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最終部:タワー・オブ・バベル

その360 休息という罠

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 <バベルの塔:82階>

 
 程なく82階へ到着した私達は、普通に迷路となっている通路を進む。 

 グォォォォ……

 「ふう、今ので最後か?」

 「……ですね。カイムさん、魔物の気配は?」

 「大丈夫です。進みましょう。しかし、中々進めませんね……」

 カイムさんが先頭で少し焦った様子で声を出す。それも無理もない、一つ下の階で戻れなくなった上に魔物が多い。恐らく半分は進んでいると思うけど、この時点で時間は早朝。下の階でもそういうことはあったけど、この階からは少し異質な感じがする。

 「ふあ……」

 なんだか気持ち悪い模様が書かれている壁を触っているとフレーレがあくびをしたので、私はつられてあくびをしてしまう。

 「あふ……そういえば夜中に出て来たんだったよね……」

 「時間の感覚が分からないからね。一旦休憩をしようか」

 レイドさんがそう言って通路に荷物を置き、みんなにそう言うと、やはり疲れはあるのか壁を背にしてそれぞれ座りこむ。そういえば、と私はフレーレに隻眼ベアから作った胸当てをフレーレに渡す。

 「いいんですか?」

 「うん! 私はカームさんの形見があるし、ローブの下になら着けられるでしょ?」

 「ありがとうございます。下の階でデッドリーベアに会いましたけど、あの時のことが随分昔に思えますね」

 私から胸当てを受け取って装着するフレーレはまた大きくなっているような気がする。どこがとは悔しくて言えないけど。

 「そうねー。あの時はフレーレも私も全然強くなかったから、おっかなびっくりだったもんね」

 私とフレーレが思い出話をしていると横でカルエラートさんがしみじみとバステトを見て呟く。

 「サンドクラッドでもカームには助けられたな……。その内、また話してくれるんだろう?」

 <そうだにゃ、しばらくすればチェイシャ達みたいに意識が覚醒するはずだにゃ。私もカルエラートに魔王城へ連れていかれた日が懐かしいにゃ。でもあともう少し、神裂に辿り着きさえすればこの騒動も終わるにゃ>

 「変な王様はみんな消えちゃったし、これからもっと国同士が仲良くできるといいわね……」

 シルキーさんがうとうとしながらそう言うと、アルモニアさんがきょろきょろしていることに気付き、私は声をかけた。

 「どうしたんですか?」

 『……この階、あの世と同じ感じがするわね』

 『姉さんもそう思うかい? ボクもこのフロアに入ってからそういう雰囲気がしていたよ。まあ、そろそろ近いってことだろう』

 「あの世……」

 異質な感じはそのせいなのかしら……? 私に群がってくるレジナ達を撫でていると、ノゾムがシルバに引っ掻かれながら口を開く。

 「わおん!」

 「痛い。 ……確かにここはあそこに似ているな。俺達もこの世界に来る前にいた白い場所はこんな空気だった」

 「そういえばお前達は一回死んでいるんだったな」

 レイドさんが引っ掻かれながらもシルバと遊ぶノゾムに声をかけると、アイリが答えていた。

 「ですね。お父さんが何を考えているか分からないけど、もう一回死ぬのは勘弁してほしいです……まあ皆さん強いですし、カイムさんも罠をきちんと外してくれるのですぐに辿りつけそうですけど」

 「そ、そうだね」

 ニコッと笑いかけると、カイムさんが顔を背けて返事をした。おや……?

 「(ねえ、アイリはどうしたの? 何かあった?)」

 「(僕に聞くなよ……フレーレと一緒にご飯を持ってきたろ? あの時、色々と話していたんだよ)」

 それだけ言ってユウリはごろりと横になる。見ればフレーレはシロップを抱っこしてすでに眠っており、他のみんなも座ったまま目を瞑ったりして休息を取り始めたので私も少し眠ろうと目を閉じた――


 
 ――どれくらい時間が経っただろうか?

 「ガウガウ!」

 (おっと、流石にいい鼻をしているわね)


 「はっ!?」

 レジナが吠え、私は目を覚ます。もしかして敵!?

 「……あれ? 別に何もないわね……?」

 体もゆっくり休息を取れたようでかなり楽になったので、立ち上がって伸びをすると他のみんなも次々と起きてきた。

 「ん、んん……ふわ……おはようございます……すごくスッキリしましたね……」

 「私もよ。レイドさんは?」

 「俺も調子がいいな……変な体勢で寝ていたのに……」

 俺も私もと口にしていると、カルエラートさんが叫んだ。

 「ああー!? わ、私のカバンが荒らされている!? ……食料が減っている……」

 「ええ!?」

 見れば確かにカバンの口が開いていて、いくつかの料理が散らばっていた。

 「他は大丈夫かしら?」

 私がそう言って、各自持ち物をチェックするが、カルエラートさん以外は無事だったようだ。私はマジックバッグだから私しか開けられないしね。

 「食料を狙った魔物か? それにしてはレジナ達が反応しないな……?」

 「くぅん?」

 「きゅきゅん?」

 「きゅふん?」

 尻尾をパタパタと振り、首を傾げるシルバとシロップにラズベ。だが、それよりも大きな問題が発生していた。

 「ル、ルーナ! 大変です! 時間が……!」

 フレーレが焦って時計を私に見せてくる。時間がどうしたのだろうと思って見てみると――


 「夜中……!? 私達が寝たのは早朝だったはずよ……」

 『これは……!? みんな、急いで移動するんだ! できれば次の階まで行くぞ!』

 エクソリアさんが時計を見て慌てて叫ぶ。

 「ど、どうしたんですか?」

 『時間の流れがこの空間だけ早いんだ! 気付かなかったのは最初はゆっくり進めていたんだろう……ボク達が休んだのを見計らって一気に進めたというところか』

 「しかし、外の時間は変わらないのでは?」

 ニールセンさんが疑問を口にすると、エクソリアさんは続ける。

 『ボクの時間をどんどん進ませられると、この空間だけで歳を食うよ? 次の階に行く頃にはお年寄り……そいうことだ』

 「う!? それはまずい! 早く行こう!」

 なぜかカルエラートさんが急いで料理を片づけて立ち上がると、先頭に立って言う。私もこの歳でおばあちゃんは嫌だしと準備をする。

 「きゅんきゅん!」

 そこでシロップが地面に向かって吠えているのが聞こえてしゃがみ込む。

 「これ、食べ物の汁……!」

 休息をしていた少し先に、点々とカルエラートさんお手製の肉じゃがの汁が床を濡らしていたのだ。

 「本当だ、逃げて行った魔物かしら? これを追えば階段に行けるんじゃない?」

 セイラの提案にレイドさんは顎に手を当てて考える。

 「罠と言う可能性もあるが、闇雲に歩くよりはいいか……?」

 するとカルエラートさんが――

 「犯人がいるならとっちめておきたい。行こう!」
 
 私達は出口を探しながら、料理を盗んだ犯人を追いこむため移動を始めた。



 ◆ ◇ ◆



 「持ってきたわよ」

 「ありがてぇ……! くうぅ……空腹じゃなくても何気に美味い飯だ……!」

 「ほっほ。カルエラートさんは料理上手でしたからねぇ」

 「そういや師匠は同じパーティだったんだっけか」

 「ええ。神裂に体を乗っ取られてからは色々な人に迷惑をかけましたが……」

 「でも、神裂も適当に狂気を振りまいていた訳では無かったんでしょう?」

 「そうですね。だからこそ、真意を聞かねばと思ってここに居る訳です」

 「となると早いとこルーナちゃん達に来てもらわないとね」

 もぐもぐと盗んだおにぎりを食べながら、82階へ向かう階段の前でフードの三人はルーナ達の到着を待つのだった。
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