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第一章:轢いたと思ったら異世界だった

その7 優雅な朝食と親父さん

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 「あ、開かない……」
 「鍵をかけられるんですね、窓もただの硝子では無さそうだから割れないでしょうね。ヒサトラさん、起きてますか?」

 外でなにやらざわつく声が聞こえてきて俺は目を覚ます。
 窓のカーテンを開けるとそこには足場に乗ったサリアと目が合い、彼女は笑顔で俺に手を振ってきた。
 トラックの座席は高い位置にあるので、足場を利用して登るのだが彼女はドアが開かないにも関わらず、器用にそこへ立っていた。

 「ロックを外すから降りてろ」
 「はい」

 ドア開けるとサリア、アグリアスの順で乗り込んでくる。
 
 「おはようございますわ、ヒサトラさん!」
 「よく眠れましたか? 世界が変わっても枕は変わらないから大丈夫ですかね?」
 「ま、悪くないよ。トラックで寝るのは慣れているしな」

 元気いいなと思いながら、俺はホルダーに差していたペットボトルの水を飲みながら返事をする。
 そこでアグリアスが朝食に招きたいということと、昨日話していた『お父様』との顔合わせに来て欲しいと言う。

 ま、昼間ならいたずらされることもあるまいかと承諾してトラックから降りて背を伸ばす。

 「んー……空気がうめえな! 都会の淀んだもとは全然ちげえ」
 「ヒサトラさんの居たところも気になりますね。ではお嬢様、行きましょうか」
 「こちらですわ」

 アグリアスの後をついていきながら改めて周囲を見渡すと、トラックを止めた場所は敷地内のほんの入り口に過ぎず、さらに奥へと続く道に大きな屋敷が立っていた。
 
 「げ!?」

 屋敷へ入るとずらりと並んだメイドと執事に出迎えられ、階段の上から声をかけられた。

 「アグリアス、その方かい?」
 「はい、お父様。彼がわたくし達を助けてくれたヒサトラさんです」
 「そうか、いや、話は聞いたよ娘のピンチをよく助けてくれた。私はトライド、本当にありがとう」
 「偶然ですからそんなに頭を下げんでくださいよ」

 貴族ってやつは偉そうなもんだと勝手に思っていたがそうでもないらしい。アグリアスが礼儀正しい娘だったから親がまともってのは当然と言えばそうなんだが。
 
 「いい男だな君は。立ち話もなんだし、食事にしよう」

 早速、ということで朝飯にしようと言い俺はサリアに押されながら食堂へと移動。
 朝はエネルギーチャージ式のゼリーと栄養ドリンクを嗜む俺には豪華としか言いようがない暖かいパンやスープ、キレイなサラダにフルーツが並んでいた。

 「いただきます……!」
 「む、なにかねその呪文は?」
 「え? あ、こっちの世界にはねえのかな。ええっと俺の居た世界では食材を作ってくれた人や料理を作ってくれた人、素材に感謝してから食べるんっすよ。『命をいただきます』って意味もあったかな? 動物も植物も生きてるって母ちゃんが言ってた気がします」

 まあ、学生時代は荒れていたのでそんなことを考えたことは無かったけどな。母ちゃんが倒れた時に子供のころ言われていたことに気づいたって感じだ。

 「ほう、なにか教典でもありそうな感じだな」
 「そんな大層なもんじゃないっすよ」
 「いただきます! うん、いいかもしれませんわ。お父様、我が家はこれからこの挨拶を使っては如何でしょう?」
 「いただきます……ふむ、悪くないかもしれん。考えておこう」

 なんか壮大な感じになってしまい恐縮だが、それはそれとして食事をいただくことに。
 
 柔らかくて暖かいパンにチーズと目玉焼きにハムらしき肉とフルーツジュースという組み合わせは洋食の朝食という感じだ。俺は米の方が好きだがパンも嫌いではない。
 というかバターが濃くて美味いなこれ……

 「さて、ヒサトラ君」
 「あ、はい」
 「重ねて娘を助けてくれたこと、感謝する。視察に行った先でゴブリンに襲われるとは運が無かった……昼間の街道なら冒険者もいたので問題ないと思ったのだが」
 「無事で良かったですよ。他の人達が心配ですけど」
 「早朝に討伐と捜索の部隊を200人向かわせたから問題ないだろう。娘を襲ったゴブリン共に最大限の恐怖を与えた上で皆殺しにせねば気が済まん」
 「げほっげほっ!?」
 「大丈夫ですかヒサトラさん」

 おう、バイレンス!?
 ヤンキーだった俺も真っ青の発言にむせていると、サリアがタオルを渡してくれる。
 
 こっちじゃ人型の生き物を殺すのに抵抗はないんだろうなあ……俺は喧嘩くらいはしたことあるが、バットで頭を殴ったらどうなるかはわかるのでさすがにそんな凶行には及んだりはしなかった。
 タバコも身体に悪いからすぐ止めたしな。酒は……飲んでたか。

 「まあ、こっちはそういうことなのでとりあえずは安心してもらっていい。とりあえず今は君のことだ、この後どうするつもりなんだ? 異世界からの来訪者……例が無いわけではないが、戻れるアテはあるのかい?」
 「ええっと、どうやら元の世界には戻れな――ほぶ!?」
 「(ヒサトラさん、女神様のことは話せないですよ)」

 サリアが俺の首筋にチョップを入れて言葉を止めてから小声で忠告をしてくれる。確かに自分のことは言うなという話だったか。

 「戻れるかはちょっと分からないですね。とりあえずあるとしてもこっちの世界で暮らしていかなければならないと考えています。家は……あのトラックがあるので、もし良かったらどこか空いている敷地をお借りできればと……あとは仕事を探すつもりです」
 「なるほど……もちろん命の恩人に出て行けなど言わぬよ。むしろそれくらいでいいのか?」
 「ええ、土地も安くはないでしょう? とりあえずトラックを置いてから考えますよ」
 「承知した! バックアップは任せてくれ。すまないが私は先に席を立たせてもらうよ。ゆっくりしていってくれ」
 「ありがとうございます」

 
 トライドさんは笑みを浮かべながら席を立つと食堂を後にした。
 ここに俺を連れて来たアグリアスは俺を見ながら不敵な笑みを浮かべているし、なにをするつもりなんだ……?
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