上 下
47 / 258
波乱の学校生活

44.アル、留守番をする

しおりを挟む

 「ふーん、ツィアル王国って湾岸沿いにあるだけで、残りは魔人の領地なんだな>
 <たまたま空いていた地域を間借りしているみたいな感じですかね>
 「まあ、大陸へ押し込めたのは人間らしいからなあ」

 とまあ、部屋でブック・オブ・アカシックを読みながらリグレットとあーでもないと話をしていた。
 いつもなら双子が入り浸っているのだが、今日は静かなものである。

 何故か?
 今日は国王の35歳の誕生日で、両親と双子はそちらに赴いているためだ。
 俺は呼ばれていないので、屋敷で留守番となった次第。

 <そういえばご両親と双子ちゃんが行ったパーティ、王様の誕生日らしいじゃないですか>
 「ああ、キリのいい35周年記念ってやつだな。次は40歳にやるんじゃないかな」
 
 そのころには俺はもうこの国には居ないと思うけど。
 ラッドの誕生日も近いみたいで、風の噂で同じ中級生の子達を呼んでパーティをするのだと。だけど、そっちも出る予定は無い。
 
 「さて、そろそろお腹が空いてきたな……」
 <学校から帰ってなにも食べていませんしね>

 パーティの準備で大忙しだったのでカーネリア母さんお手製のおやつもなかった。メイドさんももう帰ったので、屋敷には俺一人である。

 よほど急いでいたのか、俺のご飯は、用意されて、いない。

 「……小遣いはあるし、なにか外に食べに行くかな」
 
 確か誕生祭とかいって町の商店も露店を出していたりするので、散歩がてら行くのもアリだ。
 俺はブック・オブ・アカシックを覚えた収納魔法で片付けて部屋を出る。

 するとそこで玄関ホールに知った声が響いてきた。

 「アル、居るか!」
 「あれ? ベイガン爺ちゃんだ、どうしたの? パーティは?」

 なんと屋敷を訪ねて来たのはベイガンの爺さんとモーラ婆さん。ゼルガイド父さんの両親だった。
 驚きつつも階段を下りながら目的を尋ねると――

 「お前ひとりで留守番をしていると聞いてこっちへ来たんだ。うちの家からはゼルガイドカーネリア、それにルークとルーナが出ているから問題ない」
 「双子に構ってあげればいいのに」
 「ふん、お前もワシの孫だからな。ひとり寂しく置いておくわけにもいかん。食事はまだなのだろう?」
 「レストランにでも行こうかと思ってるの」

 なにげにこの二人もかなり丸くなって、今ではカーネリア母さんとも和解を果たしている。

 よそ者の俺に対しても『なんか不思議な力』で双子を授かったのは俺のおかげだといい、普通に孫として扱ってくれる。
 色々と面倒な立ち位置の俺だけど、それでもきちんと接してくれるのはありがたい。ファーストコンタクトが最悪だっただけに。

 「レストラン! 行こう行こう! 外食ってほとんどしないから楽しみかも」
 「カーネリアは料理をするのが好きですからね。では行きましょう」

 モーラ婆さんが微笑み、俺と手を繋ぎ並んで歩く。
 外に止めていた馬車に乗り込むと、ゆっくり道を進み始めた。

 「わ、町中がこんなに明るいのは初めて見た!」
 「ふふ、生意気な物言いをするが、アルもまだ子供だな。誕生祭は滅多にやらないからな。今回はラッド王子の誕生パーティ前の余興でもあるみたいだがな」
 「学校の同級生を呼ぶみたいだけど……どうしてラッドって同じ学校なんだろう」
 「ああ、あれは陛下の方針だ。友人や能力のあるものを発掘する目的もあるようだぞ」

 青田刈りってやつか。
 そういう意味ではラッドが俺に構っていたのは分かる気がする。
 ……まあ、寂しいじゃないかなんていうくらいだから他にもなにかあったのかもしれないが。

 そんな会話を交えつつレストランへ向かい夕食をとった。
 なんだかんだでカーネリア母さんの飯は美味いと思った瞬間でもあったが。

 「それじゃ屋敷へ帰るか。しばらくパーティは終わらないだろうから、露店などを見てもいいがな。どうだ、ウィル」
 「馬車を置いてから歩くならというところでしょうかね」

 御者兼用心棒を務めているウィルという男が肩を竦めて爺さんの言葉を返す。
 この男はずっと仕えている人らしく、ウチの屋敷に祖父母が来るとき必ず一緒だったりする。

 「歩くのたまにはいいかもしれませんね、双子にお土産でも――」

 モーラ婆さんが口を開いた瞬間、通りの向こうで爆発が起こった!
 
 「なんだ!?」
 「分かりません! ただ嫌な雰囲気です、このまま屋敷まで戻りますよ! ……っく、人が……!?」
 
 爆発の後、悲鳴を上げながら通りを逃げていく人に巻き込まれて馬車が停止してしまう。ウィルの言う通り確かに嫌な予感がすると、御者台から身を乗り出してみる。

 「アル坊ちゃん、危ないですよ!?」
 「……血の匂い……!? 一体なんだ?」
 「アル、待たんか! 危険だ!!」
 「アル!?」

 本気で心配する祖父母の声が背後から聞こえてくるが、俺は構わず爆発のあった方へ走っていく。
 前世で仇を取った山小屋、あそこで嗅いだことのある血の濃厚な匂いが漂ってきたからだ。
 恐らくなんらかの傷害事件が起きている……!

 「<フリースペース>!」

 俺は収納魔法からマチェットを取り出し、現場へ向かった――
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...