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第一章:轢いたと思ったら異世界だった

その14 仕事と休憩

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 「おーい、中へ入ってくれ!」
 「わかりましたー」

 しばらくして戻ってきたトライドさんの先導で町へ入ることができるようなった。
 俺はトラックをゆっくり動かして門を抜けると、トライドさんの横に緑色の髪と鼻髭を生やしたおっさんが……いや、言い方が良くないな、緑色の友人が立っていた。

 ……緑色の総統を思わせるからダメだな。多分ここの領主さんだろうし、お偉いさんだ。
 ま、まあ、トライドさんの友人ということで……。

 楽しそうに話している二人を追って道を進んでいくと、流石にここでも興味を引かれた人達がなんだなんだと通りにでてくる。

 「危ないから道を開けてさいー」

 窓から注意をしつつしばらく進むとトライドさんと同じくらいの屋敷に到着。
 やはりこの人が今日会う予定の人らしい。

 「こっちに停めてくれるかい?」

 トライドさんの友人がいつの間にか手にしたパイプをふかしながら手で案内してくれ、入ってすぐ右の広い場所へ留めることができた。

 「さて、それじゃ俺達はここで待機かな?」
 「いえ、呼んでるみたいですよ、一旦降ります?」
 「おや、なんだろ」

 サリアと共にトラックを降りると、トライドさんの友人が笑顔で握手を求めてきた。

 「やあ、初めまして。私はジャン=サーディス、この地の領主でトライドの友人だ」
 「日野 玖虎です、初めまして」

 握手をして応じると一服、紫煙をくゆらせてから笑顔で続ける。

 「ロティリア一家を無事に届けてくれて感謝する。特にアグリアスはウチのベリアスの婚約者。当初の予定日に来なかったので心配したが、良かったよ。おっと、立ち話もなんだし中へ入ろうか」
 「そうしよう、皆が待っておるしな」
 「あ、俺はここで待ってますから、帰る時になったら声をかけてください」
 「なに? いや、君も客人としているが……」

 その気遣いは嬉しいが、今回はアグリアスと婚約者の顔合わせに来たんだし俺が呼ばれた訳じゃないことをやんわり伝えて納得してもらう。
 お世辞にもキレイとは言えない作業着だし、ゲストの俺が入るのも違うと思ったからだ。

 「サリアは行ってもいいんだぞ?」
 「いえ、わたしはヒサトラさんのメイドなので大丈夫です」

 なにが大丈夫なのか分からないが残念そうな顔で振り返るジャンさんとトライドさんが屋敷に入るのを見送ってから俺は再び運転席へ。

 「どうするんです? 町にお散歩とかどうでしょう。お金もありますし」
 「あるけど、その前に確認したいことがあるんだ」
 「?」

 不思議そうな顔で首を傾げるサリアは可愛い。それはともかく俺はカーナビのスイッチを入れて声をかける。

 「おい、ルアン聞こえるか? ルアン」
 「ああ、女神さまとお話をするんですね」
 「魔力についてちょっとな。おーい、もしもーし」

 しかし何度か声をかけたり揺すってみるなどしてみたが返事はなく、ナビの画面が表示されたままだった。

 「くそ、出ねえ!」
 「お腹痛いんですかね」
 「その出ねえじゃないからな? まあ急ぎじゃないからいいけど。……というか、このナビいつの間にかこの世界とリンクしてる……?」
 「地図みたいですけこれが『なび』というやつなんですね」
 「だな。ここが屋敷で、敷地がこれ全部だ。屋敷をすぐ出たら店があるな? このアイコンは店だと思うが、パンかな?」
 「かもしれませんね。行ってみます?」

 ナビが本当にそうなったか確認をするため一軒だけならという条件で一番近いパン屋らしき場所へ行ってみようということになった。
 トライドさん達はしばらく出てこないだろう。
 下手すれば一泊するだろうという算段があり、それと町を歩くのも面白そうだからな。
 
 「っと、こっちの世界のお金を入れて……こいつも持っておくか」
 「長い……棒?」
 「ま、大したもんじゃないけど一応な」

 鍵をかけてさて出発……と思った瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。

 「おおお? ウチの敷地になんか変なのがあんぞ……?」
 
 多分トラックのことだろうと声のする方、正面に回ると緑色の髪をツーブロックにした兄ちゃんが居た。
 頭髪の色からしてジャンさんの息子さんだろう、俺達に気が付くと明るい調子で声をかけてくる。

 「よお、これアンタのかい? イカすなこの箱! こりゃなんなんだ? 新しい馬車か?」
 「初めまして、お邪魔してます」
 「おお、堅苦しいのはやめてくれ、オレはそういうの苦手なんだ。ボルボってんだがアンタは?」

 うん、見た目も派手だしヤンキーっぽい喋り方だ。性格は悪く無さそうだが、怒ると手が付けられないとかありそうな感じもする。

 「なら砕けた話をさせてもらおうかな。俺は日野 玖虎、ヒサトラって呼んでくれ」
 「おう! で、こいつはなんだ?」
 「これは『とらっく』と言って異世界の乗り物ですね。わたしの主人、ヒサトラさんだけが操れるアーティファクトです!」
 「な、なんだって……!? こんな可愛い姉ちゃんがメイド……!?」

 驚くのそっちかよ。
 まあ、サリアは確かに可愛い顔立ちをしているから俺みたいなむさくるしい男のメイドと言われたら貴族の坊ちゃんは驚くか?

 「んで、異世界の乗り物ってことはアンタ、異世界人なのか」
 「そうなるな。今日はトライドさん一家を送って来たんだが、暇だし町に出ようと思ってんだ」
 「へえ、折角だしオレが案内すっぜ! 異世界人とか自慢できそうだし」
 「お、なら頼めるか? 近くにパン屋があるはずなんだが」
 「おお、あるある! 行こうぜ!」

 そう言ってボルボが軽い足取りで門へ歩くのを見て俺達もそれについていく……が、サリアが口を尖らせていることに気づいて声をかけた。

 「どうした?」
 「なんでもありません! 行きますよ!」
 「おっとっと……」

 なんか不機嫌になったサリアが俺の腕を掴んで引っ張って歩き出す。
 なんだろうなと思いつつ、俺はボルボの後を追うことにした。 
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