44 / 258
波乱の学校生活
42.『ブック・オブ・アカシック』
しおりを挟む「えー、僕もお話を聞きたいよー」
「王子、ご無理を言ってはいけません。アル君もミーア先生も困っておられます」
「悪いけど、ここははずしてくれラッド」
俺がラッドの肩に手を置いて声をかけると、少しだけ頬を膨らませて周囲を見渡した後、小さく頷く。よしよし、聞き訳がいい子は好きだぞ。
「またねー!」
「おう」
「それじゃ、お話をしましょうか。『静寂なる空気で我を包みたまえ』<サイレンス>」
「お……」
ラッドとお付きの人(送り迎えらしい)が教室から立ち去るのを十分確認したミーア先生が部屋全体に防音の魔法をかける。
指定した一部の空間、それも内側からの音を完全にシャットダウンする画期的な魔法だ。なんでかというと、ムフフなことをいつでもどこでもできるからだ。
<今、いやらしいことを考えていましたね?>
「……」
黙秘だ黙秘。
<沈黙は肯定とさせていただきます>
「ごめんなさい」
「どうしたのアル?」
「あ、いや……あはは……」
――サイレント。
邪な考えをしたが、実際に誘拐・拷問・強姦といった犯罪に使われる可能性が高いので、使える人間は相当限られているのが現状だったりする。カーネリア母さんは習得しているけど、よほどのことが無い限り誰かに教えることはないと宣言していた。
さて、それはともかく婆ちゃん先生と二人きり。
若いころは美人だったろうけど、心躍る状況でもない。
が、この人の口から聞くことは多くある。
そんな俺の期待に応えてくれるかのように、ミーア先生が口を開く。
「まずはあの本からかね……。あの本の名は『ブック・オブ・アカシック』。……だと思うわ」
「『だと』思う?」
歯切れの悪い言葉に眉根を潜める俺に、困った顔で微笑みながら続きを話す。
「……そのはず、というのも見たことが無いからさね。噂だけが流れて、実在するかどうかも分からなかった伝説とも言うべき本ってところだね」
「ならどうしてその『ブック・オブ・アカシック』だって思ったの?」
そんな伝説の本で誰も見たことが無い、いやさらに言うなら『それがその本だ』と認識できていない可能性が高いのにあたりをつけたのはどうしてか気になる。
「それはその本の性質を知ったから。こんな話があるわ。『一つ、選ばれた主が死ぬか捨てる意思を見せない限り離れない。もし手放した場合は数時間で本人の下へ転移する。二つ、主の欲しい情報が記載される。三つ、未来予測はできない』」
「ずいぶん具体的だ……」
「やっぱり賢いねアルは。そう、やけに具体的……かつ、出所が分からない噂なんだよ。だけど、現存することが分かったから噂じゃなかった、というわけさ」
むう、難しい話だ。
ぶっちゃけ内容はどうでもいい。問題は出所が分からない噂、ということ。
この様子だと知っている人は知っているという感じがする。
話としては都市伝説が近いだろうか?
みんな知っているのに、それに出くわした人間が居ないという点がだ。
誰がなんの目的でこの『ブック・オブ・アカシック』を作ったのか……?
「そういう本だったのか……便利だけど」
「アルにはそうなのね? 一部では呪われた本と言われていて、持った人間が不幸になるらしいんだよ。だからアルの本当の両親が殺され、この国に来たのは不幸中の幸いだと考えているよ」
「……!?」
俺の頭に手をそっと乗せながらミーア先生がそんなことを言い俺は目を見開いて驚く。この人、事情を知っているのか……!?
「ど、どうして……」
「あなたがライクベルン式の型を見せた日にゼルガイドを城に呼んで陛下と三人で事情を聞いたのさ。困った顔をしていたけど、全部聞かせてもらった。……『ブック・オブ・アカシック』を持った人間と王子を一緒にしておくわけにもいかないしね」
ああ、そういうことか。
別の国から来た人間が不幸を呼ぶ本を持っている、それに王子が懐いているなんてことになったら俺でも対策するだろう。
「なら、ラッドは?」
「一応、すぐクラスを戻すというのは本人が嫌がるし不信感を持つだろうから陛下から説明が終わったら入れ替える予定だよ。朱鳥の月に連休があるから、恐らくそこでだろうね」
「そっか」
朱鳥の月というのはいわゆる夏のことで、暑い日は氷魔法で部屋を冷やしても集中力が無くなるため休みなのだそうだ。
長期休暇の間に会うことは無いだろうし、その後なら受け入れやすいと考えたか。
「あっさりしているね。ラッド君……いや、王子はあれだけ懐いていたのにさ」
「……知っているなら話は早いかな。元々、友人は必要ないつもりで先生に個人授業をお願いしたんだ、今更だよ。むしろありがたいくらいさ」
「アル……」
「そんな顔しないでよ先生。俺は生き残った、目的を果たすことができる。それで十分だ」
俺が笑うと、ミーア先生はそっと俺を抱きしめてから涙を流す。
「先生?」
「子供がそんな考え方をするなんて……よほどのことですよ……」
「……」
優しい人だ。
俺は婆ちゃん先生の背に手を回してポンポンと軽く叩く。
「あれ? ということは学校は退学にならないの? 国外追放くらいあると思ったけど」
「陛下は王子に影響が無ければ良いとのことでしたよ。ゼルガイドの手前もあるでしょうしね。授業は引き続き私が教えます」
「うん。ありがとう、先生」
退学になれば家で訓練でも良かったけどな。
……まあ、事情が知られたのだからゼルガイド父さんとカーネリア母さんに迷惑がかからないようさっさと出て行くべきなのだろう。
だけどまだ無理だ。せめて金を稼げるようになるまでは――
家に帰ったらゼルガイド父さんに謝らないとな、そんなことを考えていると、
「そうだ、アル。あなたが大事に抱えている黒い剣。あれもかなり目立つわ。見たことが無い形をしているし、ライクベルンの武器かしら?」
「あ、うん、そんなところ」
「なら、収納魔法を覚えなさい。放課後で良ければ私が手伝ってもいいし、カーネリアから教えて貰っても。『ブック・オブ・アカシック』とその剣は人目につかないところに収納しておいた方がいいさね」
「なるほど……」
自重はしないでいいと言われていたが、どうやらたった一週間程度で状況は一変したらしい。
いいさ、俺はそれくらいでちょうどいい。
懐いてくれたラッドには申し訳ないので、休みに入る前に略式詠唱のコツくらいは教えてやろうかな。
そして――
1
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~
水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!
それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。
貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。
しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。
おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。
国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。
エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。
その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。
エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。
幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。
そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。
レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。
やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。
一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~
空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」
クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。
しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。
「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる