゼルガイド父さんにべったりになったかな? ただいまー……って、あれ?」

 屋敷に入るとシン……と静かな玄関に奇妙なものを感じて訝しむ。
 明かりはついているが、普段なら使用人があちこちに居るので誰かしら声をかけてくれるんだが、静かすぎる。

 リビングへ行こうとした俺の前に、メイドが現れて目が合う。

 「アル様……!! 戻られたのですね!」
 「ただいま。カーネリア母さんは? 双子も姿が見えないけど」
 「こちらへ!」
 「わあ!? どうしたのさ!」

 血相を変えたメイドが手を引き階段を駆け上がっていく。俺は体勢を立て直して追いかけていくと、双子の部屋の前へ。

 「まさか、あの二人になにかあったのか!?」
 「ルーナ様が……」

 あのテロ事件からこっちには手を出して来ないだろうと踏んでいたが、甘かったのか?
 俺は慌てて部屋に入ると、ベッドで寝込むルーナが目に入り鼓動が高くなる。
 両親とルークはベッドの横で深刻な顔をしていた。

 「……困ったわね」
 「こんなことになるとは思っていなかったからな……」
 「ルーナ、はやくよくなってね」
 「ふう……ふう……」

 荒い呼吸をするルーナ。
 もしかしてもう末期とかじゃないよな?
 
 「ただいま! 一体何があったんだ!?」
 「え? アル!? 帰って来たのかい?」
 「うん、ひと段落ついたから……それよりルーナは!?」
 「それが……」

 俺はゼルガイド父さんの言葉を待たずに、ベッドへ駆け寄りルーナに声をかける。

 「ルーナ、大丈夫か……? 俺だ、帰って来たぞ」
 「ふう……ふう……アルにいちゃ……?」
 「ああ、どうした? 痛いところとか――」
 「……アルにいちゃ!」

 ルーナの頭を撫でてやると、薄目だったルーナの目がカッと見開いた。
 直後、撫でていた俺の手の感覚がなくなり、鳩尾に重い一撃を受ける。

 「ぐほっ!?」
 「アルにいちゃだ! アルにいちゃだぁぁぁ!」
 「わ、げんきになったよ!」
 「ちょ、ルーナ、離してくれ!?」
 「アルにいちゃだぁぁぁぁ! わぁぁぁい!!」
 
 さっきまで死にそうな顔だったルーナは俺に抱きつき俺の名前を連呼する。
 それはもうめちゃくちゃ元気にだ。

 「呪いをかけられていたんじゃないのか!?」
 「あらま、すっかり元気になっちゃったわね。呪いってなに?」
 「それよりルーナをなんとかしてよ!?」
 「あー、ダメだな。今ひきはがそうとしたらルーナに嫌われる。パパは嫌だから我慢しろアル」
 「にいちゃ、ぼくもだっこ!」
 「ああああ、ルークまで!?」
 「アルにいちゃー♪」

 語彙力が無くなったルーナがきゃっきゃと俺の正面から抱き着き、振りほどこうとしても離れない。
 それを見たルークも面白がって背中によじ登ってきて、俺の前後はカオスになった。

 しばらくそんな感じでバタバタと大暴れした後、満足したルーナがルークを押しのけて背中に張り付いたところで、リビングへ集まることになる。

 「ふう……帰宅早々、大変な目にあったな……」
 「アルにいちゃ、あーん!」
 「はいはい」

 椅子に座るとルーナは俺の膝へ乗り、ケーキを食べさせてくれる。
 どかそうとするとむくれるので気が済むまでそうしておくことにし、話を続ける。

 「それで、シェリシンダはどうだった?」
 「後で陛下に報告するけど、ディアンネス様は元気になったよ。カーネリア母さんと同じ感じかな」
 「そう、良かったわ。エリベール様も短命だと思うし、王女様が生きていればまた子を作れるかもしれないしね」
 「そのことなんだけど――」

 俺は起こった事実と、『ブック・オブ・アカシック』ツィアル国の宮廷魔術師と【呪い】について細かく説明する。
 特に今後のことを考えるとしても、この世界の大人の意見は聞いておきたいからだ。
 話し終えるとゼルガイド父さんが難しい顔で腕組みを崩さず唸る。

 「……これは大変な事態だ。そして扱いがとても難しい」
 「そうね、ちょっと行って捻り上げるってわけにもいかないし。……それに相手がカーランであれば、尻尾はなかなかださないだろうしね」
 「知ってるの?」
 「アルにいちゃ、あーん!」
 「はいはい……もぐ……で?」
 
 俺がケーキを食べると満面の笑みになるルーナの頭を撫でながら気になることを言うカーネリア母さんに尋ねると、

 「エルフの間じゃそれなりに有名だよ。魔法の探求に人生をささげているといって差し支えない男で、自分の住んでいた村の人間を実験台にして処刑されかかったところを逃げた、なんて噂があるよ」
 「実験台……確かにそんな奴なら【呪い】で脅迫するくらいはするか……」
 「どちらにしても陛下に報告だな。今から行くぞ、アル」
 「うん。それじゃ――」

 俺はルーナを膝から降ろして立ち上がり、ゼルガイド父さんについていこうとすると、服の裾を引っ張られこけそうになった。

 「ルーナも行くの」
 「ルークも!」
 「お前達は留守番だって。行っても退屈だぞ」
 「行くの!」
 「また帰ってこないと思っているのかもしれないねえ。みんなで行こうか。いいかいゼル?」
 「まあ、うん……泣かれるよりはいいかな?」

 俺が居ない間になにがあったんだ……
 にこにこ顔の双子と手を繋ぎ、俺達は屋敷を後にし登城する。
 逆効果だったのかもしれないな……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

処理中です...