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最終部:タワー・オブ・バベル
その346 正体
しおりを挟む<ぬぐ……!?>
カームは眉間へ向けられた剣をギリギリのところで回避し、左目に傷を負う。心臓を貫いていた腕を引き抜いてすぐに距離を取るが、ストゥルはさせまいと間合いを詰めてきていた。
「威勢がいいのは口だけのようだな」
ガキン!
ストゥルの追撃を爪でガードし、そのまま力を拮抗させ動きを封じた。
<チッ、伊達に神裂の元に行ったわけではないか。だが、ホイットは終わりのようだぞ?>
「なに!?」
チラリと視線を動かすと、黒いオーラを纏った闇の剣でホイットが斜めに斬り裂かれていた。赤か、紫か分からない濁った血を噴きださせながらホイットが膝をついて胸を抑える。
「さらばだ、ホイット!」
【ぐぐ……カルエラート……!】
「ホイットー!?」
助けに行こうとストゥルが動こうとするが、カームがそれを許さない。これであと一人、誰もがそう思っていたが――
【クク……甘いなぁ!】
「え!?」
スカッ!
【大盾も懐に入れば意味を成すまい!】
ドゴ!
「うぐ!? お前……その傷で動ける訳が……」
今まで苦しんでいたはずのホイットがカルエラートの剣を軽々と回避し、バランスを崩したカルエラートの脇腹を殴りつけた!
【傷? どこにそんなものがあるのかね?】
カルエラートを床に転がし、首を鳴らすホイット。そしてカームを蹴り飛ばし、ストゥルが笑う。
「クク……驚いたか?」
<面妖な。何か仕掛けがあるに違いない、カイム、俺と一緒にこいつを止めるぞ!>
「はい! フレーレさん、お気をつけて!」
「任せてください! レイドさん、私も戦いますね」
「あまり無茶をしないでくれよ? ニールセンと俺で攪乱しながらカルエラートから引き離す。そこでフレーレちゃんが助けに入ってくれ」
「分かりました! 『聖魔光』」
フレーレがメイスに聖魔光を使いレイド達の後ろに立つと、ニールセンがホイットへ飛び掛かる。
「お前の相手は私だ!」
「騎士団長に向かってお前とは何事か!」
カキキキン!
「鎧のつなぎ目を!?」
長剣で器用に鎧の留め金を壊し、バラバラと落ちていく。そこへ胴体目がけて横薙ぎに剣を振るってくるホイット!
「死ね、ニールセン。聖女の前でな!」
「くっ……回避を……」
「下がるな! 前へ出ろ! ホイットの剣は俺が止める!」
【小癪な!?】
キィン!
横からレイドの蒼剣が伸び、ニールセンに向かっていた剣が軌道を変える。その隙にニールセンが踏み込んでホイットの腕を切り落とした。
「やった!」
【喜ぶな馬鹿者めが!】
「ぐあ!?」
「馬鹿な!?」
なんとホイットは、切り落とされた剣を持つ腕を空中で拾い、その腕を振り回してレイド達に斬撃を浴びせてきた。
「≪リザレクション≫!」
ゴロゴロと転がって逃げる二人に回復魔法をかけるフレーレ。追撃が来ることも見越して構えていたが、ホイットは腕をつけるためその場を動いてはいなかった。
【まあまあいい攻撃だったが……私には効かん】
「化け物め……!」
レイドが呟くと、ストゥルがカイムの剣を避けながら愉快そうに答えてきた。
「化け物か……まあ、そうかもしれん。さて、お前達はこの80階に来るまで一体何と戦ってきたかな?」
「どういうことだ……!」
<よせ、カイム、戯言だ>
カイムが刀を振るい、カームが爪で追いこむ。いくつか大きなダメージになるような攻撃もあったが、ストゥルもホイットと同じくものともせず反撃に出てくる。
「うおお! ホイット!」
【『様』だろうが!】
上半身の鎧が無いニールセンが血を流しながらも斬りかかり、その影からフレーレが飛び出す。ニールセンは囮だった。
「こっちにもいますよ!」
【ふん、僧侶ごときが――うぐお!?】
下から振り上げたフレーレのメイスを、やはり片手で受け止めるが、ホイットの手がジュッ! と、焼けるような音がし、焦げ臭い匂いが漂い始めると、ホイットは距離を取るため慌てて後ろに下がった。
【ふう、今のは中々だったぞ】
そこで、部屋の外にいたヴァイゼが目を細めてポツリと口を開く。
「……今まで戦ってきた……フレーレの攻撃……そういうことか」
「何か分かったのかなー?」
エリックがヴァイゼに尋ねると、ヴァイゼは大声で叫んだ。
「そいつらはアンデッドだ! デッドリーベアや各国王と同じだ!」
ガキン!
「く!」
ヴァイゼがそう言うと、カイムを弾き飛ばしてストゥルがパチパチと拍手をしながら歓喜の声をあげた。
「その通りだ! 色々と考えた結果、お前達と相見まえるには、痛みを感じず生きながらえることが出来るアンデッドが最適と判断した! そして我等はキメラ。お前達を始末した後、アンデッドを解除することも可能……」
「ってことは、デダイトは実験台だった。そういうことかなー?」
エリックが憤りながら尋ねると、ホイットがエリックへ向きなおり口を歪めて言う。
【そういうことだ。トラウマで出現する魔物や人物を全てアンデッドに変えた。だから聖女であるセイラと相対すると色々と面倒そうだったから先に連れてきたと言う訳だ。そして――】
得意気に喋るホイット。尚も喋り続けようとしたところへ、フレーレが魔法を放つ。
「そういうことでしたらわたしが! 『生者と死者、その境に生きる者に安らかな眠りを与える……その遺言に異を唱えることまかりならん……《エグゼキュート》』!」
「それはチェイシャのダンジョンでチンピラ冒険者を消した魔法か!」
レイドが叫ぶと同時に、ホイットの足元から光が奔流し包み込む。以前ならここで完全に消滅していたが――
【暖かい光だな。もう終わりか? ≪フレイムストライク≫】
「そんな!? ああ!?」
「どういう……うお!?」
「ぐあ!?」
驚愕の表情で後ずさるフレーレに向かってホイットがフレイムストライクで反撃をし、レイド達三人が爆炎に巻き込まれた。
「馬鹿め、アンデッドだと教えるのにそんな弱点を残しておくわけがないだろう? 我等の体はキメラとアンデッドの融合。心臓の代わりにコアがある。が、それも弱点たりえない。いや、弱点を克服したと言うべきか」
『どういうこと?』
アルモニアが首を傾げ、構わず話を続けるストゥル。
「コアを分けたのだよ。片方がいくら壊れようとも、もう一つが無事ならいくらでも再生が効く、そういうコアだ。もう一つのコアはここには無い。そして、それを教える必要もない」
「そんなはずあるものか!」
ザクッ!
カイムが喋りに夢中で無防備なストゥルの背中を串刺しにする。が、ギギギ……と首を有り得ない方向へ向け、カイムへ笑いかける。
「無駄、だろう?」
<避けろカイム!>
「ぎゃあああ!」
カームが飛び掛かるも、一瞬遅く、カイムの掴まれたカイムの腕がボキリと肘から折られた。膝から崩れたカイムにトドメを刺そうと頭に剣を振り下ろすが、間一髪、カームが咥えて逃れることができた。
【まあ、それでも僧侶は不愉快だ。動けないよう足の一本でももらっておくか】
「う、うう……」
フレイムストライクの爆発で思うように動けないフレーレの頭を掴んで持ち上げると、剣で足を切り落とすためピタリと太ももに刃をあてる。
「よ、よせ……!」
【問題ない。お前達が全滅すればきちんとくっつけてやる。その時は私達の人形だろうがな】
「うう……! 外れません……!」
聖魔光をまとった腕で掴まれた手を外そうとするがビクともしない。そこにユウリが見えない魔法壁を叩きながら叫ぶ。
「こら! 止めろ馬鹿! カイム! しっかりしろ!」
【吠えていろ、ではまず一人目――】
「――!」
ぐっと刃が押し当てられたのを感じたフレーレが目を瞑る。しかし、その時だった!
「わおわおーん!!」
「ガルルルル!!」
【なんだ!? お、狼!? どこから!?】
「きゃ!? あ! レジナにシルバ!」
「わんわん♪」
ホイットがフレーレを取り落とし、尻餅をついて見上げると、レジナがホイットの顔に噛みつき、シルバがフレーレの顔を舐めてじゃれていた。
「どうしてここに? ルーナと一緒に残ったんじゃ――」
フレーレが立ち上がると、魔法壁の向こうで、久しぶりに聞く声が響いて来た。
「よ、ようやく……はあ……はあ……お、追いついたわ……! はあ……はあ……つ、疲れた! もうボス部屋だし、間に合わなかったじゃない……!」
「ル、ルーナ!?」
レイドがその声に驚き、慌てて立ち上がっていた。
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