上 下
360 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その381 友達

しおりを挟む

 <バベルの塔:98階>


 「暗いわね……」

 「がう……」

 今までのフロアと違い灯りが無く薄暗い通路が続き、フレーレのライトとレジナの目を頼りに進んでいく。どうやらここも『げえむ』と同じらしく、ノゾムがサクサクと歩いていく。相変わらず魔物が居ないは不気味だなと感じるけど、残り2階なのだ、せめてこのメンバーは残りたい。

 「……クリアだ。こっちに来てくれ」

 「どれくらい歩いた? 妙に長くないかい?」

 ユウリが壁をコンコンと叩きながらぼやくと、ノゾムが石を投げて床を確認しながら返事をした。

 「いや、ゲームだと分かりにくいけどこれくらいはあったと思う。こっちは慎重に慎重を重ねて移動しているからそう感じるだけだ。アイリ時間は?」

 「……えっと、うん、まだ2時間くらいよ」

 それほど経過はしていないけど、エクソリアさんが口を開く。

 『あまり時計は信用しない方がいいよ。下の階で妙に時間が進むフロアもあったんだから』

 「……まあ、それもあるか」

 エクソリアさんが珍しく前でノゾム達と一緒に警戒を強めてくれている。私はというと、レイドさんと共にフレーレを守るように歩いていた。

 「あ、あの、私なら大丈夫ですよ?」

 「何言ってるのよ、下の階で落ちそうになってたのに」

 「きゅんきゅん!」

 「ほら、シロップも怒ってるじゃない」

 「うう……」

 足元にはシルバとシロップが居て、鼻を鳴らしている。レイドさんもずっと剣を抜いたまま無言で集中しているようだった。私も剣を握ったまま、気になっていることを口にする。

 「ノゾム達は義理の子供だから簡単に殺さないというのは分かるけど、私やレイドさんが生き残っている理由も知りたいわね」

 「元々ルーナに子供を産ませようとしてる、とか言ってませんでしたっけ? だからじゃないですか? レイドさん怒っていいと思います」

 「はは、その時が来たら必ずね。そのためにもここは早く突破しないと」

 『……』

 「アルモニアさん?」

 『え?』

 「私の顔に何かついてます?」

 『な、何でもないわよ!』

 視線を感じて振り向くとアルモニアさんが私をじっと見ていることに気付き、声をかけると焦ったように上ずった声をあげた。何か隠しているような……?



 ◆ ◇ ◆


 「……」

 「どうしたの?」

 「いや、ルーナに子供を産ませるとか言ってたのかと思ってな。あんたは知っているかわからないけど、俺はルーナにモーションをかけていたことがある。初めて見た時、こいつが欲しいと直感が仕事をしたぜ」

 「ほっほ、それが何か?」

 「良く考えてみれば、俺の恩恵は『勇者』だろ? あそこにいるレイドも勇者だ。それに育ての親も勇者だったんだよな?」

 「……確かにそうね。ルーナと勇者に何かある? いえ、何かさせようとしている……?」

 「止めますか?」

 「ダメだと思うわ。今の仮説があっていると考えるならルーナが居ないと先には進めない気がする」

 「なるほど、では便乗しますか。餌みたいで心苦しいですがね」

 「その顔でやめてくれよ師匠」

 ゴツン!

 「痛ぇ!?」

 「にゃーん」

 「ほら、見失うわよ」



 ◆ ◇ ◆


 98階をさらに歩くこと1時間。私達は広い部屋に到着していた。向かいの壁には扉があり、99階に続く階段があることを予想させる。

 「このまま99階へ行けそうね。そういえば魔物とか機械も出てこないのはどうしてかしら」

 「もしかしたら最後の最後で出してくるんじゃないか? 95階まで虐殺をしてきたのに、ここにきて何もないなんてことは無いはずだ」

 床の具合を確かめつつゆっくり歩いていく。感触はしっかりした床だけど、いつ抜けるか分からないので怖い。補助魔法を使って進むのも考えたけど99階で強敵がいたらマズイと、緊急以外は使わないことで満場一致していたのだ。

 「ふう……何も無かったか」

 「良かったわね、さあ次へ行くわよ」

 ほどなくして扉の前に到着し、安堵するレイドさんに私が答えていると、ノゾムが扉に耳を当てて口に指を当てて扉の向こうに何かないか小さく叩いて調べていた。

 「……開けるぞ」

 キィ、と扉が開いていくのを見守っていると、隣でフレーレが両手に拳を作って言う。

 「みんなの想い、無駄にしないようにしないとですね」

 「ええ、そうね。大人しく言うことを聞いてくれるとは思えないけど、とっちめてやるんだから。それこそ後悔するくらいぼっこぼこにしてやるわ!」

 「わんわん!」

 「きゅきゅん!」

 「うふふ、シルバ達も頑張るって言ってますね。負けません――」

 ゴゥ!

 フレーレが扉から目を逸らしてそう言った瞬間、扉の向こうから鎖が飛び出してきてフレーレの首に巻き付いた!

 「やはり罠はあったか……!」

 「この!」

 レイドさんがすぐに鎖を断ち切ろうと剣を振り下ろす。だけど、それを予測してかフレーレに巻き付いた鎖が、意思を持ったかのようにフレーレを扉の向こうへ引っ込んでいく。

 「逃がすか! フレーレ!」

 「う……うう、ユウリさん……ルーナ、これを!」

 ユウリがフレーレに駆け寄るが階段を引きずっていく速度はそれを上回る。

 するとフレーレは胸元から十字架を取り出して私に投げた。足元に落ちたそれを拾うとフレーレはにこっと笑い、口を開いた。

 <フレーレ!>

 「い、今まで……ありがとうございました……うぐ……おかげで勇気をもらえま、した……」

 「諦めるには早いわ! <フェンリルアクセラレータ><パワフルオブベヒモス>」

 私とレイドさんにかけてダッシュする! フレーレの前に回り込んで鎖を掴み、これ以上進ませないよう力を籠める。諦めるわけにはいかない……!

 ガッ! ガキッ!

 「くそ、何でできてるんだこの鎖!? 全然切れないぞ!」

 「頑張っ……て、レイドさん! あまり、持たないかも……!」

 「……手伝うぞ!」

 『光の刃でも切れないだって……!? 神裂めまさか……!』

 ずるずると階段を引きずられる私達に、お父さんにエクソリアさんなど総出でフレーレの鎖を外そうと協力をする。今まで次の階へ行く階段で襲われたことが無かったのはまさかこのためか、と誰かが発し、

 「く、くるし……」

 「いかん、このままでは息ができず死んでしまう」

 「でも手を放したら死んじゃうでしょ!?」

 お父さんに怒鳴りつけるも、フレーレは最後の力を振り絞って――

 「す、すみませんわたしがどんくさくて……も、もういいですから……きっと神裂を……《シャイン……ウォール》」

 「あ!?」

 フレーレの防御魔法が発動した瞬間、その壁に弾かれて私達は階段を転がってしまう! しまった、手を……!

 ジャラララララ……

 「フレーレぇぇぇぇ!」

 最後に口元を緩ませたフレーレは暗い階段を引きずられ、闇へと消えていった……


 「く、う、うううううう!」

 「よせ、ルーナ!」

 「だってフレーレが! フレーレもこんなことに!」

 床をガンガン叩く私の手をレイドさんが止める。レイドさんの悲痛な顔を見た私は目から涙があふれ始めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の転生実験

東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。  不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。  大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?   先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。 【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】 飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。 アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。 セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。 最終的にはハッピーエンドになる予定です!

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?! 

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。