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最終部:タワー・オブ・バベル

その369 ルーナとレイド

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 <バベルの塔:86階>


 ヒュゥゥゥゥ……

 木枯し吹くフロア……ではなく、床の無い吹き抜けから上がってくる風の音だ。扉を出て数歩分しか床が無く、前方は吹き抜け、両脇はとりあえず床が地続きで繋がっているという感じだ。

 「相変わらず底は見えないな。向こう側には扉はあるが……」

 「どうやって行くんだ? 空でも飛べってことか?」

 レイドさんの呟きにクラウスさんが肩を竦めて苛立たしげな口調で言う。だけど、空を飛べる者はこの中に誰も居ない。

 <ジャンナかカームが残っていたらにゃあ……>

 「確かに。あの大きさなら少しずつ運んでもらうこともできただろうに」

 「ジャンナも二人くらいならいけましたもんね」

 <ぴー、これを見越して私達を消滅させたのなら神裂は相当やり手ね>

 ガッカリするバスとカルエラートさんに、フレーレのクロスからジャンナがやれやれと語りかけてきていた。しかし居ない者は仕方がない!

 「今までも相当いじわるなことがあったけど進めないことは無かったわよね。何か方法があるんじゃないかしら? 探してみましょうよ」

 「わん♪」

 ぐるぐると私の足元で回るシルバが吠えると、ノゾムが吹き抜け付近まで歩いていく。

 「あぶねぇぞ兄ちゃん」

 ソキウスの声に片手を上げて答えながら、ノゾムはギリギリまで歩き、片膝をついて吹き抜けをじっと見た後戻ってきた。

 「……父さんの考えそうなことだ。ユウリとアイリなら分かると思う」

 「どれ……」

 「ふむふむ……」

 ユウリとアイリもノゾムと同じところまで歩いて行き「あー!」と見事にハモった後戻ってくる。アイリは笑っていた。

 「なるほどね。でも、ちょっと怖いかな?」

 「ここは僕たちの出番だろう。フレーレ、小麦粉みたいな白い粉を持っていないかな?」

 ユウリの言葉に、

 「多分念のために持ってきたのがありますけどどうするんですか?」

 フレーレが粉の入った小麦粉袋をユウリに手渡すと、無言でそれを持って再び吹き抜けへ向かい、おもむろに小麦粉を振りまいた!

 「勿体ないです!」

 「あ、いや待ってください」

 チェーリカが憤慨するが、ニールセンさんが吹き抜けのある部分を指して制止する。そこで私達は驚かざるを得ないものを見せられた。

 「……粉が落ちない?」

 「ですね。ガラスか黒い床か分かりませんが、うまく道を隠しているみたいです」

 「……ということだ。俺達が道を作っていくから、みんなは少し休憩していてくれ。魔物もいないし、仮眠を取るのもいいかもしれない」

 「いいの?」

 「ええ! ゲームでこういうのあるんですよ。だから私達が適任なので、お任せください! それじゃあユウリ、ノゾム兄さん、道を暴くわよ!」

 「慎重にな。二人並べるかどうかくらいの幅しかない、落ちるなよ?」

 「アイリはそそっかしいからな……」

 「な、何よ二人して!」

 「わおん」

 「……お前も来るのか?」

 「わん!」

 がぶり

 「痛い……」

 わいわいしながら兄妹で小麦粉を振りまいて行き、少しずつ道がハッキリしてくる。ノゾムはシルバを撫でようとして噛まれていたけど。

 「それじゃ、私達はご飯を作りましょうか」

 「さんせーです!」

 ノゾム達が奮闘している間、休息を取るため食事を作ったり目を瞑って寝転がったりと思い思いに過ごす。バインドギャザーに酷い目にあったカルエラートさんも疲れていたようでうとうとしながら料理をしていたりする。

 「きゅんきゅん♪」

 「きゅふん!」

 「あはは、くすぐったいですよ」

 花柄毛布をまとったフレーレはシロップとラズベにじゃれつかれていた。

 そしてご飯を食べ、ノゾム達を見ると段々姿が小さくなっていくのが分かる。白い道が迷路のようにハッキリしているので、進むのは楽勝だろう。

 とりあえず戻ってくるまでしばらくかかりそうなので、久しぶりにレイドさんと話す時間が出来た。


 「はい、レイドさんお水」

 「ありがとう。この調子なら明日は90階まで行けそうだな」

 「そうね! 今のところピンチはあったけど順調に進めているから良かったわ」

 「ああ。この調子なら神裂が力を手に入れるまでに何とかいけそうだ。だけど、慌てて犠牲が出てもダメだから油断しないで進もう」

 「うん! ……そういえばこの戦いが終わったらレイドさんはどうするの?」

 私はそろそろ終わるであろうこの塔の戦いの後どうするのか尋ねてみる。一応、レイドさんとは恋人同士だから聞いておきたいなと思っていたのだ。

 「お、そういえば考えてなかったな……」

 ガクッと私はバランスを崩す。呆れたと思われたのか、慌てて手を振って言葉を正すレイドさん。

 「ああ!? 何も考えてない訳じゃない! とりあえずこの戦いに集中していたからその考えが無かったんだよ。あ、これだと何も考えてないのか……?」

 「ふふ、真面目だからねレイドさん」

 「……そういうんじゃないよ。ディクラインさんが消えて、勇者として俺ができることを全力でやる。そればっかりやってきた気がする。そうだなあ……とりあえずヴィオーラが平和になったと思うし、一度故郷へ行ってみるのもいいかな。父さんも帰りたいだろうし、母さんを故郷に眠らせてあげるのもいいかもしれない」

 そう言って腰の剣に手を当てて笑う。すると今度は私に尋ねてくる。

 「ルーナはどうするんだ? えっと、その……俺と一緒に来るか?」

 「それはどういう意味で?」

 聞き返すと、レイドさんは目を丸くして私の顔を見て口を開いた。

 「それは、その……俺達は恋人同士だから……あ! ルーナ、面白がってるな!?」

 ニヤニヤしていた私に気付き、レイドさんはそっぽを向く。仕方ないなあと思いながら私は背中からレイドさんにそっと抱きついて一言。

 「どこにでも行くわよ。恋人同士、なんだもんね。あ、でも一回お父さんと魔王城に戻りたいかも」

 「……そうだな。ヴァイゼさんも、まだ元気だし、一回みんなで集まってもいいかもしれないな。フォルサさんに報告しないといけないだろうし」


 ぶえっくしょい!


 「え!? 何!?」

 どこかで派手なくしゃみが聞こえてきたと思い、私はきょろきょろと周囲を見渡す。すると、遠くでフレーレが鼻をかんでいた。

 「フレーレか? びっくりしたな……」

 「う、うん。でも……ふふ、さっきのレイドさん凄く慌ててたわね!」

 「それはルーナもだろ!?」

 顔を見合わせて笑っていると、タタタ、とノゾムが走って来るのが見え、私達は集合した。




 ◆ ◇ ◆




 「……勘弁してくれ」

 「ごべんなざいね。誰か私の噂をしてるのかも……」

 「まあまあ。それで私達はどうしますか? 小麦粉は足跡が残ってしまいますよ?」

 「後をついて行けば、と思ったけど、折角だしここはリンちゃんに頼りましょう」

 「にゃーん」

 「大丈夫かお前? 飛べる?」

 「にゃ~ん♪」

 「大丈夫みたいよ」

 「ええー……」





 

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