2 / 258
異世界へ
1.最悪な神
しおりを挟む――死んだ。
俺はこれからどうなるのか? 最後にそんなことを考えていたが、やがて意識は飛び、そしてしばらくしてから目が覚めた。
「なん……だ? 生きているのか? ここは……?」
『やあ、目が覚めたね、久我和人君』
「誰だ……!」
知らない声に意識が即覚醒し、転がるように起き上がり周囲を確認する。さっきまで確かに庭園のような場所で腹を抉られて死んだ、はずだ……
『はは、凄い身のこなしだ。流石に裏稼業で生きてきた訳じゃない、か』
「……好きでやってたわけじゃないがな。あんた、何者だ?」
白いテーブルセットでお茶を飲みながらスーツ姿をした金髪の男が俺に笑いかけてくる。他に――
『他には誰も居ないよ。僕と君だけだ』
「……」
見透かされている?
『そうだね、君の考えていることはだいたい。こっちへ来なよお茶でも飲みながら話をしよう』
「わかった。どうせ死んだ身だ、毒は入っていようがそうでなかろうがどっちでもいいしな」
『くく、その物言い、いいね。それに心を読まれると知ってわざと口にすることもね』
「……」
俺は対面に座ると、男はパチンと指を鳴らす。すると俺の目の前に紅茶が現れ、一瞬驚くがそれを口にする。
「……美味い」
『いいだろ? 僕の好きな花から作ったお茶さ』
「それで、俺に何の用だ。 そしてここはどこだ? 俺は死んだはずだ」
『まあまあ、もう時間に追われる必要も無いだろ? 復讐は終わったんだ、のんびり話そう』
「チッ」
悪態をつく俺は男が紅茶を飲み干すのを頬杖をついて待っていると、一息ついた男がカップを置いて柔和な笑みを浮かべて口を開いた。
『さて、まずは自己紹介だ、僕は‟イルネース”短い間だけどよろしく、久我和人君』
「俺の方は必要なさそうだな」
『そうだね、両親と妹を殺されて復讐に生きた君は本懐を遂げた。正直、賞賛に値するね』
「ただの人殺しだ、褒められるようなもんじゃない。終わったことはどうでもいい、イルネースとか言ったな、そんな話をするために呼んだのか?」
俺が仏頂面で口を尖らせると、イルネースは目を細めて笑みを浮かべた。
『ははは、せっかちなのは嫌われるよ? ま、いいか。久我和人、享年35歳。後は僕がその魂を送れば、存在自体が消える――』
「……」
やはりそういう話かと頭の中を聞かれていること前提で考えていると、イルネースが頷いてから話を続ける。
『――予定ではあるんだけど、僕は君が面白いと思ったんだ。それで、僕が創った世界でもう一度人として生きてみる気は無いかい?』
「は?」
どういうことだ? 俺は生き延びることができるのか?
『そうだよ。ただ、その姿ではなく、現地の人間……それも赤んぼうからスタートだけどさ。記憶はそのまま引き継いで、ちょっとした能力を与えてもいい』
「それをすることでお前にメリットがあるとは思えないが……」
『くく、疑り深いね。まあ、特にメリットらしいメリットなんてない。だから、君は僕の創った世界で生きて、僕を楽しませてくれないか?』
「楽しませるだと……?」
俺が苛立ちを露わにした声で威圧すると、手のひらを見せながら不敵に笑う。
『見ての通りここは娯楽と呼べるものが全然なくてね、下界の様子を見るのが一番楽しいんだ。君は君のいた世界でも異質な生き方をしてきたよね? あれはワクワクしたよ、死ぬか生きるかをあの世界で繰り広げたのはさ』
「全部見ていたのか……」
『ああ、最後の瞬間までね。そんな君を僕の世界に送ってどうなるか、それを見てみたい。退屈しのぎにはなるからね』
「断る」
『ふうん?』
俺はあっさり断るが、想定内だという顔をしてニヤニヤと笑い、指を向けてから語る。
『ま、モルモットみたいで嫌だろうなとは思うよ。だから、僕を楽しませてくれたらなにか願いを叶えてあげようかな』
「必要な――」
『例えば、妹さんを別の姿で転生させるとか、ね?』
「……」
こいつ……そんなことも出来るのか? 確かに俺はこんなところ呼ばれているわけだが、もう10年も前に死んだあいつの魂があるとは思えない……
『あるよ。彼女は凄惨な殺され方をしたから浄化まで時間がかかるんだ、だからできる。……残念だけど君の言う通り10年は経っているからここに姿を出すことはできないけど。どうする? 妹さんの次の人生はもしかしたら犬生かもしれないし猫生か、もしかしたらナメクジかもしれない。僕なら人間にしてあげることは可能なんだけど』
……どうする? この時点でもこいつにはメリットが無い。むしろ俺に利がある話ばかりだ。
俺を騙している可能性は十二分に存在するが『俺がここに呼び出された時点』で、こいつの話に応じるしか選択肢が無いと考えられる。
逃げ場がない、こいつをどうにかする力が無いという、カタギじゃない人間の事務所に連れ込まれた時と似ているなと思っていると、頷きながら顔を輝かせる。……最低だなこの神。
『なんとでも言ってくれ、それじゃ久我和人君は僕の世界で生きていく。ということでいいね』
「はあ……好きにしてくれ……今更、普通の生活ができるとは思えないが……記憶は残さなくてもいいんじゃないか?」
『ははは、その人格だから面白いんじゃないか。人一倍、人に優しく気を遣えるのに、人を殺し過ぎた人間の人格がね』
「そうかよ」
どうでもいいかと諦めてため息を吐くと、俺の体が光り始めた。
『それじゃ早速送るよ。あ、そうそう、最後にひとつ。君の恋人、怜香さんだっけ? 彼女も病気で二年以内に亡くなる予定だ』
「え……!? あ、あいつそんなことを一言も――」
『君に知られたくなかった無かったみたいだね。……そうだ、彼女も君と同じところに送ろうか!』
「やめろ! あいつは静かに休ませ――」
『……くく、じゃあね、僕はいつでも君を見ているよ――』
最後に、にたりと影のある笑みを浮かべたイルネースが見えた瞬間、俺の意識は急激に途絶えた。
『……そう、僕は常に君を見ているよ。さて、どう生きていくのか楽しみだ。せいぜい僕を楽しませてく――』
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる