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力を手に入れるために

25.カーネリア母さん

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 「うーん……あ、頭が痛いよ……」
 「ごめんよアル……母さんが無理させたばかりに……」
 
 魔法訓練をやったその夜、いや、正確には数時間後、俺は崩れ落ちるようにその場に倒れた。
 そこからカーネリア母さんは大慌て。
 俺をベッドに運んで水魔法で作った氷枕や、薬なんかを準備してずっと付きっ切りで看病してくれている。
 医者にかからないのは、体内のマナが低下したことによる体調不良だからだそうだ。

 いや、これは俺が悪いのでそんなに泣かないで欲しい……
 
 最初は『ビギナー』の魔法を略式詠唱で色々と使っていたんだが、カーネリア母さんが見せてくれた『ミドル』クラスの魔法である‟フレイムシュート”をガチ詠唱してぶっ放したのがまずかったらしい。

 ちなみにカーネリア母さんが使ったエクスプロードは『エキスパート』クラスの魔法で、あれでも手加減しているのだとか。

 「ああ、どうしよう……」
 「だ、大丈夫だよ……復讐するまで、し、死ぬわけにはいかないし……」
 「もう! そんなこと言うんじゃないよ」

 半泣きで俺の頬に顔を寄せてくるカーネリア母さん。
 痛む頭をこらえながら笑うと、ゼルガイドさんがやってきた。
 まだ再婚をしていないので、お父さんとは呼んでいなかったりする俺は捻くれた子供なのだ。

 「カーネリア? 屋敷が暗いけどどうしたんだ? ……アル?」
 「こ、こんばんは……ゼルガイドさん……ちょっと無理しちゃって……へへ」
 「おお!? だ、大丈夫なのか……?」
 「うん、疲れただけだから……」
 「ごめんね……一晩寝たらマナは回復するだろうからもう少し我慢だよ」
 「魔法の使いすぎか……」

 ゼルガイドさんがドカッと椅子に腰かけながら冷や汗を拭う。
 
 「明日、家に二人を連れて行こうと思ったんだが難しいかな」
 「……言うのかい? あんたは無理してあたしと復縁しなくてもいいんだよ」
 「俺はカーネリア以外好きになれそうな女は居ない。だから――」
 「カーネリア母さん、僕ちょっと寝るよ。お話はリビングでゆっくり話したらどうかな?」
 「でも……」
 「大丈夫、思ってるより強いから、僕は」

 俺がそう言って笑うとカーネリア母さんは困惑しながらも、うるさくしない方をとってゼルガイドさんとリビングへ行った。
 ま、気を遣うくらいはな。

 <体がまだ出来上がっていないので、無理をなさらぬよう>
 「ああ……リグレット、心配してくれるのかい?」
 <アル様が死んでしまうと、私も消えますので>
 「冷たい」

 リグレットは文字通りひとでなしということで会話を打ち切り目を瞑る。
 どんな話をしているのだろうと考えながら。
 
 ◆ ◇ ◆

 「よし! 『火よ原初なる力を我に』<ファイア>」
 「うんうん、ビギナーの略式詠唱なら問題ないね。驚いたけど、無事でなによりだよ」

 そんなことがあったものの、二日後にはあっさり体調が回復して元気に走り回れるようになり、体力とマナは寝れば回復するという教訓として心に刻まれた。
 そんなことを考えていると、カーネリア母さんが俺を抱っこして屋敷に向かって歩き出す。
 
 「朝の訓練はこれくらいにして、着替えたらお出かけするよ」
 「買い物?」
 「ううん、ゼルの父さんと母さんに会いにね、行くんだ」

 元気が無い表情だったのはそのせいか、と俺は感づいた。
 あの夜、リビングに行く前に話していた様子だとカーネリア母さんはゼルガイドさんの両親とはあまり反りが合わない雰囲気があった。
 
 再婚をする報告のような気はするけど、カーネリア母さんが悲し気な顔をしているのは面白くないな。
 ゼルガイドさんも守ってやれなかったから喧嘩して大森林に逃げたということを理解しているのかが気になるところだ

 そうこうしているうちに屋敷に立派な馬車が到着。
 あれよという間に先日買い物で買った新しい服を着せられて出発した。

 「そういえばゼルガイドさんって赤い鎧を着ていたけど、偉いのかな?」
 「あー、そうだね。ふふ、ついてからのお楽しみにしようか」
 「えー」

 俺は窓の外からカーネリア母さんの方へ向き直り抗議の声を上げる。
 だけど、微笑むばかりでそれ以上答えてくれなかった。
 
 程なくして馬車が止まり、降りてみると――

 「え……」
 「さ、着いたよ。ほら、ゼルが来た」
 「待っていたよカーネリア! アル!」

 ウチの屋敷よりも大きな屋敷からゼルガイドさんが笑顔で出てくると、真っ先に俺を肩車してくれた。

 「えっと、ゼルガイドさんって騎士、ですか?」
 「どうしたんだ? 随分他人行儀に言うなあ。そういえば言ってなかったか。フォーゲンバーグ家は侯爵の位を持つんだ。……まだアルには難しいかな?」
 「そうなんだ、僕のお家もお父さんが侯爵だったから知ってるー」
 「あら、そうなの? 貴族だとは聞いていたけど、まさか一緒だったとはね」

 まあ、俺は爵位で人を判断しない。
 だけど、侯爵で魔物討伐をするのかとも同時に思う。

 ……家が違えば、と思うけどそれは今から起こることにも言えることだろう。

 「……ふん、帰ってくるとは思わなかったわ。役立たずの嫁が」
 「母さん!」
 「あたしも別にお義母様の顔はみたくありませんでしたけどね?」
 「カーネリア!? ちょ、ちょっと早すぎる。ま、まずはゆっくり座って話そう」
 「そうだな。再婚したいなどという馬鹿息子の話を聞かせて貰おうじゃないか」

 ゼルガイドさんの両親の剣幕に、俺は肩車越しに目を細めるのであった。
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