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波乱の学校生活
43.違う道
しおりを挟む――あれから15年が経った。
俺は旅を続けるうちについに仇敵を……
……などということは一切無く、相変わらずの学校生活を行っていた。
ただ、かなりの変化があり、朱鳥の月の大型連休後に俺の教室からラッドが居なくなった。
相当絞られたのかきつく言い含められたの、それとも脅されたのか。
登校中や競技場で顔を見ることがあるが、寂し気な笑みを浮かべてはにかむだけになり、以前のように近づいては来なくなった。
少々心苦しいが、休み前に俺が教えられることは全部教えたので、それを手切れ金としてほしいものだ。
あいつには才能がある。無詠唱とまではいかないが略式の略式詠唱で『ライト』クラスの魔法なら魔法名を言うだけで出せるほどになった。
剣も騎士団長のゼルガイド父さんに教えて貰っている俺には及ばないけど、多分しっかり習えばいい線に行くと思う。
飛燕の月……いわゆる日本で言う秋を越えるころには、校舎も違うので本当に疎遠になっていた。
さらに時は過ぎて玄狼の月になってくると、俺はミーア先生と二人だけの授業が当たり前になっていた。
「はあ……はあ……」
「今日はここまでにしましょう。天候が悪くなってきたわ」
「あ……寒いと思ったら雪か。珍しいね」
<あまり降らない地域ですものね>
リグレットが言う通り、このイークベルン王国は大森林という森があるんだが、こういう森ができるのは暖かい地域というのもひとつ理由としてある。
三年ほど過ごしたけど、俺の住んでいた地域よりここは暖かいのだ。
まあ、砂漠みたいな地域が近くにあるのだからそれも頷けるのだが、大陸によって気温差が激しいものなのかが気になるところである。
ま。それはともかく流石に雪が降るような気温じゃ体もうまく動かない。
……中級生になったら暑かろうが寒かろうが戦う訓練をするらしいので、今はいい。うん。
「アルはイークベルン式の型が上手くなったわね。癖が消えているわ」
「あ、本当? ゼルガイド父さんの動きを見てずっと覚えようと頑張ったんだよ」
「いいことさね。他の武器は普通だけど」
「ちぇ、身体が小さいからまだ槍は難しいんだって」
「弓はそうはいかないわね?」
「うぐ……」
返す言葉も無い。
剣は生前といっていいか分からないが、闇雲に振り回していたからなんとなく馴染むのだ。ゼルガイド父さんも騎士なのも大きい。
弓は覚えたいと思っているけど、イマイチ的に当たらない……銃は使ったことなかったし遠距離ってのが難しい――
「魔法で遠くの的を当てるのは上手いのだからそのイメージで使えばいいと思うんだけどねえ」
「あ……」
確かに、と目からうろこが落ちた気分だ。
まあ、実際にはマナを使うのと、身体を使って矢を撃つのは違うのだが「飛ばす」のは同じかと頭を捻る。
「ちょっとやってみよう……」
「明日になさい」
「寒いし、それもそうか……」
ミーア先生が俺の頭をくしゃりと撫で、首を振る。
するとそこで――
「おい、お前!」
「ん? お前は入学式でゼルガイド父さんの同僚の息子」
「長い……!」
騎士団で副団長をしている男の息子、イワンだっけ? 確か反対側にいたはずだが、いつの間にか後ろに立っていた。
「なんだい? 寒いから戻りたいんだけど」
「……どうしてラッド王子はこのクラスから離れたんだ?」
「……さあ、俺に言われても先生が決めたことだし……」
「嘘だ、王子はずっと落ち込んでいる」
俺は目を逸らして頬を掻くと、イワンは詰め寄ってくる。
するとミーア先生が間に入り、イワンと目線を合わせて頭を撫でる。
「イワン君、王子はこの教室に相応しくないの。アルは問題児だから私が離したのよ」
「……」
口をへの字にして先生の言葉を聞くイワン。
なんでラッドのことを聞いてくるのかと思っていると――
「今の王子は全然楽しそうじゃないんだ。剣も魔法も入学の時よりずっと強くなってた。でも、アルと一緒に授業を受けていた時みたいに笑わないんだ」
「え?」
こいつのクラスは確かに俺達と被っていることが多かったけどそんなに見ていたのかと驚く。すると、半べそをかきながら口を開く。
「お、俺、父上みたいに城で働きたいと思っているんだ。さ、最初はこのクラスに入ろうとした……けど、王子が元のクラスに戻ってラッキーだと思って話しかけるけど覇気がないんだよ……なあ、なにがあったんだ? 喧嘩でもしたのか?」
「う、うーん……」
この辺りは俺もどうなっているのか分からないだよな。
ラッドは休みの後から来なくなる、って話だけだったからなあ。
まあ、大人の事情は先生が話してくれるかとチラ見する。
「イワン、これは陛下とラッド王子が決めたことなの、アルは関係ないわ。ラッド王子に仕えたいと思ったのなら、あなたが王子を支えてあげなさいな。きっとそれが良いことに繋がるはずさね」
「俺が……」
「悪いなイワン。俺があいつになにかできていたとは思わないんだけど、もうあいつに会うことは無いと思うから、頼むわ」
「うう……」
そう言い放って俺が笑うと、泣きはしなかったが踵を返して走り去った。
「……ラッドが落ち込んでいる、ねえ」
「そういうこともあるさ。……あまり子供に味合わせたくないことだけど」
「え?」
「なんでもないよ、休憩したら語学の授業をしようかね」
「オッケー」
そんな話をしながら、立ち去るイワンの背中を見送りながら校舎へ。
――その後はラッドにもイワンにも会うことは無く、粛々と学んでいった。
そう、誰に関わることなく、話すことなく、粛々と――
いつしか奉虎の月……春になり、俺は中級生になっていた。
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