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異世界へ

4.少しの冒険

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 「あ、あぶー……」

 リビングを出て五分。
 たった五分ほどだが、俺はすでに後悔し始めていた。
 それというのも、家……いや、屋敷はとてつもなく広く、壁を伝って歩いていくが赤んぼうの体力の無さを甘く見ていたせいもあって行くも地獄、戻るも地獄という立ち往生状態に陥ってしまった。
 
 「うぶー」

 しかしこのままここで立っている訳にもいかないので前進する。
 それにしても前世は裏で悪いことばかりしてきた俺だが、まさかこんなことに巻き込まれるとは思わなかったなと今更ながらに思う。
 退屈しのぎで俺を送り込んでくれたが、こんなの赤ん坊の生活が本当に面白いのかねえ……

 まあ、中身が大人の俺がこんなことをしていることは滑稽に見えるか。

 「う……?」

 そろそろ体力の限界を感じ始めたころ、俺は角を曲がったところで扉が開いている部屋を発見した。
 流石に廊下で行き倒れるわけにはいかないと、急いで部屋へと入っていく。

 「あぷー……」

 つ、疲れた……
 赤ん坊の得意技四つん這いになって肩で息をする。あれだ、もうちょっと成長してからじゃないと行動するのは止めた方が賢明だ……

 限界を迎えた俺は息を整えるため寝転がり天井を仰ぐ。
 ここは……書斎か?
 親父の仕事部屋だろうか、本棚が並び立派な机と椅子があるその部屋は整理整頓されていて、頼りないが生真面目な親父の印象を受ける。

 「あう」
 
 親父の困り顔は結構嫌いじゃないし、俺を愛してくれているのが母親と同様に物凄く伝わってくる。このまま成長してこの屋敷を継ぐことになるのだろうけど、もし俺が結婚でもしたらめちゃくちゃ泣きそうだ。

 その様子を思い浮かべて胸中で苦笑していると、開いていた窓からさわやかな風が吹き――

 「ぷ?」

 ――バタンと入り口が閉じた。

 え……? 
 
 「あぶー!?」

 俺は慌てて四つん這いで駆けよるが完全に閉じた扉を開けることなど出来るはずも無く、ぺたんとお尻から転がりまた天井を仰ぐ。

 まずいか……? このまま発見されず餓死、という図が頭に浮かび冷や汗とおしっこを漏らす(赤ん坊だから許してくれ)が、よく考えたら俺が居なくなったことに気づいたら誰かが探しに来てくれるはずだ。
 
 あんまり移動していないしすぐ見つけてくれるはず。少し我慢するかと落ち着かなくなった下半身を気にしながら目を瞑ろうとした瞬間、ゴトリと本棚から重そうな本が落ちてきて俺はびっくりして声を上げる。

 「あぶ!?(な、なんだ?)」

 すぐに四つん這いになって伏せるが、次が落ちてくることは無かった。
 揺れたような感じはしなかったけど地震か? それにしても落ちてきたのはいわゆるハードカバーと言えるような本で、もし俺の頭に落ちて来ていたら死んでいたかもしれない……

 「あばぶ(危なかった)」

 とはいえ、閉じ込められてしまったこの空間で唯一暇つぶしが出来そうだと好奇心から俺は本に近づいていく。
 ……これでも復讐を決める前はちゃんと大学に通っていたし、勉強は嫌いじゃなかった方なのでこの世界の本というものに興味がある。

 「あうあう(なんの本だ? 歴史とかだと面白いんだけど)」

 えっと……見慣れない文字だが頭の中で日本語訳されたように『意味が』分かることに若干違和感を覚えながら開かれていたページを見ると――

 「あばぶー(魔法、か?)」

 ――そこには魔法についての記述が記されていたのだった。
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