上 下
374 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その395 女神

しおりを挟む


 「やああああ!」

 『数が増えたからと、いい気になるなよ!』

 ガキィン、キィン! と、私の剣とズィクタトリアの光の刃が交錯する。

 「いい気にもなるわよ! みんなが生きていてくれたんだから! みんながいたら負けないわよ!」

 攻め続ける私に、前衛だった人達全てが加わってくる。

 「クラウス、お前はもうちょっと寝ていていいんじゃないか? ニールセンに見せ場をやってやれよ」

 「馬鹿言うな、俺がシルキーにいいとこを見せるのが先だろ? おらよ!」


 『ぐぬうううう!? 傷をつけられるのか、この私が!』

 ブシュ……!

 レイドさんとクラウスさんが全くの同時に左右から仕掛け、紙一重で剣を回避する。だけどその後ろには黄金の鎧をまとったニールセンさんが待ち構えていた。

 「名ばかりの神よ、この地にもはやあなたは必要ない!」

 『人形が自己主張を語るなぁぁぁぁ!!』

 ギィン! ガガガガ!

 「すごい! 大剣をあんなに速く振るうなんて!」

 私が感激していると、後ろに控えていたセイラが魔法を使う。

 「そのままよニールセン……《アイシクルトマホーク》!」

 ビキィン!

 『うおおおわっぁぁ!? おのれらがああああ!』

 「くっ……!?」

 空中から急に現れた氷の斧がズィクタトリアの肩に落とされ血しぶきが舞う。逆上したズィクタトリアに弾き返されニールセンさんが数メートル後退する。

 <畳みかけろ!>

 「わかってるわ!」

 「援護は任せて! <マジックアロー>!」

 「シールド展開……! 守りは私とフレーレが請け負おう!」

 チェイシャが叫び、シルキーさんの援護魔法と、何もないところから大楯を召還するという技を使いカルエラートさんも前へ出る。
 カイムさんが飛び、レイドさんやクラウスさんが片膝をつくズィクタトリアへとどめを刺しにかかる。手を緩める必要はどこにもない!
 
 <我等と女神の悲願、今こそ!>

 「

 『ぐお!? ぐおあああ!? ”破滅の光”をくらえええ!』

 「きゃあああ!?」

 「うおおおお!?」

 「盾ごと吹き飛ばすとは……まだこんな力を……!」

 『こんなところで死ねるか! 私は創造神だ、虫けらにやられ――』

 「そう思っているから油断するんだよ! チェーリカ!」

 「はいです! 《ホーリースタッフ》!」

 『ぐぼあ!? き、貴様ら……!』

 陰から出てきたソキウスに腹部を貫かれ、チェーリカが見知らぬ魔法を使い、巨大な戦鎚が顔面にめり込むと、そのまま床に串刺しとなった。

 「あ! あの魔法いいですね!」

 フレーレが興奮気味に叫ぶのと同時に神裂が馬鹿笑いをして叫ぶ。

 「ぎゃはははは! 馬鹿が! がきんちょどもが調整中ってのを真に受けやがって間抜けが! ルーナ、とどめだ!」

 『神裂ぃ!』

 「ホントあんたって……。よし! みんな、最後の力を! 愛の剣よ!」

 <愛が迸るっぴょんね! レイド、おかあさまの剣と一緒にルーナと!>

 「あ、ああ! アーティファクトセイバー、これが最後の一撃だ、力を……!」

  私とレイドさんが同時に走り、這いつくばるズィクタトリアへ向かう。これでようやく終わる、そう思っていた瞬間――

 『ぐぶ……!?』

 『妹ちゃん!?』

 「エクソリアさん!?」

 「なんだと……!?」

 『くそ……! 貴様気づいていたか!?』

 なんと、あと一歩で踏み込むその瞬間、ズィクタトリアが起き上がりカウンターで光の刃を突き出してきていたのだ! 私を突き飛ばし、私の代わりに光の刃を胸に受け吐血するエクソリアさんが口を開く。

 『ぐ……お前に作られたんだ、それくらい当然だろう? ごほ……』

 『苦しいか? ふん、このまま吸収してやろう。少し傷が癒えるかもしれん』

 『させ……ない……よ!』

 エクソリアさんは最後の力を振り絞り、ズィクタトリアを両足で蹴って刃から逃れ床に転がる。

 『チッ……』

 「エクソリアさん!? フレーレ!」

 「はい!」

 『い、いい、ボクはもう駄目だ……あいつとボク達は同室の存在……傷は恐らく塞がらない……そ、それより姉さん、こっちに……』

 『ちょっとしっかりしてよ!? あんたがいなくなったら張り合いがなくなるでしょ!?』

 『ふ、ふふ……ボクはもう……姉さんと争うのは……ごめんだ、ね……この力を、ルーナに……できれば自分たちの手でケリをつけたかっ……た……』

 『これは……。妹ちゃん!? エクソリア!』

 『……』

 「そんな……」

 フレーレが首を振り、エクソリアさんがこと切れたのが分かった。

 「くそ……」

 ここに来てまさかエクソリアさんが死ぬなんて……ズィクタトリアを睨むと、傷はあるもまだ気力は十分なようだった。

 『ここまで追い込まれるとは思わなかった……終わりにするぞ人形ども……!』

 「くっ……!」

 『待って』

 私がもう一度駆け出そうとしたが、それをアルモニアさんに引き留められる。すると目の前が真っ暗になった――

 「あ、あれ?」

 『ルーナ』

 「エ、エクソリアさん!? 無事だったんですか!」

 『クク……無事じゃないよ、ボクの体はもう使い物にならないし、この状況を作ったのも最後の力さ。姉さんを通じて話しかけている。さて、時間がない。ボクがこうなった以上、ズィクタトリアを倒す手段をルーナに託すことにしたよ』

 「最後の手段……? レイドさんの勇者の力、それと愛の剣と魔王の力があればいけるんじゃ?」

 『もちろん。だけど、アレはボクの想像以上の化け物だ。創造神にひとり知っている女神がいるんだけど、それに匹敵する。まあルアの方がさらに上なんだけど……結局勝てなかったな……。あー、それはいいか。ルーナ手を出せ』

 なんかぶつぶつ言っているエクソリアさんが不意に手を出してきたので私はそれを握り返す。

 「こう?」
 
 『それでいい。……”デッドエンド”を覚えているかい?』

 「え? う、うん。そりゃずっと使っていたし。でも使えなくなったでしょう?」

 『そうだね。……あれは元々、魔王の力をボクが回収するための魔法だったんだ。使ったら魔力がゼロになるのはボクが吸収しているからだ。セイラの時もそうだった。ただ吸収するだけだと使ってもらえないからね、代わりに五分間、強大な力を得るメリットを付与したのさ』

 そういう魔法だったのか……とすれば、今までの魔力を持っているってことになる? 私が考えを巡らせているとエクソリアさんは続ける。

 『ボクの力を全部ルーナに渡す。そのための魔法を、君に』

 ぽうっと私の体が光り、代わりにエクソリアさんの体が透けていく。

 「エクソリアさん!」

 『必ず、やつを……ズィクタトリアを……魔法の名は――』


 「ハッ!?」

 「どうしたルーナ、ぼーっとしてたぞ!」

 「だ、大丈夫! ……私の後に続いてレイドさん、次で絶対にとどめを刺すから」

 『魔王の力を持っているからとほざくな小娘が!』

 激昂するズィクタトリアを冷静に見つめる私。そしてエクソリアさんに託された魔法を、使う。

 「人間と魔王と……女神の力、思い知りなさいズィクタトリア! 《クライシスエンド》!」

 「これって……!?」

 「補助魔法が……また?」

 ――私が唱えた瞬間、その場にいた全員に、一度しかかけられない補助魔法が全て重ね掛けされた。そしてエクソリアさんの力を解放した私の髪は一瞬で銀色に。

 「私達の……エクソリアさんの底力を思い知れ……!」
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。