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最終部:タワー・オブ・バベル

その363 解決

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 「先に進んだ方が早いと思う?」

 「仕掛けの解除を考えたら戻るより進んだ方がいいと思います。戻っても戦力が補充できるわけではないですし」

 マッピングとにらめっこしながら私が呟くと、前を歩くカイムさんがこちらを見ないで答えてくれた。やっぱりそうだよね。

 『ボクもかなり慣れてきたからさっさと根源を探そう。と言っても真っ直ぐに進むしかないんだけどさ』

 「がう」

 矢印床が終わった後は曲がり角はあれど分岐路は無く、ひたすら歩くだけだった。それと魔物だけど、時折見つかる部屋を開けて魔物と戦うことがあるくらいで、通路をうろうろしている魔物が少なくなってきた気がするわね。

 「あ! 十字路ですよ!」

 「本当だ。僕も見て来よう」

 「助かる」

 フレーレが声を上げた視線の先を見ると、私達が歩いている通路とは別に三つの通路が見え、カイムさんとユウリがそれぞれ、左右の顔を覗かせて様子を伺う。正面の通路は見て分かるからね。

 「……問題なし」

 「……問題あり」

 『オッケー、それじゃあ行こう!』

 「ちょっと待ってください! 今ユウリさん"問題あり"って言いましたよ!?」

 フレーレが止める間もなくエクソリアさんが十字路へ足を踏み入れると、ヒュン! と、一瞬で目の前から消えた。

 『ああああああ!?』

 「あの駄女神が……ノゾム!」

 「ああ」

 いつの間にかくくりつけていたワイヤーを引き、エクソリアさんが角に頭をぶつけながら戻ってくる。

 『いたた……紛らわしい言い方はやめてくれないかな』

 「いえ、ちゃんと聞こえてましたけど……」

 「がう」

 レジナもうんうんと頷き、エクソリアさんは口をへの字に曲げて黙ってしまう。それはともかく、一体何があったのか?

 「罠?」

 「ああ、カイムの方には何もないけど、僕が見た通路の奥に巨大な黒い塊があった。それが原因だと思う」

 「どれどれ……」

 私がそっと覗くと確かに壁のような場所に黒い塊がくっついている。マップを見るとそこに辿り着けばほぼ中心に近いのでここが目的地に違いない。

 「あれを壊せば終わりですね! 吸い込まれたらどうにかなっちゃいますかね?」

 「分からないが、少しずつ近づく方法はある」

 ユウリがノゾムを見ると、ノゾムは頷き腕に仕込んでいるワイヤーを外し口を開く。

 「……こいつで誰かをくくりつけて接近して破壊する」

 なるほど、でも何が起こるか分からないことを考えるとかなり危険な行為だ。でも私なら軽いし、重力の反動を受けないからここは私が行くべきだろう。

 「それなら私が行きますよ。みんな戦ってくれたりしているし、役に立ちたいわ」

 「わたしでもいいですよ?」

 「体、重いでしょ? 私はほら、こんなに動けるから!」

 ぴょんぴょんと跳ねて主張すると、仕方ないと言った感じでフレーレが納得してくれた。そして作戦は決行される!

 「っしょっと……凄い勢いね……」

 「気を付けてくださいね!」

 「……確かに軽いな……あの鎧だけでも結構あると思うんだが」

 『ボクの作った装備品だからね。天界へ戻ったらあれくらい余裕なんだけど』

 「今はただの駄女神だけどな」

 「はは……」

 『くぅ……神裂を倒したら覚えてろよ……』

 エクソリアさんが言い負かされている声がだんだん遠くなり、黒い塊に近づいてきた。ただの塊じゃない……バチバチと雷を出している……? 

 「吸い込まれるとどうなるのかしら」

 好奇心でカバンから昔使っていた鉄の剣を取り出して私は黒い塊に吸い込ませる。

 ヒュン!

 ……バヂバヂバチ!!

 「うひゃあ!?」

 鉄の剣が黒い塊に触れると激しい音と共に黒こげになってボロボロと崩れ落ちた。怖っ!?

 「これ、斬って大丈夫なのかしら……?」

 <心配するでない。切れ味は一級品じゃから一気に切断すれば影響は少ないハズじゃ>

 私が躊躇しているとチェイシャが語りかけてくる。それに続きファウダーも言う。

 <ルーナの周りに展開しているバリアもあるし一気にやっちゃいなよ!>

 「あ、ありがとう……」

 怖いけど、手がかりがこれしかないので、私は持っていた剣を握り直して黒い塊へ振り下ろす!

 バヂ……スコン!

 一瞬弾けたけど、あっけなく竹を割ったような音と共に真っ二つに割れる黒い塊。その直後、轟音とともに――

 「む、体が軽くなった」

 「見てください! 壁が!」

 フレーレの叫び声が響くと、横にあった壁がゴゴゴゴ……と下がっていき、広々とした一つのフロアになった!

 「うわ、広い……」

 「……こういう仕掛けだったか。他にも矢印床や落とし穴が満載だな」

 フレーレ達に合流し、改めて見てみると罠がたくさんあった。別の矢印の床を踏んでいたら他の罠にかかっていたみたいで、ある意味私達はラッキーなルートを通ってきたらしい。

 「それじゃ、レイドさん達のところへ戻りましょう!」

 
 罠や落とし穴を避けてレイドさん達の待つ入り口へと歩き出す。程なくして到着すると、みんなフロアに出て出迎えてくれていた。

 「やったな! 重力も戻ったし先に進めるぞ」

 「ルーナが壊してくれたんですよ! カイムさんやユウリさん、ノゾムさんも大活躍でした!」

 「がう」

 「うんうん、レジナもね」

 『ボクは!?』

 悲痛な叫びをするエクソリアさんはスルーされ、出口へ向かって歩き出す。恐らく壁沿いのどこかに扉があるだろうとひたすら歩き続けて――

 「よ、ようやく見つけた……」

 「広すぎんぞ……」

 「歩き疲れたです……」

 無駄に広いフロアの一番端の一番角に扉があった……時間は元に戻っていたけど、すごく時間を取らされた。

 「お父さん……こんな意地悪をして……許さないわ……」

 アイリがぶつぶつ言うのを隣で聞きながら私達は84階へと続く扉をくぐった。


 ◆ ◇ ◆


 「ふむ、何とかなったようね」

 「あまり時間がかかるようなら出向くつもりでしたがね。ほっほ……」

 「手の込んだ真似をしてくれるぜまったく……」

 「それは仕方ないわ、向こうは完全に力を手に入れるまで時間稼ぎをしたいわけだからね。さ、追いかけるわよ」

 「(それは分かりますが、あの男がその程度の思考で動いているとは思えないんですよねえ。体を乗っ取られていた私だから言えることですが……もっと恐ろしい罠が待ち構えているような――)」
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