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最終部:タワー・オブ・バベル

その338 変質と人質

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 「あ、うう……」

 「た、助け……」

 ズシンズシンと肉塊がレイドやフレーレ達の元へと歩いてくる。

 『これは下にいたビューリックの国王と同じく、合成魔キメラだね。だけどこんな数を合体させるなんて正気じゃない……神裂め』

 エクソリアが舌打ちをして構えると、アルモニアも槍を取り出し……急に明後日の方向へ投げた!

 『ハッ!』

 『姉さん!?』

 こっちも正気じゃないとエクソリアが思っていると、槍が空中で弾かれる。

 ガキン!

 『あれ!?」

 『甘いわね妹ちゃん。あの肉塊は囮。本命はこっちね』

 アルモニアが呟くと、くっくと笑いながら姿を現す人影があった。

 「流石は女神。よく見破った」

 「あなた……いや、お前はホイット……!」

 「おお、ニールセンか! よくここまで来られたものだ! ただの人間が!」

 パチパチと手を叩きながら不敵に笑うホイットを睨みつけるニールセン。そこへレイドが口を開く。

 「お前がここのボスってところか?」

 「そうだな。ここを任されているのは間違いない。その影に捕まれば身動きは取れん。俺が死ぬか、お前達が死ぬかそれまでな。どうだ、カルエラート。こちらに戻って来るならお前は助けてやってもいいぞ? それから聖女の娘は国王……いや、世界の王になるストゥル様へ献上するから活かしてやる」

 「ふん。誰がお前の元へ行くものか。まだ、メイドが居なければ服も着替えられないか? お坊ちゃん」

 「そうよ! お父さんとお母さんを殺そうとしたくせに! お断りよ! 殺さば殺せ! ばーか!」

 「ぐっ……」

 口の悪い二人に怯むホイット。そこへカルエラートとセイラは追撃をかける。

 「陰険」

 「垂れ目」

 「口が臭そう」

 「前髪が生理的に嫌」

 「めちゃくちゃ言うなあ……」

 ユウリが呆れていると、カイムも口を開く。

 「ああ……フレーレさんがああじゃなくて良かっ――」

 「もっと言ってやってください! きっと今までモテたことないですよね!」

 フレーレの言葉にカイムとユウリが遠い目をしていると、流石のホイットが激高した。

 「やかましいわ!」

 「うわ!?」

 <いかん『ソニックウェイブ』>

 ビリビリビリ……! 激高したホイットが魔力を放出し、それをカームが技をもって相殺した。

 「言いたい放題言いやがって……! 聖女以外は殺す! やれ!」

 ホイットが剣を抜いて肉塊へ指示を出し、それと同時にニールセンへと襲いかかった!

 『来るか! ボクはキメラをやる』

 『ならあの陰険騎士は私が引き受けるわね。カーム、援護よろしく』

 ホイットの位置は捕まっているレイド達に近いため、追い払うなら二人がかりだと判断したアルモニア。エクソリアもキメラを迎撃する為立ちはだかる。

 しかし!

 「あうあう……」

 「あー……」

 ドシンドシンドシン!

 『この巨体で……速い!? 光の刃よ!』

 スッと前を向いたまま横移動をするキメラ。目標はフレーレを狙っていた。

 『行かせないよ!』

 「うぐ……痛い……痛いぉぉぉ!」

 ブオン!

 キメラの巨大な腕がエクソリアごとフレーレを吹き飛ばそうとする。だが、その腕はエクソリアの光の刃によって斬り裂かれていた。

 「あ、あ、あ……!? ぎゃぁぁぁ!」

 複数の顔から叫びや悲鳴が発せられ、近くに居たフレーレとカイムが冷や汗を流す。

 『次は足を斬って動けないようにしてやるよ! ……な!?』

 「うおわぁぁぁぁ!」
 
 ボゴ!

 『くっ……!?』

 「エクソリアさん!」

 のた打ち回っているのか思い突っ込んだが、しっかりとエクソリアの動きを捉えて蹴りを繰り出してきた。咄嗟にガードをしたものの吹き飛ばされ、背中から着地する羽目になった。

 「おおおおおん!」

 『げほ……!? 威力がやばい! いや、それよりも速さと正確にボクを狙ってくる動きが厄介だ! いけない!』

 ブオン!

 エクソリアの叫びが響いたその瞬間、フレーレの背中にキメラの拳が襲いかかる!

 「フレーレ! 避けろ!」

 「んー! う、動けませんよう!」

 「お、お前達を倒せば元に戻れる……! 戻れるんだぁぁぁ!」

 キメラに出ている顔の一つが叫ぶ。もうダメだ、フレーレが覚悟をして目を瞑った。

 タン!

 「うぎょぇぁぁぁ!?」

 ズゥゥゥン……

 乾いた銃の音とともに、キメラが大きく後ろの倒れた!

 「ぐ……うう……! な、何とか撃てました……でも、次はもう、無理……」

 「アイリ! アイリ!」

 アイリの構えていたライフルの銃口が、運よくキメラの体の方角を向いていたため、歯を食いしばりながら引き金を引いたのだ。だが、無理をしたため、アイリはガクリと意識を失った。

 『いや、いい援護だ! もうちょっとでフレーレの頭がトマトピューレみたいになるところだったよ!』

 「や、やめてくださいよ!?」

 そのままキメラへ突撃するエクソリア。だが、キメラはゴロゴロと転がり、すぐに立ちあがった。

 『チッ、頑丈さは見た目通りか。どこかに弱点は……』

 エクソリアがぼやくと、アルモニアと戦っていたホイットが一旦距離を置いて得意気に語り出す。

 パチパチパチ……

 「一人くらいは簡単に殺れると思ったが、ここまで来るだけのことはあるな。ちなみにそのキメラだが……連れてきていた騎士を合成させているのは見ての通りだ。それとな……実はその辺の村人や町人も混ぜてある」

 「何!? 貴様、何てことを!」

 激昂するレイドにヴァイゼが声をかける。

 「落ち着けレイド。こいつらはこの塔から出ることは出来ないはずだ。塔に入った後、出てきた様子も無い。村人はブラフだろう」

 「フッフッフ、それはどうかな……まあ、そのキメラは失敗作だ。私さえいれば、問題は無い」

 「そ、そんなぁぁ!」

 「こ、こいつらを倒せば戻してくれるってぇぇぇぇ!」

 「倒せたらな? せいぜい頑張るといい! さて、女神達よ。このキメラ、中に取り込まれている騎士全員分の命を削りきれば止められるぞ! 村人の命ももちろん削られる……そして、女神なら神裂を倒した後、元に戻せるかもな?」

 『汚いわね!』

 ビュオ!

 <腐った男だ。俺の後輩はクズ過ぎるな>

 ガキン!

 アルモニアの槍とカームの爪を返しながら、ホイットは勝ち誇ったように笑い、言う。

 「何とでも言え。勝った方が勝者なのだ!」

 「勝った方が勝者って当たり前じゃない……馬鹿? それを言うなら『最後に残っていた者がー』とかじゃないの? はあー……カルエラートさんが嫌になるのもわかるわ」

 セイラがわざとらしくため息をついて馬鹿にしたように笑うと、ホイットは歯ぎしりをして叫んだ。

 「ぐぐぐ……聖女の娘め……国王の命がなければ即座に首をおとしてやるものを……! ならばこれを見て驚愕するがいい!」

 グググ……と、ホイットの体が膨れ上がり、鎧を破壊する。そしてその後から出てきた姿は――

 「ふう……予想通りだろうが、俺もキメラだ。それも完成された、な。では、続きといこう」

 悪魔のような姿になったホイットが空を飛び、動けないレイド達を狙ってきた……!
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