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最終部:タワー・オブ・バベル
その393 誤算
しおりを挟むブシュ……!
『反転術……解除、だ……! ごほ……』
「神裂、これで良かったのか?」
『ああ……わりぃな……ごほ……』
「な、なんなの……? それにレイドさん、平気なの……?」
床に倒れて血を吐く神裂にレイドさんが問う。私は訳が分からず、ふたりを見ながら口を開くと、神裂が私を見ながら答えてくれた。
『レ、レイドは俺が軽く吹き飛ばしただけだ……ケガなんざねぇよ……。レイドにゃちと芝居をうってもらったのさ……』
「……どうしてそんなことを……。それに、甘んじて剣に貫かれるのも意味がわからないわ」
アントンの剣と愛の剣が突き刺さり、見た目はかなり悲惨な状況で痛々しい。ごほっと血を吐き話を続ける。
『お、俺の身体はズィクタトリア。そこの女神二人の主人ってやつだ。それはわかるな?』
「ええ。私たちの目の前で身体を乗っ取ったんだもの。それでこの世界を壊そうとしたんでしょ?」
『近いが、実は……違う。世界を壊そうとしたのはズィクタトリアだ。俺はそれを阻止するためこいつの身体を乗っ取った……』
『……その体じゃ辛いだろうから、ここからはボクが話そうか』
エクソリアさんが厳しい顔でそう言い、私たちはエクソリアさんへ目を移す。気づけばレジナ達もフォルサさんと一緒に私の足元へ来ていた。
『ビューリック国でゲルス……正確には神裂ともだけど、戦ったことは覚えているかい? あの時、神裂からすれ違いざまにズィクタトリアとのことを聞いて思い出したんだ。だから、姉さんの復活に協力する気になったんだ』
そういえばあの時、エクソリアさんは神裂を踏みつけながら自分たちのことを語っていたことを思い出す。言われてみればそこから女神ふたりがついてくるようになったし、お父さんのことも知ったんだっけ。
『ぶっちゃけると、ズィクタトリアを倒すのはこの世界の人間では不可能なんだ。自分の創った人間に倒されるなんて真似を神はしない。ボクたちのように、中途半端に関わっている女神はその限りではないけどね』
「そうなのか……? なら、俺とルーナで愛の剣を突き刺したが神裂を倒すことも不可能なんじゃないか?」
「そうよね。私達はこの世界の人間だし……」
私がそう呟くと、エクソリアさんが首を振って言う。
『ルーナが装備している、ボクが作ったアイテムはそれに準じない。格は低くても同じ神の領域だからね。それと、ルーナは長らく姉さんの水晶を体に宿していた……だから、その身は神に近いものなんだ』
『そ、そうだ……。それと魔王と勇者は女神ふたりが与えた特別な恩恵だ……。対抗できる手としては最善だったんだ……う、ごほ……』
「な、なに言ってるのよ! パパを消し去ったくせに……!」
『あ、ありゃあ誤算だった……。異世界の英雄や、極悪人を呼び寄せてこの塔を登ってもらったのはもちろん訳がある……。ズィクタトリア……今は俺だが、こいつを始末するには感情の高まりと、非情になる必要があった……だ、だから、レイドとアントン、そしてディクラインとルーナをここへ来てもらうつもりだったんだが……』
神裂が勝手なことを言い、私は頭に血が上り神裂の胸倉を掴んで激高する。
「そんな、ことで! フレーレ達を殺したって言うの!? ふざけないで! そこまで考えられるなら他にも方法があったんじゃないの!? どうしてもっと……考えてくれなかったのよ……」
「ルーナ……」
涙を流す私に、レイドさんがそっと肩に手を置いてくれる。世界のためなんだろうけど、友達を失くして自分だけが生き残る悲しみは相当なものだ。
『す、すまねぇな……。俺がお前に子を産ませるって話もあったろう? あれも一つの手段だったんだぜ……魔王と異世界人の俺の子なら恐らく絶大な力をもっていたはずだ、し、な……』
「それは俺が許さないがな」
「がう!」
「わんわん!」
絶対ダメだと、レイドさんに続いてレジナとシルバが吠えて抗議してくれた。世界の為でも、好きな人じゃない子を産むのは嫌だものね。
『へっ……。だ、だが、これでいい……これでこいつは俺ごと……消滅するはず……』
『そういうことだったのね。妹ちゃん話してくれても良かったのに』
『ボクが気づいていることをズィクタトリアに知られた場合、姉さんを洗脳し直してボク達の相手を刺せないとも限らないからボクはずっと黙っていたんだよ。ただ、装備の七人が戻ってくるのが遅くて、冷や冷やものだったけどね』
「それにしても神裂、お前はどうしてここまでしたんだ? この世界で生きることもできただろう」
『それは――』
「え?」
神裂がレイドさんの問いに返そうとしたところで異変が起きた。それまで息も絶え絶えだった神裂がゆっくりと起き上がり、胸に刺さった剣を二本とも抜いて捨てたのだ。
『おい神裂! どうしたんだ!』
『くっ……こいつ……! 離れろみんな! ズィクタトリアはまだ……! う、うおおおおおお!?』
神裂が頭を押さえて苦しんだ直後、
スポン! と音が聞こえそうな勢いで身体からレイドさんより少し年上を思わせる黒髪の男性が飛び出してきた。身体は透けており、ゴーストのような感じである。
「わん! ……わん!?」
シルバが突撃をするもすり抜けてしまい私の予想が当たる。
『神裂!』
「チッ……こいつは俺が思っていたよりしつこかったみたいだぜ……」
エクソリアさんが叫び、黒髪のゴーストが神裂であるらしいことがわかった。
「え? あんたが神裂なの?」
「おっさんだと聞いていたが若いな」
「んなこたどうでもいいんだよ!? 目の前の『敵』に集中しろ!」
敵、と言い放った神裂の視線の先には、先ほどまで乗っ取っていたズィクタトリアの身体が立っていた。抜いた剣を捨てると、顔をあげて私たちへ笑いながら口を開いた。その笑みは醜悪なものだと直感的に思うほど歪んでいた。
『く、くくく……ようやく取り戻した! 愚か者どもが! 私が貴様らごときにやられるとでも思ったか? 神裂よ、私を抑え込んだつもりだろうが人間が神を御せると思うなよ! それに女神共、世界の管理をさせてやった恩を仇で返すとはな』
喋っているだけなのに冷や汗が止まらない……。これが本当の神……? 胸中でそう思っているとエクソリアさんが声を荒げる。
『よく言うよ。ボクたちを実験材料にしただけのくせにね! 何が『手伝ってくれたら昇格を進言する』だよ。最初から使い捨てのつもりだったんだろう?』
そう言いつつも足が震えているエクソリアさん。あの強気な彼女が震えるということはよほど恐ろしいのかもしれない。するとそんな彼女の肩を押さえながら、ずっと黙っていたフォルサさんが話し出す。
「神の割には小さい男だ。勇者と魔王を争わせて楽しんでいたのでしょう? いざとなれば世界を一度壊すくらいのことはできるだろうし」
『ま、記憶を思い起こす限り自己中な神だったと思うわ』
アルモニアさんも脂汗をかきながら便乗する。
そして――
『言いたいことはそれだけか?』
「……!?」
レイドさんが目で追った先には、
『うぐ……!?』
手刀で腹を貫かれたエクソリアさんの姿があった!? いつの間に……!? レイドさんは見えていたみたいだけど、動けなかったようだ。
『さて、こうなったからにはもう手加減は無しだ。世界を壊すのは簡単だが、一瞬とはいえ私の身体を乗っ取り、殺そうとした罪は重いぞ! まずは貴様等を痛めつけた後、世界が滅ぶさまをゆっくりみせてやろう……!』
そう言って威圧してくるズィクタトリアに、対峙する私達。だけど、目の前に立っているだけでピリピリとした空気が流れるのがわかった。
『まずは目障りな女神からだ……!』
速い! だけど、今度はレイドさんがカバーに入り、アルモニアさんとの間に割って入りズィクタトリアの攻撃を防御した。
「くっ……!」
「レイドさん!」
私は叫びながら愛の剣を拾い、背後から斬りかかる。しかし、後ろに目があるかのごとく、剣を回避し素早く私へ向き直って手から生み出した光の刃を叩きつけてくる。
『馬鹿が! いくら私を殺せると言っても、実力が伴わなければそれは無いも同然! ……もちろん、勇者とて同じだ!』
「ぐは……!?」
「レイド! 《ケイオスフレア》!」
『無駄だ!』
フォルサさんの上級魔法をあっさり消し去るズィクタトリア。
三人がかりでも隙を見つけられない……! 神裂は時間稼ぎで手加減をしていてくれたみたいだけど、こいつは容赦がない! 猛攻に耐えながら攻撃をしていると、視界の端で神裂ゴーストが舌打ちをしているのが見えた。
「くそ……! 俺の見立てが甘かったとはな! 仕上がっているか……? 本当の奥の手は……」
そう言って壁に向かい壁に手を当てるがすり抜けてしまう。
「おう!? この身体じゃ……! そうだ! ワン公、ルーナ達を助けたかったらこっちにこい!!」
「わぉん!」
私を助けるという言葉に反応したシルバが俊足で神裂の下へ向かうと、シルバに指示を出していた。
「ここを蹴飛ばせ! 思い切りな!」
「わん!」
ガゴン!
重い音が響き、壁だと思っていた部分がへこみ、ゴゴゴゴゴ……と、横にスライドした。
すると、そこから何かが飛んできた。
ビュン!
『む! なんだ?』
難なくそれを叩き落し、私とレイドさんの剣を受け止めながら眉を潜める。その直後、私は信じられない声を聞いた。
「《マジックアロー》! カイムさん!」
「承知……!」
『チッ……!』
ガキィィィン!
マジックアローを避けたズィクタトリアに斬りかかったのは……
「カ、カイム!?」
驚くレイドさん。
そして――
「大丈夫ですかルーナ!」
「フレーレ!?」
死んだと思っていたフレーレがそこにいた!
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