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最終部:タワー・オブ・バベル

その359 突破

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 町の外で慌ただしく戦闘の音が響く中、私達はレイドさん達が来るのを待つ。一気に抜けた方がいいだろうと、ブラウンさんとモルトさんが馬を貸してくれたのだ。馬を引いて来てくれたミトが心配そうな顔で私達を見上げてくる。

 「ルーナお姉ちゃん、気を付けてね」

 「大丈夫よ、今までだって帰ってきてたでしょ? ミトは危ないと思ったらモルトさんと逃げるのよ?」

 「だ、大丈夫なんだな。お、俺がミトを守るんだな」

 移道具屋の息子タークが胸をドンと叩いて鼻息を荒くする。だが、それを見てチェーリカが憤慨し、叫んだ。

 「ミトに手を出したら許さないですよ! ミト、変なことをされそうになったら大声で人を呼ぶです。後、タークとは二人きりに絶対ならないこと」

 「お、俺はそんなことしないんだな!?」

 「まあ、日ごろの行いってところかしら? それよりお兄ちゃん達まだかしら」

 チェーリカがタークを牽制していると、セイラがレイドさん達のことを呟く。装備を取りに行っただけだからすぐ戻ると思うけど……
 
 「わんわん!」

 カルエラートさんと一緒に荷車を用意していると、シルバが吠え、視線の先を見るとレイドさん達が駆けてくるのが分かった。少し遅れてきたシルキーさんとクラウスさんが先に馬車へ乗り込みぼやく。

 「みんなで行くって言った途端に拠点が襲撃されるなんて出来過ぎているわね」

 「狙ってやがったと考えるのが妥当だろうな。なあレイドさん、俺とシルキーは残るか?」

 もう一台の馬車に乗りこんだレイドさんにクラウスさんが声をかけるが、レイドさんはクラウスさんの方は見ずに即答していた。

 「エリック達が残れば十分戦えると思う。回復魔法が使える人間もそれなりに多いしな。それじゃルーナ、頼めるか?」

 全員乗りこんだのを見てレイドさんが私に尋ねてくる。もちろんそれは予測済み!

 「≪クイックシルバー≫!」

 加速する補助魔法を使い、馬が夜の闇の中でほのかに光ると、御者をしているレイドさんとクラウスさんが馬車を走らせた。

 「ブルヒーン!」

 「ガウガウ!」

 「わおーん!」

 「きゅんきゅん」

 「きゅふーん」

 「すまない、前を開けてくれ!」

 「は、はい! お気をつけて! こちらはエリック隊長たちと何とかします!」

 ドドドドド!

 負傷者との入れ替わりで待機している騎士達が入り口を開けると、二台の馬車と、横を追従するレジナとシルバが拠点の外へと躍り出る!

 ゴァァァァァ!

 「ガウウウ!」

 ブシュッ!

 拠点を出て少ししたところでフォークを持った魔物が道を阻んでくる。だが、スピードアップしているレジナに首を掻っ切られて絶命。さらに道を塞いでくる魔物にシルバが加速して突っ込んでいく。

 「わうううう!」

 ゴキン!

 「やるわねシルバ! 私も!」

 ヒュヒュン!

 ドッ! ドスドス!

 レイジングムーンで荷台から遠目の魔物を狙い、大きなパイロンスネークとマンディスブリンガーの頭に突き刺さった。

 「とどめー!」

 フラフラしている魔物達の首をエリックが刎ねてトドメをさす。私達だと分かると手を振って叫んできた。

 「任せたよー!! 無理しないようにねー!」

 「そっちもー!」

 ガラガラとけたたましい音を立てて、馬車はそのまま転移陣を踏み、馬車ごと80階へ侵入。急に出てきた私達にフレーレがびっくりして立ち上がるのが見えた。

 「わっ!? み、みなさん!?」

 「ブルヒヒーン!!」

 「どうどう!」

 「ほら、止まれってんだ」

 「どうしたのルーナさん、馬車ごと入ってくるなんて」

 馬車が止まるとフレーレとアイリ達が寄ってきたので、荷台から降りると、ポカーンとした顔のフレーレがボソリと呟くのが聞こえた。

 「荷台がついた二台の馬車……」

 ガクッと、聞こえていた人たちはバランスを崩すが、私はとりあえず状況を簡単に説明する。

 「……父さんの仕業か? この先が過酷だとか、俺達は必ず来るようにという、来てほしいのか来てほしくないのか分からない声は聞こえていた。父さんはあんなのでも頭脳は天才と言っていいくらいの人間なんだ、本気になったのなら心して進もう」

 「仮とはいえ、お前達の父親を倒すことになるかもしれないが大丈夫か?」

 「覚悟の上さ。僕達は一度死んでいる。父さんだってそうだ。そういうことになっても後悔は無いよ」

 ノゾムとユウリの言葉にアイリも無言で頷く。魔物を発生させないよう、いつの間にか遠くに居た騎士達に挨拶をし、馬を預けて81階への扉に手をかけた。

 「それじゃ、残り20階、切り抜けるわよ」

 私、レイドさん、フレーレ、カルエラートさん、セイラ、ニールセンさん、カイムさん、チェーリカ、ソキウス、シルキーさん、クラウスさん、ノゾム、アイリ、ユウリにお父さんと女神二人総勢17人が階段を駆け上がる。

 この、階と階を結ぶ階段にはいつも通り魔物の気配は無く、すぐに81階へと到着。カイムさんが扉に罠が無いことを確認すると、レイドさんとクラウスさんが蹴破って開く。しかし目の前の光景に私達は目が点になる。

 「何も……ない?」

 フレーレが呟くが、無理もない。そう、何も無いのだ。魔物もいなければ迷路でも無く、奥に次の階へ行くための扉があるだけ……

 「床に罠があるかもしれない、ゆっくり進みましょう」

 ニールセンさんがおニューの鎧をガシャガシャさせながら前に出てくれた。そこでノゾムが入り口のすぐ横に立て看板があることに気づく。

 「……看板か? どれ……『建設中』だと……?」

 「手抜き工事じゃない!?」

 アイリが叫ぶと、ユウリが肩を竦めてやれやれと口を開く。

 「間に合わなかったのかわざとなのかわからないけど父さんらしいや。本当に何も無い可能性が高いよ」

 そう言ってスタスタとカイムさんのところへ歩き、手招きをするユウリ。

 「大丈夫そうね。82階へ行きましょう」

 ぞろぞろと全員が部屋に入り、少し歩くと異変が起きた。

 ゴゴゴゴ……

 「な、何だ?」

 「あ!? 後ろです!」

 チェーリカが指した先を見ると、床が消えはじめた!

 ガコン! ガコン!

 規則正しく消えて行く床の底は見えない。落ちたら80階に辿り着くのだろうか? そんな考えがよぎったけど、今はそれどこれではない。

 「急いで! 落ちたらアウトよこれ! ≪アクセラレータ≫!」

 ガコン! ガコン!

 みんなに補助魔法をかけて一気に扉まで走る私達。すぐに扉の前に到着したけど、鍵がかかっているようで、カイムさんが必死に開錠を進める。

 「カイム、まだか!」

 「もう少し……ここを……」

 カチン

 「よし! みなさん、早く!」

 なだれ込むように中へ入ると、最後の床がガコン! と、消え、暗く吸い込まれそうな巨大な穴だけが残った。

 「……戻れなくなったか」

 『全てが終わるまで帰すつもりはないってことね』

 お父さんの呟きにアルモニアさんが答えると、エクソリアさんは階段の上を見ながら不敵に笑う。

 『受けて立とうじゃ無いか。どうせ行かなければならないんだ、頼んだよ君達……な、何だいそんなに見つめられると照れるじゃないか』

 ――自分は何もしないのか、というみんなの無言の視線がエクソリアさんに突き刺さっていた。

 それはともかく、次はどんな罠があるか気をつけないとね。




 ◆ ◇ ◆


 「ほっほっほ。出遅れましたね」

 「床を丸ごと消しやがったのか……誰も落ちてないみてぇだが……」

 「鍵はやはりルーナね。彼女が居れば先に進める……神裂が欲していた理由は分からない?」

 「残念ながら、子を作るという目的くらいしか」

 フードの三人は大穴を前にしてやり取りをしていたが、その内一人が頭を掻きながら尋ねる。

 「で、どうすんだ? 俺達は向こう側に行けないぞ?」

 「何言ってるのよ。いけるじゃない。ね、リンちゃん」

 「にゃーん♪」

 「さ、乗るわよ」

 「そういや飛べるんだったな……」

 フードの三人組はあっさりと大穴を渡りルーナ達の後ろにつくことができた。

 「このまま着いていればいいけど、ね」
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