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第三章:最強種と
その55 アノクタラ山脈に咲く花
しおりを挟む「あら、寝てしまったのね」
「朝から遊んでましたから疲れたのかもしれません」
「おーい、後ろは平気か?」
「あ、はい……ダイジョウブ、デス」
またしても騎士達がコンテナに待機したのでぎっちりと詰まっていたので聞いてみたが、アリーは大丈夫ではなさそうだった。少しだけ辛抱して欲しい。
ちなみにソリッド様と一緒の来る騎士はちゃらんぽらんのように見えて近衛騎士で、ほぼ最強クラスの力があるのだとか。
「おお、魔物が蜘蛛の子を散らすように消えていくぞ。ベヒーモスのおかげだな!」
「毛皮を剥がれたくなかったらあっちへ行きな!」
蛮族か。
こんなヤツらだが強いのであるから異世界は分からない。
まあ気のいいことと、族時代の奴等を思い出すから悪い気はしないけどな。
アノクタラ山脈へはアリー達と出会った山を迂回して行く。
概ね6、7時間の行軍なので到着予定だが昼前に出発したことを考えると途中サービスエリア……もとい町で一回休憩して、山の近くで一泊する形になりそうだ。
明後日の仕事を考えると時間はあまり多くないと思っていいだろう。
問題はジミー曰く、咲いている場所がどのあたりなのかまでは分からないこと。漫画とかだと変な崖とか魔物の巣の近くとかにあったりするから明日中に探し当てられるのは難しいかもしれない。
図鑑の絵を知っているアリーが居なければどういう花なのかも分からないので、短期決戦が望ましいところだ。
そして休憩中のサービスエ……町で少し休憩。
「あの子達にお土産買って行きましょうか?」
「そうだな、今日も黙って出てきたし――」
まだ見ぬ王子に僅かの同情を感じる。いつかお礼の品を持って行こう。
「あそこの屋台のお菓子、美味しそうですよ」
「買いましょう!」
サリアやアリー、騎士達も軽くおやつを食べながら背伸びをしたりしてゆっくり過ごした後に出発。さらにアノクタラ山脈の麓にある町で一泊をし、いよいよ山へとトラックを入れる。
<ふむ、標高が高いから寒いな>
「だな。みんな大丈夫か?」
「冒険者や騎士はこういうのを想定していますから大丈夫ですよ」
鼻水を垂らしながら言うこっちゃねえが、ビリー達はマントを羽織り出したので準備は万端らしい。
だが、ソリッド様とリーザ様はラフな格好なので涼しいを通り越して寒いようで体を震わせていた。
「エアコンをつけますよ」
「えあこん?」
「まあ、すぐわかりますよ」
程なくして温風が出てくるとリーザ様が驚きながらも笑顔になる。
コンテナを閉めようかと提案もしたが、花が道中にあるかもということでそのままだった。だが、登るに連れて気温は下がっていく。
そして――
「これ以上はトラックじゃ無理だな」
「道が無くなっちゃいましたね。元々、人があまり立ち寄るような場所じゃないですし仕方ないですね」
「それじゃ、ここから足を使って探すか。ビリー達しか花は分からねえし一緒に行動してくれるか? ダイトはソリッド様達を守るのにここに残ってくれ。サリアもトラックだ」
<む? それは構わんがいいのか? 我の背に乗った方が速く動けると思うぞ>
「そうだな。私達には騎士も居るし、時間をかけないほうがいいだろう」
いや、ここに来るまで結構凶悪な魔物が見えたような気がするけど……
ま、まあ、本人がいいって言うならさっと移動すべきかとダイトに頼んで背に乗せてもらう。
<毛を掴んでいていいぞ>
「い、痛くないのか?」
<問題ない。少し走るぞ、久しぶりだな山の中も>
<わぉん♪>
結局冒険者の三人と俺、そしてサリアとアロンが探索に入る。
俺は寒いのは平気だがサリアには酷だろうとジャケットを着て貰った。
針葉樹林のような木々の間を抜ける間、アリーはずっと目を凝らして草木を見ていたのだが――
「無い、ですね……」
「どういうお花なんですか?」
「色は白で、五枚の花びらでしたね。中心は赤紫みたいな感じだったかと……すみません、図鑑で見たのも結構前なので……」
「まあ、治療薬の材料になるようなものだし、そう簡単には見つからないんじゃないか? 気長にやろう。えっと、白い花びら5枚だな?」
ダイトにゆっくり移動してもらい、山の中を探索に数時間ほどかけてあちこちを探しまくったがそれらしい花はさっぱり見つからない。
「ねえな……時期とかが関係してくるとかないか?」
「あー、それはあるかもしれませんね……そこまできちんと調べてないので……」
ビリーが申し訳なさそうに頭を下げるが、年数はまだあるし定期的にここへ来てもいいと思う。重要なのは情報で、最悪誰かに頼んで持ってきてもらうくらいの頭はある。
さらに1時間ほど経過したところでお昼になり、俺達は一旦トラックへ戻ることに。
「しかし、崖とかすげぇな。落ちたらひとたまりもないぜ」
<ここは昔訪れたことがあるが、遭難者も多く居たな。人間の骨なんかがあちこち埋まっていると思うぞ>
「や、やめろよ。……ん? ちょ、止まれダイト!」
<おう!? 角は止めろ!? なんだ?>
ダイトの角を引いて立ち止まらせて降りると、眼下に見える崖、その対面側にそれらしい花が咲いているのが見えた。
「あ! アリアの花!」
「3輪咲いてますね。でも場所が……」
フラグを立ててしまったのを悔いるほど辺鄙な場所に咲いていた。ほぼ垂直の切り立ったところなので命綱がないと確実に死ぬ。
「どうします? 出直した方がいいですかね」
「いや、みすみす逃すのも勿体ねえ、ロープはあるからこいつを体に結んで降りる。ダイトが引っ張ってくれたらいけるだろ」
<やってみるか>
「き、気を付けてくださいね!」
サリアが両こぶしを胸の前で握り、心配そうに呟く中俺はゆっくりと下がっていく。
根元から三本抜いてツナギの胸ポケットに入れて合図をする。
また少しずつ上がっていくと――
<きゅん! きゅん!>
「きゃああ!?」
「こいつ……!」
上が騒然とし、サリアの悲鳴とビリー、ジミーの怒声が響く。
俺はサリアの悲鳴にドキッとした俺は――
「うおおおおおおおお!」
<むお!? 両手で登るだと!?>
ダイトが驚愕の声を上げるが、俺は構わず一気に登り切り、背中のバットを抜いてサリアの前へ出る。
「ヒサトラさん!」
目の前にはキツネの化け物みたいなやつが立っていてこちら睨みつけていた。恐らくだがダイトが動けないと知り、狙って来たのだろう。
「ああ? なにガン飛ばしてんだてめぇ? やるなら相手になんぞ? そん時は覚悟できてんだろうな……?」
俺は負けじと睨みつけながらその辺にあった石をバットで殴って粉々にする。
すると、その瞬間キツネの化け物は尻尾をおっ立ててびくっと身体を強張らせた後、
「コーン……」
「あ、逃げました!」
<わんわん!>
逃げた。
「チッ、逃げるなら最初からくるなっつーの」
「あ、いや、俺達も驚愕してるんですけど……。今砕いたやつ……アイオライト……」
「それが砕けるならクレイジーフォックスの頭蓋なんてひとたまりもないから逃げたのかと……あいつ賢いので……」
「ああ、それで……」
<きゅーん♪>
「おう、お前も頑張ったな。っと、手に入れたぜ」
「わあ、キレイですね!」
誇らしげに鳴くアロンを抱っこしながら、俺はアリアの花をゲットできたことを喜ぶ。
まずは一つ、か。
初回で手に入れられたのは良かったと胸をなでおろしながらトラックへと戻るのだった。
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