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第四章:ひとまずの解決
その67 森のくまさん
しおりを挟むデッドリーベアの蜜を手に入れる必要がある。
が、蜜をため込んでいる熊がいるかどうかは会ってみないと分からない、らしい。オスはそれをせずにメスが溜め込むからという理由らしい。冬眠に入り、出た後すぐ栄養補給ができる蜜は子熊にとって重要なのだとか。
居場所は世界のあちこちに分布していて、この国にも存在するから一安心だ。
とりあえず次の休みは熊を探すとして、今日のところは運送業だ。
マグロやらキングサーモンやら買っているから金は稼がないと、飯が食えないのである。
いつもどおりの作業着と帽子をサリア、ベヒーモス親子と一緒に装着してトラックを回す。
しかし、そこで町が慌ただしいことに気づいた。
「なんか土方系の人がめちゃくちゃ多いな……?」
「家でも建てるのかしら? ……もしかしてゴルフ場……?」
「あり得なくはないけど……マジか?」
通りに人が多く、ゆっくり走らせているとペールセンさんや商人、バスレイが着ていたような服を纏った人などが乗った馬車が前を進み、やがて町を出て行った。
「ロティリス領方向だな」
「他の方角にも行ってるわ、手分けしてどこかへ向かっている感じね」
<ふむ、ゴルフ場とやらを作るのか。横で見ている分にはかなり広かったが……>
「森を切り開いたりするから、動物や魔物が迷惑する可能性はあるかなあ」
そこは上手いことやって欲しいものだ。
人間の勝手で住処を追われるのはいくら魔物でも忍びない。
そんな感じでソリッド様達はゴルフ場建設に乗り出したようだ。まあこの国のトップが決めたことなので口を挟む必要もないし、正直ちょっと完成したら楽しみでもある。
という感じで平日に訪問者がおらず、仕事に集中できた。
町から町へ移動して荷物や冒険者を運ぶ際、デッドリーベアの住処を知るものが居ないか尋ねていたが、結構強力な魔物らしくわざわざ依頼以外で会いに行くやつはいない。その依頼も滅多に上がってこない代物なのだとか。
しかし――
「おう、デッドリーベアか! この前、ここから東にある山で見たぞ。子連れだったから刺激しないよう下山したからまだいるんじゃねえかな?」
「お、本当かい! ここから東……おっけ、助かるよ!」
――仕事三日目のこと、とある町のギルドに荷物を運んだ際にそんな話を聞くことができたのだ。
これは僥倖と地図を見ながらだいたいの場所に印をつけておき、次の休みに向かうことを決める。
他の素材の情報も欲しかったが、今回の道中では残念ながら手掛かりが無かった。
「頑張ろうね、お母様のために!」
「だな。よし、もうひと踏ん張りして家に帰るぞ!」
<わおーん♪>
◆ ◇ ◆
そんで休日。
相変わらずソリッド様は忙しいようでウチに顔を出さなかったためそのままサリアとベヒーモス親子で出発。
町は色々な人間が門から出たり入ったりしてそっちも相変わらずのようだ。
「大型の照明魔道具は丁寧に扱ってくださいねー! 壊したらわたしの徹夜の結晶が無駄になりますからぁぁぁぁ!!」
遠くでバスレイの叫びも聞こえてくる。まあ、なにかしているのは間違いないということか。
ゴルフに魔道具が絡むとロクなことにならないと思うが。
「すぐ見つかるといいわね」
「まあ、こっちにはダイトが居るしすぐじゃないか?」
とか思っていたが――
「意外と見つからねえもんだな……」
「道沿いには出てこないのかしら?」
影も形も姿が見えず、さらに他の魔物も出てこないためダイトに場所を聞いてもらうという作戦も使えない。
すると、屋根の上から気まずそうなこえでダイトが呻く。
<……我のせいだと思う>
「なんだって?」
窓から身を乗り出して聞いてみると、顔を下げてきたダイトが俺達へ言う。
<我が強者故、近づいてこないのだ魔物たちが。デッドリーベアもかなり強いが、我を人間でいうSランクとやらに相当するとデッドリーベアはBランクくらいだ。他の魔物もAランクがつけられそうな魔物はこの辺にはいないだろうし、引っ込まれている可能性が高い>
「むう」
となるとダイトから離れて探索する必要がありそうだが、そうなると危険度が増す。
でもまあ、
「やらざるを得ないならそれくらいはな。サリアはここで待ってもらって、俺だけ探しに行くぜ」
「私も行く! ヒサトラさんだけにはできないもん」
そう言って頬を膨らませているが、やっぱなにが起こるか分からないしな。俺達が強かったとしても、だ。
だがダイトには考えがあるようで、再び口を開く。
<ここから森の者達に声をかけてみようではないか。それで来れば良し。来なければ匂いなどを辿って追うとしよう>
「あんまり刺激したくはねえが……」
やれるだけのことはやるかとダイトに依頼すると俺達にはわからない言葉を大声で発し、山に響き渡る。
もう慣れてしまったが最強の一角を担うベヒーモス! って感じの威厳が感じられる声だ。
近くに居た鳥たちが慌てて飛び去って行くのが見える。
数回ほど吠えてから山に静けさが戻る。
しかし、しばらく待ってもそれらしい魔物姿を現さなかった。やっぱりベヒーモス相手には畏怖しているのかもしれない。
<ダメか……>
「まあ仕方ねえよ、とりあえず足使って探すとすっかね。その前に飯にしようぜ」
「はーい♪ どうせ魔物も来ないですし、シート敷いてお外で食べましょうか」
「だな、今日の卵焼きは俺が作ったんだぜ? ちょっと砂糖が入って甘いやつだ」
<きゅうん♪>
水と弁当箱を広げ昼食が始まり、俺達はおにぎりやらソーセージやらに舌鼓を打つ。
二つ目のおにぎりを手にしたところで視線を感じ、ふと茂みの方を見ると――
「おお!?」
「あら!?」
――二頭の熊が茂みから顔だけだし、涎を垂らしながらこちらを見ていた。
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