3 / 258
異世界へ
2.転生
しおりを挟む――光
光が見える……なんだっけ、俺はなんでこんなところにいるんだ……? 記憶が薄い……眠い……体を動かそうにも手足がなく、なんだろう……意識だけがどこかに向かって進んでいるという『感覚』だけ。
……いや、それすらもなんとなくで曖昧だ。
唯一、光が大きくなっていくのだけがハッキリと分かるのが救いというか。
やけに『視て』いて安心する光、近づくたびに意識が遠のいていく。
それは俺を包み込んで――
「ふぎゃあふぎゃあ!?(……ハッ!)」
「う、生まれました元気な男の子ですよ!」
「ふぎゃあ!(な、なんだ……!?)」
俺に顔を近づけてくる女性に驚いていると、不意に男性の前に差し出された。
「おお……おおお……頑張ったね、マルチナ!!」
「はあ……はあ……あなた、私達の赤ちゃん、見せてください……」
「奥様、どうぞ」
「ああ……無事に生まれてくれた……良かった……」
「あぶー(凄い美人だ……それにしても……)」
首が動かないので視線だけ動かしてみる。
どうやら白い服を着た女性は看護婦のようで、ここは病院。
……そして俺は赤ん坊のようだ。
そういえば赤ん坊からやり直しみたいなことを言っていた気がする。
だが――
「あぶぶう!(大人の意識を持ったままこの姿はきつすぎる!?)」
「あらあら、どうしたのかしら?」
「産まれたばかりだと最初はよく泣くのでこんなものですよ。それでは奥様の隣に、と」
「うふふ、可愛い。ママですよー」
美人が母親らしい。
おっとりした喋り方で、首筋まである絹のような金髪がとても綺麗だ。
「パパだよー! ああ、もう可愛いなあ! 男の子なら僕の跡継ぎだ、マルチナみたいな人と結婚させよう!」
「あばぶー(なんとなく分かっていたけど親父か)」
一方、赤に近い茶髪をした頼りなさげな男が俺を抱き上げてから満面の笑みでそんなことを言う。
冴えない顔だが父親らしい彼に気が早いことを言うなと思っていると、母マルチナが苦笑しながら俺の考えと同じことを口にする。
「もう、ライアスったら。まだ早いわよ」
「そ、そうかな!?」
「あぶー(だな)」
「ほら、この子もそう言ってるわ」
「ええー。はは、ゆっくり育てていこうか。お疲れ様マルチナ、僕は仕事に戻るよ。名残惜しいけど……名残惜しいけど」
「ふふ、可愛い我が子ともっと顔を合わせたいわよね。ふう……疲れちゃったから少し横になるわ」
「うん。あ、そうだ名前」
父親が手を打ってからそういうと、母親が俺の頭を撫でながら口を開いた。
「私、考えたんだけど‟アルフェン”なんてどうかしら?」
「キルト語で『勇敢な人』だね。いいね、流石マルチナだよ!」
「きゃ、ほら、アルフェンが驚くからお仕事に戻りましょ? ね?」
「あばぶー(勝手にしてくれ……)」
父親は母が大好きらしいということが嫌と言うほど伝わってくる。
まあ、こんな美人が奥さんなら舞い上がっても仕方がないと思う。それに親父、冴えない感じがするし。
「あぶー……(眠い)」
「あ、お眠みたいね。おやすみアルフェン――」
というわけでどうやら俺はどこかの誰かと顔族になったらしい。
前世……と言っていいのか分からないが、前の両親と妹を少しだけ思い出しながら俺は眠りについた――
1
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
【R-18】赤い糸はきっと繋がっていないから【BL完結済】
今野ひなた
BL
同居している義理の兄、東雲彼方に恋をしている東雲紡は、彼方の女癖の悪さと配慮の無さがと女性恐怖症が原因で外に出るのが怖くなってしまった半ひきこもり。
彼方が呼んでいるのか、家を勝手に出入りする彼の元彼女の存在もあり、部屋から出ないよう、彼方にも会わないように気を使いながら日々を過ごしていた。が、恋愛感情が無くなることも無く、せめて疑似的に彼女になれないかと紡は考える。
その結果、紡はネットアイドル「つむぐいと」として活動を開始。元々の特技もあり、超人気アイドルになり、彼方を重度のファンにさせることに成功する。
ネットの中で彼女になれるならそれで充分、と考えていた紡だが、ある日配信画面を彼方に見られてしまう。終わったと思った紡だが、なぜかその結果、同担と間違えられオタクトークに付き合わされる羽目になり…!?
性格に難ありな限界オタクの義兄×一途純情ネットアイドルの義弟の義兄弟ものです。
毎日7時、19時更新。エロがある話は☆が付いてます。全17話。12/26日に完結です。
毎日2回更新することになりますが、1、2話だけ同時更新、16話はエロシーンが長すぎたので1日だけの更新です。
公募に落ちたのでお焚き上げです。よろしくお願いします。
元勇者の俺は、クラス転移された先で問答無用に殺されかけたので、魔王の部下になることにした
あおぞら
ファンタジー
ある日突然、とある高校の2年3組の生徒たち全員がクラス転移で異世界に召喚された。
そして召喚早々、人間種を脅かす魔王を討伐して欲しいと言うラノベのテンプレの様な事をお願いされる。
クラスの全員(陽キャのみ)で話し合った結果、魔王を討伐することになった。
そこで勇者の象徴のチートスキルを鑑定されるも、主人公である浅井優斗(あさいゆうと)だげチートスキルを持っておらず無能と言われ、挙句の果てに魔王のスパイとしてクラスメイトから殺人者と罵られ殺されそうになるも、難なく返り討ちにしてしまう。
何故返り討ちにできたかと言うと、実は優斗はこの世界を一度救った元勇者のため、強すぎて鑑定が出来なかっただけだったのだ。
しかしこの出来事と何日か過ごした時に沢山の人間の醜い姿を見て、とうとう人間を見限った優斗は―――
「初めまして今代の魔王。元勇者だが……俺をお前の部下にしてくれ」
「ええっ!?」
―――魔王軍に入ることにした。
魔女の記憶を巡る旅
あろまりん
ファンタジー
第13回ファンタジー小説対象に出してみました。
上位には無理でしょうが、暇つぶしの読み物にいかがっすか~なんて(笑)
□ ■ □
『古の魔女』
太古より受け継がれし古き記憶。
世界を包む魔力の循環を支える者。
『白』の魔女モルガーナ。
『緋』の魔女エルヴァリータ。
『黒』の魔女ラゼル。
世界に散らばる数多の魔女はこの三人の『古の魔女』の系譜に連なる血族とされる。
だが、『古の魔女』の記憶は時の流れに薄れ、今ではお伽噺の中だけの存在となっている。
これは、そんな1人の『古の魔女』に出会った男のお話。
揚げ物、お好きですか?リメイク版
ツ~
ファンタジー
揚げ物処「大和」の店主ヤマトは、ひょんな事から、エルフの国『エルヘルム』へと連れて来られ、そこで店をひらけと女王に命令される。
お金の無いヤマトは、仲間に助けられ、ダンジョンに潜って、お金や食材を調達したり、依頼されたクエストをこなしたり、お客さんとのふれ合いだったり……と大忙し?
果たして、ヤマトの異世界生活はどうなるのか?!
エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜
紫南
ファンタジー
辺境伯令嬢のリンディエール・デリエスタは五歳の時に命を狙われて前世の記憶を思い出した。『目覚め人』と呼ばれる転生して記憶を思い出した者は数百年に一人いるかどうかの稀な存在。命を封印されていたドラゴン、ヒストリアに助けられ、彼に魔法や文字、言葉を教えてもらうようになる。両親は病弱な長男しか目になく、半ば忘れ去られて育つリンディエール。使用人達に愛され、親友のヒストリアに助けられて彼女は成長していく。ちょっと違う方向へ……。チートで天然な明るい主人公が、今日も我が道を突き進む!
*所々、方言に合わないものもあると思います。『エセ』ですのでよろしくお願いします。
* 完全に趣味と勢いで書き始めた作品です。ちょっとした息抜き、疲れた時のサプリとしてお使いください。
ご利用は計画的に(笑)
【コミカライズ化決定!!】気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています
坂神ユキ
ファンタジー
サーヤこと佐々木紗彩は、勤務先に向かっている電車に乗っていたはずがなぜか気づいたら森の中にいた。
田舎出身だったため食料を集めれるかと思った彼女だが、なぜか図鑑では見たことのない植物ばかりで途方に暮れてしまう。
そんな彼女を保護したのは、森の中に入ってしまった魔物を追ってきた二人の獣人だった。
だが平均身長がニメートルを普通に超える世界において、成人女性の平均もいっていないサーヤは訳ありの幼女と勘違いされてしまう。
なんとか自分が人間の成人女性であることを伝えようとするサーヤだが、言葉が通じず、さらにはこの世界には人間という存在がいない世界であることを知ってしまう。
獣人・魔族・精霊・竜人(ドラゴン)しかいない世界でたった一人の人間となったサーヤは、少子化がかなり進み子供がかなり珍しい存在となってしまった世界で周りからとても可愛がられ愛されるのであった。
いろいろな獣人たちをモフモフしたり、他の種族に関わったりなどしながら、元の世界に戻ろうとするサーヤはどうなるのだろうか?
そして、なぜ彼女は異世界に行ってしまったのだろうか?
*小説家になろうでも掲載しています
*カクヨムでも掲載しています
*悪口・中傷の言葉を書くのはやめてください
*誤字や文章の訂正などの際は、出来ればどの話なのかを書いてくださると助かります
2024年8月29日より、ピッコマで独占先行配信開始!!
【気づいたら、異世界トリップして周りから訳アリ幼女と勘違いされて愛されています】
皆さんよろしくお願いいたします!
この奇妙なる虜
種田遠雷
BL
クリッペンヴァルト国の騎士、エルフのハルカレンディアは任務の道程で、生きて帰る者はいないと恐れられる「鬼の出る峠」へと足を踏み入れる。
予期せぬ襲撃に敗北を喫したハルカレンディアには、陵辱の日々が待ち受けていた――。
鉄板エルフ騎士陵辱から始まる、奇妙な虜囚生活。
転生しない方の異世界BL。「これこれ」感満載のスタンダード寄りファンタジー。剣と魔法と暴力とBLの世界を。
※表紙のイラストはたくさんのファンアートをくださっている、ひー様にお願いして描いていただいたものです
※この作品は「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」にも掲載しています
菊松と兵衛
七海美桜
BL
陰間茶屋「松葉屋」で働く菊松は、そろそろ引退を考えていた。そんな折、怪我をしてしまった菊松は馴染みである兵衛に自分の代わりの少年を紹介する。そうして、静かに去ろうとしていたのだが…。※一部性的表現を暗喩している箇所はありますので閲覧にはお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる