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最終部:タワー・オブ・バベル

その384 最後の選択を

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 <バベルの塔:99階>


 「ふ、ふふふ……うふふ……」

 「お、お母さん……?」

 「ルーチェ……! お前、まさか……!」

 お父さんが私の肩に置いているお母さんの手を掴んだ。お母さんは笑いながら、その手を振り払うとバッと手を広げて私とお父さんを――

 「あははははは! それでこそ、私の娘ね。それでいいわ。ルーナ、あなたはあなたの考えで神裂を何とかするるということね?」

 笑いながら抱きしめた。そして耳元でお母さんが優しく語り、私は目を白黒させながら言ったことを反芻して返事をする。

 「あ、う、うん、そうなるよ。お母さんと一緒に暮らしたい、けど……下で戦っているみんなや、死んでしまったフレーレ達を想うと、私だけ幸せにはなれないよ、やっぱり」

 「うん。強い子に育ったわね……というか、私とは小さいころに死に別れたからあんまりお母さんって感じしないんでしょ?」

 「ちが……!? なんでそんなこと言うのよ!」

 お母さんが私から離れ、人差し指を口に当てると、目線を逸らしながらそんなことを言う。い、一応覚えてるもん!

 「フッ……」

 「ど、どうしたのお父さん!? 急に笑うなんて」

 「……フフ……ハハハ、間違いなくお前はルーチェだな。こいつはいつもこうやって人をからかう。ルーナ、してやられたな」

 「んふふ、真面目ねえルーナは」

 「お母さんって、もっと儚げな感じだったと思ったけど……」

 胸元に私を引き寄せるお母さんに呟くと、少しだけ寂しそうな顔で私に言う。

 「……まあ、あのころはいつ死んでもおかしくなかったからね。今のこの姿は、村にいた元気なころだから。ごめんね、お母さんをしてあげられなくて。守ってあげられなくて……アイディールさんとディクラインさんには本当に感謝の言葉もないわ」

 「お母さん……」

 そこで、区切りがついたと思ったのか、エクソリアさんが口を開く。

 『で、君は結局何をしにここへ? ルーナと感動の再会をするためだけじゃないだろう?』

 「水を差すわねえ、元凶の片割れさん? ……まあ、少しは改心したみたいだけど。で、私の目的。それはもちろんルーナの成長した姿を見ることよ。それと、さっき言ったことは別に嘘でも無いわ。もし、私の案を受け入れるなら、世界は終わっていた。その、最後の選択を担ったのが私。でもルーナ達が心変わりするとは思っていなかったから、強気で来たけどね」

 フレーレ達の仇を取らずに楽な方へ行くことは無いだろうとお母さんは私を信じてくれていたそうだ。塔に上り始めてからずっと、お母さんは私達の戦いを見ていたらしい。

 「それじゃ、足止めや罠は……」

 「無いわ。だけど、一つだけルーナに謝らないといけないことがあるの」

 「謝る……?」

 「お父さんのことよ」

 「……俺?」

 なんのことかわからず、きょとんとした顔のお父さんに、お母さんが告げる。それは私も薄々感じていたことだった。

 「もうあなたの体は限界なの。うまく誤魔化しているけど……ほら……」

 「う……!」

 腕のローブをお母さんがまくると、手首以外は白骨となった腕が出てきて、レイドさんが呻いた。やっぱり、もう体を維持できるほどの魔力もないようだ。

 「……構わん。この体が朽ちる前に神裂に一撃を食らわすまでだ。もう喉元まできているんだからな」

 「そんなことをしたら今度こそ本当に魂ごと消えてしまうわ! 今の神裂は神なのよ、死んだあなたでは勝ち目がないの!」

 「そうなの……!? アルモニアさん!」

 『……ま、その通りよ。女神、もしくは神は魂を転生・流転させることができるわ。基本的に魂を創るというのは簡単じゃなくてね。だから使い回すの。ただ、大罪人とかの魂はよほど洗浄しないと、同じ過ちを繰り返すことが多いからその場合は止む無く消すことも有るわ。生きているルーナには使えないけど、ヴァイゼには効果絶大。二度と転生できないでしょうね』

 お父さん、それほどの覚悟で戦う気だったのね……だけど、お母さんは――

 「そんなのダメよ……魔王になって、死んで……今度は完全に消されたりしたら、何のためにあなたは生まれてきたのよ……」

 「……ルーチェ……」

 泣くお母さんをそっと抱きしめるお父さん。その瞬間、お母さんも抱き返し、そして……

 「ごめんね、ルーナ。お父さんを休ませてあげて……」

 「お母さん、何を……!?」

 「ぬう……ルーチェ、お前……!」

 パァァァァと、お父さんやお母さんの足元から光が溢れ出し、二人を包み込む。泣きながらお母さんは言葉を続けた。

 「あなたにはもう何もしてあげられない……そしてお父さんを連れて行く私を許して」

 「お母さん……」

 何かを言わなければ、と私は考える。だが、言葉が出てこない。お父さんを連れて行かないで? ううん、お父さんを一番好きなのはきっとお母さん。お父さんは不本意かもしれないけど、この後消えてしまうよりはきっとこの方がいいのかもしれない……寂しいけど、元々は死んでいたんだし、ね。

 「わんわん!」

 「きゅきゅーん……!」

 「きゅふん!」

 お別れだと悟ったのか、狼達が足元で鳴く。それを聞いたお父さんがお母さんに対して叫んだ。

 「ルーチェ、俺はまだ戦わねばならん……離してくれ……!」

 「ダメよ……魂が消えなければ望みはある……私の、この世で最後のわがまま……を」

 チラリと女神姉妹を見たお母さん。その目を真っすぐに受け止めたエクソリアさんはため息を吐いて呟く。

 『仕方ない、魔王を生み出したのはボクだ。無事、神裂を倒したら考えておくよ……』

 「エクソリア……! ……ルーナ、すまない。俺はここまでだ。確かに俺の体はもうボロボロだ……ほら」

 カラン、と腕の骨が床の落ち、それをシルバが拾う。

 「くぅん……」

 「もっと嬉しそうにしてくれ……まあいい、ルーチェを、お母さんを恨まないでやってくれ」

 「ごべんねぇ……ルーナぁ……」

 涙と鼻水でべしゃべしゃになったお母さんの頭を撫でるお父さんを見て、私は一度だけ目を閉じ、笑顔で言う。言葉は一つだけ。それ以外は無い。

 「お父さん、お母さん」

 「ん?」

 「産んでくれてありがとうね!」

 「……ありがとう、ルーナ。レイド、ルーナを頼むぞ」

 「は、はい! 必ず……幸せに……」

 レイドさんも泣き、最後は言葉を詰まらせていた。お母さんが私を見てほほ笑むと――

 シュゥゥゥゥ……

 光がと共に二人は姿を消した。瞬間、私の目から涙が溢れ出す。


 「う……ぐ、うう……」

 
 さようなら……お父さん、お母さん……

 
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