上 下
56 / 258
ディビジョンポイント

53.本は、誘う

しおりを挟む

 ――『ブック・オブ・アカシック』
 
 持ち主の知りたい情報を想い、ページを開くと浮かび上がる。
 眉唾な話だが、言われてみれば最初の数ページは魔法の基礎が記されていたが、しばらくめくると白紙になっていたのはそのせいかと思う。

 作ったヤツが慎重なのか、普通の本を偽装するように最初は埋められているのが面白いとも感じていた。

 さて、そんな怪しい本に選ばれた俺だがこの事実を知ったのはつい最近のことだ。
 魔法の応用や無詠唱などは本から得た知識を使っているが、それ以上いいことも悪いことも起きていない。

 そこで国王の『情報を俺に与えて本で知ることができるか?』という実験を提案された。
 興味深い話だと思う。
 俺は読めば情報が浮いてくるが、他の人間には扱えない。さらに言えば俺が拒否すればなんの役にも立たない本なのだから。

 そんな『ブック・オブ・アカシック』を隣国シェリシンダの女王の知りたいことに使ったのだが――

 ・エリベール=シルディ=ウトゥルンの家は【呪い】によって短命である。
 ・死期は10歳から30歳の間でいつ死ぬかは一族には分からない。
 
 「……呪い」
 「勘は当たったみたいだな。見ろ、続きが出るぞ」

 ・エリベールの死期は16歳
 ・【呪い】をかけたのはウトゥルン家の遠縁にあたる貴族‟ヴィクソン”家の祖先。
 
 「ヴィクソン家ですって!?」
 「遠縁、って書いてるな。知っているのか?」
 「もちろん。一族の会議では集まりますから。しかし叔父様にそんな素振りは……あ、いえ、とりあえず治し方、それは!?」

 ・治療法……【呪い】を解く方法は一つ。ツィアル国の宮廷魔術師の持つ‟梟の瞳”を破壊するしかない。
 
 「なんだと……?」
 「なんでツィアル国が出てくるんですか!?」

 ここで、ようやく解決方法が出てきたが内容は衝撃なもので、俺は訝しみエリベールは声を上げる。

 理由は……どうだ?

 「『ブック・オブ・アカシック』、どうしてツィアル国が出てくる? 100年も前の話だろう? 宮廷魔術師が生きているとも思えないんだけど」

 すると――

 ・ヴィクソン家はツィアル国に唆されて【呪い】をかけた。
 ・王が死ねば乗っ取れると考えたから。
 ・ツィアル国の狙いはイークベルン王国。
 ・宮廷魔術師はエルフで長命。

 <分かりやすいですねえ>

 あー、リグレットの言う通り簡単な図式で助かるわ。
 結局のところ、地位が欲しいヴィクソン家とイークベルン王国が欲しいツィアル国。
 ヴィクソン家が裏切って二国で攻めれば落とせると考えたのだろう。
 実に、分かりやすい。

 ただ、誤算があったのだろう、

 「エリベール、ヴィクソン家の家長は頭がいいのか?」
 「……いえ、態度は大きいですが小心者なので、例えば戦争を起こすようなことはしたがらないかと」
 
 エリベールは賢い。
 本の内容と俺の言いたいことが繋がったのか即答してくれた。
 
 だが、ヴィクソン家はここが好奇だと見ているのではないか?
 ツィアル国もだが、エリベールの父が死亡し、母親も床に伏せっている。
 残す血筋はエリベールだが、ここはランダムでいつ死ぬか分からない。
 
 恐らく、常に同じ年齢で死ぬ、という呪いだとすぐに怪しまれると思ったのかもしれない。だけどこの前の自爆テロの説明がつかない……

 そんなことを考えていると、エリベールが涙を流しながらぽつりと呟く。

 「……もう、ウトゥルン家は終わりね」
 「ん? どうしてだ、黒幕は分かったんだ後はこいつらを詰めるだけだろ」
 「ヴィクソン家はなんとかなるかもしれないわ。だけど、呪いの原因であるエルフはツィアル国にいるのよ?」
 「いや、本によればエリベールが亡くなるまでまだ四年ある。陛下にも相談してこの前のことと含めてツィアル国を糾弾するべきだろう」
 「でも……国家間の争いになるかもしれない……」

 沈むエリベールの気持ちは分かるが、命がかかっているし諦めるわけにはいかないだろう。俺はエリベールの頬を掴み、外側にひっぱる。

 「にゃ、にゃにを!?」
 「抗え。確かに状況は良くないが、お前は黙って死ぬつもりか? なにも分からない状態なら絶望だが、材料はそれなりにある。逆転できると思わないか?」
 「か、かもしえないけろ……」
 「ま、最悪子供を作って血を繋げればいいさ」

 安心させようと俺が冗談でそう言ってやると、顔を真っ赤にして俺を突き飛ばした。

 「も、もう! アルはなにを言い出すんですか!」
 「いてて……その調子だ、前向きに行こうぜ? それとお前の母親は……なんとかしてやれるかもしれないしな」
 「え?」
 「こっちの話だ、近いうちに連れて行ってくれるか?」
 「は、はい! もちろん大丈夫、です」

 先ほどまで沈んでいたが、少しはマシな顔になったな。

 「オッケー、なら今日はそろそろ遅いから帰るとするか」
 「あ、帰るんですね……」
 「双子がうるさいからな……」
 「ふふ、可愛いですよね二人とも」

 そんな話をしながら部屋を出ると、城の入り口まで見送ってくれた。
 重要な話が見れたが、これをどう説明するかだな。
 
 とりあえずエリベールがヴィクソン家を見て態度を変えないよう注意する必要がある。気づいていることがバレたら即日なにかの行動を起こすこともあるしな。

 「それにしても確かに使える本かもしれないな」

 あそこまで詳しく情報が出ると不気味さに拍車がかかるな。
 もう一度おさらいしておくかと本をめくってみると――

 ・エリベールには恩を売れ。できるだけ、高く。

 ――そんなことが書かれていた。

 「……どういうことだ? 助ける以上になにかするってことか?」

 それ以上はなにも表示されなかったのでそのままの意味だと思う。
 
 変な文章だと思いつつ、俺はゼルガイド父さん達に今日のことを話す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

処理中です...