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波乱の学校生活

50.次のステップへ

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 「あの時の美人の子……」
 「あら、嬉しいですわね♪ 改めまして、わたくしの名はエリベール。エリベール=シルディ=ウトゥルンです。あ、座ったままで結構です」
 「アル=フォーゲンバーグ、です」
 「ねむ……ねむ……」
 「うふふ、人質にされていた子ですね。可愛い」

 そういってルーナの頭を撫でながら笑う彼女は、あの緊張感の中で見るよりはるかに美人に見えた。
 もし俺が普通に暮らしていたら恋人にするため頑張ったであろうというくらい可愛い顔立ちと仕草をしている。

 さて……それはともかく名前が長い。
 となると、この子は最低でも貴族の身分を持っているとみていいだろう。
 そんな子がどうして俺と最初に握手を交わしたのか、それが気になる。

 「……ふふ、探るような目ですわね。ご安心を、別にあなたをどうこうするつもりはありません。ただ、お伺いしたいことがあったので待っておりました」
 「俺に? むしろ助けられたのは俺の方だけど?」
 「確かにそうですね。わたくしはあなたのことを聞いて興味がわきましたの」
 「興味……あいにく恋人は募集していないけど?」

 面倒ごとにしかならない予感しかないので、俺は適当に答えておく。
 いきなりこんな返しをする奴に好感はもつまい。
 すると、慌てたゼルガイド父さんが俺のところに来て軽く小突いてきた。

 「痛っ!? なにすんのさ!」
 「馬鹿、この方は大森林の向こうにあるシェリシンダの女王様だぞ」
 「え!? 女王!?」

 どう見ても俺と同い年くらいなんだけど……
 俺がまじまじと顔を見ていると、エリベールは顔を赤くしてパタパタと手で顔をあおぐ。

 「い、いいのですゼルガイド様。恐らく歳はそれほど変わらないでしょうし。わたくしは12歳ですがアルは?」
 「俺は10歳。今年11になるよ」
 「一つ下ですのね。……いえ、それは一旦置いといて……聞きたいことは二つ。無詠唱魔法についてと、『ブック・オブ・アカシック』のことですわ」

 おっと、そう来たか。
 12歳の王女様の経緯も気になるけど、目ざといなと思った。
 あの混乱の中で俺が無詠唱ファイヤーボールを出したことを覚えていたとは。

 それと『ブック・オブ・アカシック』のことか。
 伝説の割には人気……いや、国王が喋ったと考えるべきだろうな。

 「無詠唱は……確かにできますけど」
 「やはり。それを教えていただくことはできるかしら?」
 「まあ、ほとんど独学で、ラッドに教えていたころのレベルで良ければ……」
 「是非! とても面白そうですわ!」
 「わ!?」

 俺の答えに満足したのか、彼女は俺の手を取って笑顔を咲かせた。
 周囲を見ると全員が満足げに頷いているのでこれは教えざるを得ないような雰囲気だ。
 ならば、と俺は交換条件を提示する。

 「では、エリベール様。代わりにあなたの知っている”ベルクリフ”を教えてもらうことは可能でしょうか?」
 「え?」
 「アル、どうしたのさ急に?」
 「急ってわけじゃないよ。いつかは覚えたい……というか資格があるかどうか確認したかったんだ。近しい人だと誰も使えないから、これはチャンスだと思って」

 カーネリア母さんにそういうと、少し寂しそうな顔をされた。
 俺の意図が読めているからだろう。
 
 傷を自分で癒すことができれば旅をする上で非常に有利になれるからだ。
 たまに家族からは『復讐なんてやめておけ』と遠回しに言われることがあるからな。

 <言いたい気持ちも分かりますが、私はアル様の意思を尊重します。再生の左腕セラフィムだけでは安心できませんし>

 リグレットの言葉に胸中で頷く俺。
 するとエリベールは微笑みながら口を開く。

 「ええ、適性があるか調べないといけませんが請け負いましょう」
 「よろしいのですか?」
 「構いません。それと『ブック・オブ・アカシック』は?」
 「それも読んでもらうのはいいですけど……多分俺にしか分からない、かも」
 「それでもいいの。フォルネリオ様の提案であるアルに必要な情報を教え、浮き上がらせるの」

 ……こりゃ、国王の提案じゃないな? 
 恐らく国王がこの女王様に話をして、入れ知恵をしたんじゃないか?
 まあ、どうせなにも出てこないと思うけど――

 「お願い、これがあれば私の一族は助かるかもしれないの!」
 「助かる……? 一体どういうことだ?」
 
 先ほどと違って必死な声色で、掴んでいる手に力がこもる。
 藁をもすがる、と言った感じの話を耳にすることになった。

 「……私が女王の肩書を背負っているのと関係があります。私の一族は代々短命で、片方の親は必ず早逝するといういわば【呪い】のようなものがあるのです」
 「短命……」

 俺が呟くと、ゼルガイド父さんが神妙な顔で口を開く。

 「ああ、ウトゥルン家は産まれた子は代々、早く亡くなってしまう。理由は不明。早い方だと16歳くらいで亡くなった方も居るそうだ。兄妹が少し長生きしたから血は途絶えていないが……」
 「はい……そして、今、わたくしの父はすでに他界。妻である母は嫁いできたので長生きするはずですが、身体が弱く床に伏せっているんです。そのせいもあり、わたくしには兄妹がいません……」

 読めた。
 
 「それで短命な理由が浮かび上がらないか知りたい、というわけだな」
 「は、はい。もしくは母の病気を治す方法があれば……」
 「魔法では無理なのですか?」

 ラッドが尋ねると、力なく首を振るエリベール。
 神の魔法と言われているベルクリフでもそのあたりは無理らしい。
 イルネースならなんとかなりそうだけど、流石に協力はしてくれないだろうし。
 
 まあ、やるだけ無駄かもしれないけど――

 「役に立てるか分からないけど、それくらいならいいよ。陛下のお願いも聞くわけだし」
 「……! ありがとうアル!」
 「うわ!?」

 エリベールが座ったままの俺に抱き着いてきて転びそうになり、慌ててルーナを抱きかかえて立ち上がる。
 すると国王も立ち上がり、俺の肩に手を置いて微笑む。

 「話は以上だ。アル、頼むぞ」
 「分かりました……」

 狸親父め、恐らく『こっちが本命』の話だったな?
 
 国に恩を売っておけば色々と融通が利くようになるかもしれないし、こっちの領地からエリベールの婿を選んでもらいやすくなれば安泰だろう。

 まあ襲撃者の正体を知りたいのも嘘ではないだろうからうまく乗せられた感がある。
 なら俺は俺でラッドとエリベールに恩を売っておくとしようか――

 そう思いながら俺は今後のことを考えるのだった。
 
 そして学校へ登校しなくなった中級生の生活が始まる。
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