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最終部:タワー・オブ・バベル

その365 足止めをしてくる魔物

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 てくてくと上下逆さまの状態で私達は迷路を歩いていく。みんな逆に歩いているのに違和感が出てきたので、くるりんぱして天井に足をつける。

 「ほっ!」

 「やっと普通に歩くんだな……疲れて無いか?」

 「そうでもないかな? 何て言うか天井に引っ張られる感じだから手を離してもぶらーんってぶら下がっちゃうし、力はあまり使わないよ? さっきの状態でレイドさんが振り向いていたら顔が近かったかも」

 レイドさんの心配をよそに、私はあっけらかんとした感じで答える。

 「そ、そういうことを言うんじゃないって」

 顔を赤くしたレイドさんに満足した私は前へ出て見るが、特に変わったところは無く、延々と迷路が続いているだけだった。そこで下を歩くフレーレが顔を見上げて話しかけてくる。

 「魔物も出ませんね。逆さまになるだけなんでしょうか?」

 「それだけとは思えないけど……ね!?」

 「……ぐあ!?」

 「あ!?」

 ユウリがフレーレに答えていると、上からノゾムが落下し、ユウリの頭とごっつんこした! カイムさんがあちゃーといった顔で口を開く。

 「す、すみません! 前ばかり気にしていて矢印に気付きませんでした!」

 「……か、構わない……」

 「うおお……」

 「だ、大丈夫ですか二人とも! ≪ヒール≫」

 慌ててフレーレがヒールを使い、二人が立ち上がるとエクソリアさんが口を開く。

 『魔物は出ないし、その他怪しいことも無し。ここは一気に抜けた方がいいんじゃないかな? また床が抜けたりしても困る』

 「……そうだな。ルーナ、マッピングはどうだ? 階段がありそうな場所はないか」

 「ん、ちょっと待ってね――」

 私が魔法板を取り出したところで、ソキウスが剣を抜いて言う。

 「何も無い、って訳にはいかないみたいだ。来たぜ」

 「こっちもだな。ここは俺達が引き受けるぜ」

 天井はソキウス、地上ではクラウスさんが剣を抜いて目の前の敵に向ける。

 うじゅる……うじゅる……

 「目と触手が気持ち悪いです!?」

 チェーリカが言うとおり、天井に張り付いているのはポールのような胴体に触手がいっぱい生えている一つ目の魔物。そして地上には煙のような姿をした魔物が現れた。何となく肌質があのフォークを持った悪魔に近いような気がする。

 それに先に仕掛けたのはソキウスだ!

 「うりゃあ!」

 ギギ……

 ドスン! 

 と、おおよそ剣で斬ったとは思えない重い音がしたと思ったのは正解で、ソキウスの剣は脳天のような場所を直撃したかに見えたが弾力のある体に弾かれていた。

 シュルル……!

 「うわ! 気持ち悪っ!?」

 「油断するなソキウス!」

 無数の触手をソキウスに伸ばして絡みつけたが、レイドさんの剣で断ち切られて目玉の魔物はうぞうぞと少し下がり間合いを取った。
 一方、地上もクラウスさんが大剣を煙のような魔物へ振るがぶわっと霧散しやはり刃が届かない。

 ヒヒヒヒ……

 気持ち悪い笑い声が迷路に響き、クラウスさんが苛立ちながら尚も攻撃を仕掛ける。

 「くそ、手ごたえがねぇ! 魔法ならいけるか?」

 タンタン!

 「銃もダメか。クラウドデーモンってところかな……魔法を試してみてもらえるかい?」

 『言いえて妙だね。なら上のはバインドギャザーってところかい』

 「分かりました! ≪マジック――≫」

 エクソリアさんが魔物の名前を決め、フレーレが魔法を使おうとした瞬間、天井に張り付いていた触手がビュンっとフレーレに迫った! 速い!

 「きゃあ!?」

 「フレーレ! この!」

 「おっと……」

 私が踏み込んで触手を斬り、地上でユウリがキャッチすると、クラウスさんを抜けてクラウドデーモンが手が塞がっている二人に襲いかかって行く。

 「任せて! ≪ブリザーストーム≫!」

 「私も行きます!」

 セイラとニールセンさんが立ちはだかるようにフレーレ達の前に立ち、氷の魔法が炸裂。

 ヒヒヒ……!

 「避けた!?」

 「たぁ!」

 ボヒュ!

 「う、まとわりついてくる!? ぐあ……」

 やはりニールセンさんの剣はダメージを与えられず、煙が鎧の隙間に入り中の肉体を傷つけていた。

 こっちはこっちで天井は触手の攻撃が激しくなり、地上にもいくつか伸ばそうとしているのを斬っているが、斬った先から生えて来るので膠着状態になっている。

 「何回でもぶん殴ってやるぜ!」

 うじゅる……!

 どちらかといえば小柄なソキウスが触手を抜けて剣を横に振ると、バインドギャザーはそれを避けた。

 「避けやがった!?」

 「だあああ!」

 うじゅ……じゅ……

 その後レイドさんが追撃をかけると、今度は何事もなかったかのように剣を受けるバインドギャザー。レイドさんは弾かれ後ろにたたらを踏んだ。

 「くそ、ぶよぶよしているだけじゃなくて弾力がある……!」

 こうしている間にも、シルキーさんやカルエラートさんに触手を伸ばしていく。幸い掴まっている人は居ないけど、クラウドデーモンが飛び回り、そっちに気を取られて捕まるのも時間の問題だ。

 「……縦斬りは大丈夫で横斬りは避ける……」

 「どうしたのアイリ! あ、カイムさんー!」

 「わああ!? ぶ!?」

 アイリがぶつぶつとバインドギャザーを見ながら何かを呟き、カイムさんが触手に捕まり、びたんびたんと天井に叩きつけられる。

 「≪マジックアロー≫!」

 「あた!? た、助かりましたフレーレさん!」

 カイムさんが尻餅をついて刀を構えなおしていると、アイリがポンと手を打って叫んだ。

 「そうか! 分かりました! 弱点は目ですよ目!」

 「目?」

 「そうです。縦に斬ると目との距離が遠いから剣を受けて反撃してきますけど、横は刃が目に入りそうだから避けるんです! そうと分かれば――」

 アイリが寝そべり、ライフルを構える。

 うじゅる……!

 ヒヒヒヒ……!

 意図を読んだのか、触手が私達を無視してアイリに襲いかかり、カミソリのような風を纏わせた魔法をクラウドデーモンが放ってきた。

 「こんの!」

 「ソキウス、触手を片づけるぞ!」

 「がってんだ!」

 「≪マジックアロー≫です! んもう、数が多いですよ!」


 「大丈夫です……! 一発で仕留めます……」

 切り裂かれながらも狙いをつけるアイリ。

 ターン!

 ビシッ!

 うじゅ!?

 見事、バインドギャザーの目に弾が刺さり、ギャザーがビクンと震えた! だが、まだ触手は動き、アイリを締め上げ始めた。

 「ぐ、うう……!」

 「しぶといんだよっ!」

 ズブリ……!

 ソキウスがトドメとばかりに目玉へ剣を刺すと、緑の液体を撒きながらしおしおと小さくなっていった。そしてバインドギャザーの援護で隙を見せたクラウドデーモンもセイラの魔法で氷漬けにされた。
 
 「まったく手間を取らせてくれるわね……ニールセンさん!」

 「分かっています!」

 クラウドデーモンが粉々になり、霧散する。

 「ふう、結構強かったわね……」

 「……そうだな。こいつらが大軍できたら相当厄介だ」

 私が息を吐いて言うと、お父さんが触手を手に取りながら返してくれた。正直なところ、全員地上にいたらバインドギャザーに苦戦していたと思う。まあ、アイリかユウリの銃とカイムさんのシュリケンみたいな武器もあるから何とかなるとは思うけどね。

 「また出てこられても厄介だ、先へ進もう」

 「そうしましょう! 大丈夫、対処は分かりましたから」

 フレーレがユウリの手から降りてそう言うと、フレーレの後ろ、つまり私達が来た方向を見て目を見開く。

 「……先に進むのはまったく同意だね……対処は分かったけど、あれはいくらなんでも酷いんじゃないかな」

 「ん? ……げ!?」

 レイドさんが珍しく下品な驚き方をしたけど、無理はない。あのバインドギャザーが群れを為してこちらに迫っていたからだ。

 『あの数は流石に面倒ね、私が一発大きいのを撃つから走るわよ! ≪ホーリーバースト≫!』

 アルモニアさんがすかさず白い光の玉を作って投げつけると、地面に落ちた瞬間大爆発を起こす!

 「……走れ!」

 みんながノゾムの声で走りだす!

 「うわ!?」

 「お、落ちるです!」

 「いった!? 矢印床ぁ!?」

 だが、先に進むとあの矢印床は所々にあり、なんと天井にもあった。もちろん天井で踏むと真下へまっさかさまに落ち、誰かにぶつかるというのを何度か繰り返し――

 バタン!

 「はあ……はあ……つ、ついた……」

 何とか85階へ繋がる扉の向こうへ行くことができた。あの矢印はこっちを混乱させるためにあったのか……やれやれ……



 

 ◆ ◇ ◆


 うじゅる……うじゅる……



 「うへ……気持ち悪いな……」

 「ほっほ、戦わなくていいのは楽ですねぇ」

 「あ、ダメよリンちゃん! それは食べ物じゃないから!」

 「にゃん?」

 「さて、次は中ボスってやつね。何が出て来るのか……」

 「なあ、下着見えてるけどいいのか……?」

 「大人になると気にならないものなのよ?」

 「ほっほ……きわどい下着ですねぇ……」

 「おお、師匠が引いてる……初めて見たぜ……」
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